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都心のアンタレスチャレンジ(撃沈編)

土曜の日中、一部で激しい雷雨に見舞われた東京ですが、夜は予報通り快晴となったので、前回の検討結果を受けてアンタレス付近を狙いに出撃してきました。


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この夜、アンタレスが高度25度以上に上るのは日付が変わった0時ごろなので、そのころからシャッターを切り始めます。ちなみにSXP赤道儀の場合、子午線を挟んで20度以内であれば姿勢の切り替え(Telescope-WestからTelescope-Eastへ)を行わずに追尾を続けられますが、0時ごろのアンタレスの方位はちょうど真南から20度ほど東。反転動作を挟まずに追尾し続けられるという意味でも好都合です。


露出は前回同様ISO100, 7分とし、天文薄明開始直前まで撮影を続けました。結果、得られたコマ数は24コマ。これらをコンポジットすれば、多少はマシな像が得られるでしょう。


トラブル発生


帰宅後、今回はきっちりフラット画像を撮影・作成したのち、処理に入ったのですが……

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フラット補正&コンポジット後の画像を強調してみると、光条のような妙な明度ムラが。等光線図を見ても、画像左側から上側にかけて変な脈理があります(ピンクで囲った部分)。どう見ても星雲由来のソレではありません。


まず疑いたくなるのは、ダークフレームやフラットフレームに異常があるのではないかという点。そこでまずはダークフレームを確認してみますが……

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現像して明暗を強調してみても、特に異常らしい異常は見られません*1


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同様にフラットも異常なし。


となると、実際の撮影時に何かトラブルがあった可能性が高いです。そこで、次に撮影した各フレームをフラット補正後、強調してチェックしてみます。


もし光条の明るさや位置が星に対して不変なら、例えばファインダーや鏡筒・カメラ接続部等からの迷光が疑われますし*2、時間とともに変化するなら、現場の環境に原因があると考えられます。


まずは撮影を開始した0時過ぎのフレーム。

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左下から右上に向かって、すでにうっすらと光条が見えてきています。


次いで1時間後の1時過ぎ。

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等光線図を見るまでもなく、かなり強烈に光条が走っているのが分かります。0時過ぎのものに比べると、画面上での光条の角度がやや寝てきたでしょうか?


そして2時過ぎ。

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光条がさらにはっきりするとともに、角度もさらに寝てきました。また、左上隅にも新たな光条が見えてきています。


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一方、最後のコマを撮影した3時ごろには、一見光条がなくなっているように見えます。しかし、これはおそらく光条が寝て、地上からのカブリの方向とほぼ一致してしまったためで、その証拠に画像上辺が不自然に明るくなっています。また、等光線図を見ると明らかですが、上側1/3位の位置が鞍状に明るくなっているのも光条のせいでしょう。


このように、日周運動とともに光条の位置が変化していることから、原因は現場の環境にあると断定してしまってよさそうです。


犯人は誰だ?


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光条の方向からして真っ先に疑わしいのは、上の写真の矢印のところにあるLED照明です。撮影場所からは南南東の方角にあたります。写真だと手前の構造物に隠れてしまっていますが、地上を照らす3つのLED照明が柱上に固定されていて光量は大変強烈です。ここから上空に漏れた光が写り込んでしまったという可能性はありそうです。


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ところが、さそり座の日周運動と光条の向きを比べてみると、単純にそうとも言い切れません。上の図は、上記で検討に使った各フレームをさそり座の日周運動に重ねてみたものですが、光条の出どころは1点に収束しません(光条の方向に黄緑で補助線を入れてあります)。


もし地上からの光が直接空に投射され、これが写り込んでいるのなら、光条は地上の光源を中心に放射状に広がるはずですが、そうはなっていないのです。しかも、距離を考えれば光源から離れる(西に行く)ほど光条は弱くなっていくはずですが、全くそうはなっていません。


しかし一方で、この補助線(=光条の方向)の形、何かに似ていないでしょうか?……そう、楕円の接線です。


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試しに、南南西よりの位置に中心をおいた楕円を描いてみると、かなりきっちりと光条の方向に接するものが描けます。実はこの「中心」に近い位置にあるのが……


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この正面に写っているLED照明です。写真を見ても分かるとおり、一応地面への指向性はあるのですが、側面への光の漏れも大きく、撮影場所をかなり明るく照らしています。


おそらくはこの光が鏡筒のフードに反射し、迷光として写り込んだのではないかと考えています。普段の撮影では案外気にならないのですが、今回は被写体が南の低空であるためにLEDからの光を拾いうる角度になってしまったこと、また、淡い天体のために強い強調処理が必要であることが、問題を表面化させたのでしょう。


今後の対策は?


正直、普段から「うっとうしい照明だなぁ」とは思っていましたが、実害が出るともなれば捨て置けません。なんらかの対策が必要です。


まず思いつくのは、いわゆる「ハレ切り」と呼ばれる手法です。何らかの遮光板を強い光が来る方向に設置して迷光を抑えるもので、一般にゴーストやフレアの発生を抑えるのに使われます。


遮光板は専用品も売られているようですが、光を遮ることさえできればいいので自作で十分でしょう。ただ、フードのようにレンズすぐそばに装着するタイプにすると、写り込みの危険や、フラット補正時のトラブルのもとにもなりかねないので、ちょっと離して設置できるようにするといいかもしれません。


次は撮影場所の小変更。この公園にはLED照明が何本か立っていますが、本記事冒頭の写真を見ても分かるとおり、南側の芝生の方に出れば、照明を南方に臨まずに済む位置があります。ただ、この場合は足元が柔いので、機材が沈み込まないようにちゃんとした対策が必要ですし、椅子や机も含め、芝生を傷つけないように配慮しなければなりません。台車をそばに置いておきづらいのもマイナス点です。


そして根本的な対策としては、撮影場所の大変更。近くに強い照明がないところを探すわけですが……比較的近所で候補になりそうなところというと、あとはそれこそ多摩川河川敷くらいしか思いつきません。水蒸気が多くて純粋に撮影環境としてあまりよくないですし、なにより治安が……(-_-;


あと、ここは区立公園なので、裏ワザとして区にねじ込んで照明を撤去……というのもチラッと考えたのですが、難しいでしょうかねぇ……?

*1:今回の件とは関係ないですが、周辺回路依存なのか、画像周縁部で明度がわずかに持ち上がっているのが面白いです。ディザリングでノイズが消えるから、とダーク引くのをさぼっていると、こういうところで足をすくわれるかもしれません。

*2:カメラを含めた光学系は赤道儀に載って星の動きを追尾していますから、光条が光学系側に起因するなら、基本的に星との相対位置は変化しないはずです