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SXP2赤道儀発表

昨日26日のことですが、ビクセンから新製品「SXP2赤道儀」が発表になりました。この春に「SXP赤道儀PFL」が突然終売になってから約半年、思った以上に早い新製品の登場です。発売は10月19日。

www.vixen.co.jp

SXP2赤道儀の概要

SXP2赤道儀の仕様等についてはビクセンのサイトに詳細な記載がありますが、主な特長を挙げると

  • テーパーローラーベアリングの採用
  • フォーク式極軸固定の採用
  • ベルトドライブ方式によるバックラッシュの低減
  • 搭載可能重量の増加

といったあたり。2番目と3番目の項目については、先に発売になっている上位機種AXJ赤道儀の技術をフィードバックしたものになっています。バージョンアップとしては順当なものと言えるでしょう。

全体的な外見としては、赤緯体はSXP赤道儀、極軸支持部はAXJ赤道儀からそれぞれパーツが流用されているように見えます*1。一方で、極軸体は新規設計のようです。やや首長のスタイルは、かつてのGPD2を彷彿とさせます。


次に中身を見ていきます。SXP赤道儀PFLやAXJ赤道儀との仕様の比較を行ったのが以下の表です。*2

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まず「赤道儀の基礎体力」ともなる各軸の径、素材については、どれもほとんど差がありません。ウォームホイルはSXPよりわずかに径が大きくなっていますが、2%にも満たない差であり、これに起因する追尾精度の差はほとんど発生しないでしょう。ウォームホイルも、SXPと径は同一(外径を測定、記載するように変更したため数値上の違いが出ているとのことです)。それよりは、やはりベルトドライブの採用によるバックラッシュの低減が期待されるところです。


ベアリング数はSXPより1つ多くなっていますが、おそらくこれはテーパーローラーベアリングの採用に伴うもの。2個以上を組み合わせて使うのが普通のようなので*3、その分増えたのだろうと思います。また、構造的にも見直しが行われたようで、耐荷重はSXP赤道儀より1kg増えています。


極軸傾斜角の調整機構は、SX赤道儀以来使われ続けてきたタンジェントスクリュー式から、AXJ赤道儀でも使われている伝統的なダブルスクリュー式に変更になりました。タンジェントスクリュー式には調整ネジの飛び出し量が変化しないという利点がありましたが、上物の重さによってはスリップするといった指摘*4もあり、確実性を取った結果かと思います。この手の装置は信頼性第一ですから、地味ながらも歓迎すべき変更点です。


一方、極軸望遠鏡は従来品からそのまま。現行機種の極軸望遠鏡はすべて3星導入式の「極軸望遠鏡PF-L」となっていますが、このタイプの場合、北極星のほかに4.3等のこぐま座δ星、5.1等のケフェウス座51番星を所定の位置に導入する必要があります。しかし、空の暗いところならともかく、この暗い星々(特にケフェウス座51番星)を街なかで導入するのは至難の業で、実際にはほとんど使い物にならないといっていいと思います*5。本気で撮影に使うなら、PoleMasterなどの導入を考慮したいところです。一応、ポーラーメーター取付用のシューが装備されているのがまだ救いでしょうか……。


また、細かいところを言うと、SXP2赤道儀単体で購入する場合、1.9kgのバランスウェイトが付いてきません。新型になって重量バランスの分布が変わったせいかとも思ったのですが、鏡筒とのセット商品を見ると相変わらず1.9kgと3.7kgのウェイトが付属しているので、そういうわけでもなさそうです。そのため、これまで使ってきた赤道儀を下取りに出してSXP2を導入しようとすると、別途数千円のバランスウェイトを追加購入せざるをえない場合がありうるので、その点は要注意です。


価格は、SXP赤道儀PFLの税抜希望小売価格40万円から52万円へと大幅アップ。上位機種の機構を取り入れた結果とはいえ、かなりの金額です。とはいえ、実売価格ベースでみるとSXPが1割5分引きなのに対してSXP2は2割引きとなっており、価格差はいくぶん縮まります。一方でAXD2やAXJは基本的に値引きはなく、その点で上位ラインとは線引きされています。


価格帯的にはちょうどタカハシのEM-200FG-Temma2Z(税別43万5000円)と同程度で、ここにモロにぶつけてきた形。ますますハイアマチュア向けの色彩を強めてきた感じですが、色々な意味で自信の表れなのだろうと思います*6。実際の性能は使ってみないと分かりませんが、SXP赤道儀の使い勝手の良さをそのまま受け継いでいることもあり、価格に見合った働きは十二分にしてくれそうな気がします。

サイズと重量

機能的には期待できそうなSXP2赤道儀ですが、注意が必要なのはそのサイズと重量です。

特にサイズは要注意。SXP赤道儀の後継ということで、なんとなく同程度のサイズかと思ってしまうのですが、写真の縮尺を合わせてSXP、SXP2、AXJを並べてみると……


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背が高く、極軸体も軸方向に長くなっているために、縦横ともかなり大柄になっているのが一目瞭然。収納方法や運搬方法については一考の必要がありそうです。また、SXP赤道儀は風に対する弱さがしばしば指摘されていましたが、SXP2は断面積がさらに大きくなっているわけで、同様の弱点を抱えている可能性は否定しきれません。架台の強化で相殺されているかどうか見ものです。


なお、ネット上の感想を見ていると、AXJ用に予定されている内蔵エンコーダが付けられるんじゃないかと期待する向きもあるようですが、この写真を見ると分かるように赤緯体や極軸体の太さがAXJとは一回り違うため、少なくともそのまま付くということはなさそうに思います。


また、上記の大型化に伴ってか、重量についてもSXP赤道儀から2.3kg増の13.3kg。16kg超のEM-200に比べればマシですが、軽量化が期待できるフォーク式極軸固定を用いながらもこの重量なので、人によっては体力的な面を考慮に入れておくべきでしょう。

*1:ベルトドライブになっている関係上、少なくとも赤緯体の内部構造はそれなりに変わっているはずですが

*2:ビクセンのサイトの製品情報を元にしていますが、明らかなミス表記や表記ゆれが複数あり、それらは修正を行っています。

*3:https://koyo.jtekt.co.jp/support/faq/article/001575.php

*4:月刊天文 2003年12月号「ビクセンSXシリーズ「スフィンクス」徹底チェック!!」

*5:以前、春先に都心の自宅周辺で、ほぼ同口径のペンシルボーグ(口径25mm)で北極星野を覗きましたが、こぐま座δ星がギリギリで、ケフェウス座51番星は位置すら分かりませんでした。透明度が悪かったことを割り引いても、快適とは言い難いと思います。

*6:意地悪な見方をすれば、価格面で海外勢と競争しても勝負にならないので国内のライバルに合わせた、という言い方もできるかもしれませんが。