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CP+ 2018

今年もCP+が3月1日からパシフィコ横浜で開催。というわけで、週末を待って行ってきました。例年通り、天文関連製品中心のレポートです。

ビクセン

昨年は「望遠鏡・双眼鏡ゾーン」ごと会場隅に追いやられていましたが、今年は会場真ん中の1等地。小さいながらも講演スペースも用意されていて、なかなかの盛況でした(上の写真は開場直後なので、全体的に人が少ないですが)。


昨年発売になったAXJ赤道儀ですが、軽量のメリットを生かすべく、いくつかの手を打ちつつあるようです。

まずは新素材を用いた赤道儀ケース(写真うしろ)。AXD用はじめ、従来のケースはアルミ製でしたが、この新型ケースでは「プラパール」という高機能プラスチックボードを用いています。プラスチックと聞くとヤワな感じがしますが、各種の梱包箱やコンテナへの使用実績もあり、実際に触ってみると十分な剛性があるように感じました。もちろん、純粋な強度としてはアルミに負けるでしょうけど、これが壊れるような衝撃が加わったら、どのみち中身はただでは済まないでしょうから、必要十分な気はします。


そして、ひっそりと展示されていた新型のカーボン三脚(写真手前)。直前にモノが出来てきて、急遽出展が決まったために説明パネルなどの準備が間に合わなかったとのことなので、見逃した方も少なくないのではないでしょうか?比較的早い時期の登場を予定しているようです。

構造としては、AP赤道儀用の「APP-TL130三脚」をそのまま大きくしたような形です。重量と強度のバランスに定評がある構造だけに、この三脚もSXG-AL130三脚より丈夫とのこと。AXD赤道儀と共通の「AXD-TR102三脚」はいささか重厚に過ぎる感がありますので、歓迎したいところです。


AXJ赤道儀といえば、気になる全周エンコーダーですが、こちらも登場はそう遠くないようです。ちなみに取り付け方ですが、極軸体および赤緯体に完全に内蔵する形になるとのこと。つまり、AXJ赤道儀内部にはすでにエンコーダー取付用のスペースと端子が用意されているということになります。

ユーザーが取付を行うのか、あるいは工場に送って取り付けてもらう形になるのかは聞きそびれましたが、構造を考えるとおそらく工場に送る形になるのではないかと思います。


同じく登場が待たれるR200SS用の「エクステンダーPH」ですが、残念ながら今年も「参考出品」の状態。問題になっているのは量産の工程らしく、所定の性能が安定して出せないとのこと。1つ1つ製造する分には大丈夫だけど、量産ラインに乗せると……という「製造業あるある」の状態のようです。

火星に間に合わせたいけど、年内に出せるかどうか……というあたりが容赦のない見通しのようなので、この製品を待っている人は要注意かもです。


次はCP+にあわせて発表された新製品。

一昨年昨年と参考出品されていたフローライト鏡筒がついにお披露目となりました。ビクセンのフローライト鏡筒としてはおよそ30年ぶりの復活ということになるんでしょうか。FL-55S以下、名機の誉れ高かった旧機種に比べて、またスペックがほぼ丸カブリのFS-60CB(高橋製作所)やBORG55FL(トミーテック)と比べて、今後どのような評価を得ることになるのか楽しみな鏡筒です。

昨年はスライド式のフードや金色のバンドなど、かなり思い切った意匠を凝らしていましたが、どうもウケがあまり良くなかったらしく、最終的にはオーソドックスなものに収まりました。ラインナップ全体の統一感という意味では、これでよかったように思います。


フードは固定式です。スライド式の方がコンパクトにはなりますが。スライド・固定機構の強度や塗装等の耐久性も考えなければならないので、コストを考えればこれはこれで構わないでしょう。

鏡筒には、1/4インチおよび3/8インチのネジ穴を設けた脚がついていて、カメラ三脚などにそのまま固定が可能になっています。ボーグの「ミニボーグ鏡筒DX-SD」のようにアルカスイス対応になっていたら、さらに応用範囲が広がっていたと思いますが、さすがにそれは贅沢すぎる要求でしょう。

もちろん、上の写真のようにスライドバーを取り付けてビクセン規格のアリミゾに固定することも可能です。

接眼部は、同社の他の鏡筒と同じく標準的なラック&ピニオンです。コストアップにつながるのは分かりますが、後述するように写真用途を見込んでいるはずですし、いい加減そろそろ微動装置を標準でつけてほしいものです。*1

なお、ED鏡筒(現SD鏡筒)で問題になっているレンズ間隔調整用の錫箔は見えませんので、うまく隠されているか、そもそも錫箔を使っていないかのいずれかのようです。星像にてきめんに悪影響が出る要素でしたので、これが解決されているのは安心です。


かつてのFL-55Sは口径55mm、焦点距離440mmのF8というスペックでしたが、今度のFL55SSは焦点距離303mmのF5.5と、今時のフォトビジュアル機らしいスペックになっています。専用のフラットナーを付けると焦点距離313mm(F5.7)、専用レデューサーを併用すると焦点距離239mm(F4.3)となります。

このフラットナーとレデューサーはセットで6万円前後になる予定とのこと。フラットナー使用時のフルサイズ周辺光量が100%、レデューサー使用時の周辺光量が95%と、周辺減光は相当に少なそうで、後掲のスポットダイアグラムを見ても、専用品だけに性能は期待できそうです。とはいえ、せっかく「SDレデューサーHDキット」が昨年発売になったばかりだというのに、また同じようなものを揃えなければならないのかと思うとちょっと残念な気がするのも正直なところです。なんともわがままな話ですが(^^;


もっとも、この鏡筒の場合は補正レンズ系への「依存度」が高いので仕方がない面はありそうです。

スポットダイアグラムを見てみると、特徴的なのは補正レンズなしの場合の周辺像。コマ収差が盛大に出ています。普通、2枚玉屈折望遠鏡の設計では、色収差を補正したうえで球面収差とコマ収差を優先的に取り除くため、像面湾曲と非点収差が残って周辺部は楕円にボケるパターンが多いのですが、その点、このダイアグラムは異質です。

傾向として近いのは分離2枚玉のフローライト屈折、タカハシのSKY90です。SKY90もコマ収差は異例の大きさでした。これは、周辺部は妥協する代わりに中心部の星像に注力し、均質な像が必要な場合は補正レンズで対応する、という割り切りで設計されていたためですが、このFL55SSにも似たような雰囲気を感じます*2

実際、HRアイピースによる惑星観望時などの高倍率にも耐えることを念頭に置いているようです。もっとも、いかに先鋭な像を結ぼうとも、わずか口径55mmなので惑星観望での実用性には疑問符が付きますが……。


そのHRアイピースには3.4mmのものが登場。F7〜8前後の標準的な屈折望遠鏡で適正倍率(口径(mm)の2〜2.5倍)が得られることになります。従来のラインナップは1.6mm、2.0mm、2.4mmと焦点距離があまりに短く、いくら大丈夫と言われても手を出しづらい雰囲気がありましたが、これなら買ってみようという人も出てきそうな気がします。自分もちょっと欲しいです。


こちらは変わり種のアイピース「ファインダーアイピース100」です。一昨年に参考出品されていたもので、これを挿すことでメインの鏡筒をファインダー代わりに使おうというもの。これほどのイロモノを、まさか本当に製品化してくるとは思いませんでした(笑)

望遠鏡の使用説明書を見ると、大体は望遠鏡を覗く以前にファインダーの調整から入るものが多く、この時点で挫折してしまう人も少なくないと思うのですが、ならばそもそもファインダーの必要をなくしてしまえ、という発想です。

倍率が低いとはいえ、31.7mmというバレル径の制約やアイピース光学系(ハイゲンス式?)の関係で視野がそう広いわけでもなく、そもそも一般的な低倍率のアイピースでも代替可能なことから辛口の意見も多いようですが、「用途を限定して分かりやすくする」という側面もあるので一概に否定するものでもないと思います。


「2倍バローレンズ 31.7TII」は、従来製品の「2倍バローレンズ 31.7T」の改良型で、コーティングがマゼンタコートからフーリーマルチコートに変更になったのが最も大きな改良点です。参考出品として同3倍のものも。明らかに火星需要を見込んだものでしょう。

なお、スリーブ先端部には、フレアカッターの役目を果たすと思われるリングがついていますが、リング内径はそれほど大きく絞られているわけではないので、効果は限定的かと思います。


そして、ブースの一番目立つところに置かれていたのが、新製品の「モバイルポルタ」。アームが可動式になった片持ちフォーク経緯台で、一昨年から参考出品されていたものです。スケール感としてはミニポルタ相当でしょうか。実際に触ってみましたが、可動軸が多いこともあって、強度としてはぶっちゃけヤワいです。


最大の特徴はアームを動かせる(15度刻み)ことで、折りたためば上の写真のように三脚ケースにきれいに収まります。また、アームを適切な角度に設定することで、アームが短いにもかかわらず天頂などが死角にならないというメリットが生まれます。とはいえ、後者については干渉を避けるためのアームの動かし方が直感的ではなく、初心者にメリットとして分かってもらうのはかなり難しそうな気がします。

また、軸の可動については、軸の固定、リリースを行うノブが薄くてやや力を入れにくい気がしました。望遠鏡を載せたままノブを操作して事故を起こす危険性もあるので、むしろ少し操作しづらいくらいの方がいいのかもしれませんが、もう少し回しやすく締めやすい構造にしてもいい気がしました。


コストダウンのため、水平軸と垂直軸のパーツは共通になっています。また、軸の部分は六角レンチなどを使えば比較的容易に取り外せるため、ベテランの方の「工作素材」としても使えるのではないか……などという半ば自虐的な話も(冗談半分ですが)あったりなかったり(^^;

さらに、アリミゾがついている円形パーツはポラリエの雲台ベースと同じ規格になっていて、これらを交換することも可能という裏情報もあります。実用性はともかく、デメリットが発生しない限り、このような「遊び心」は歓迎したいところです。

トミーテック

ビクセンの真裏にブースを構えたトミーテック(BORG)ですが、ここ数年の「天文回帰」の流れは継続中といった印象です。


今回の展示の最大の目玉はこちら。115mm径のカーボン鏡筒と中判センサーに対応したBORG107FL用レデューサー「EDレデューサー0.7×DCQC」、645ZやGFX50S用のカメラマウントなどです。

予想価格帯は言わずもがなですが、レデューサーを併用した107FLはF3.9という明るさの上、カーボン鏡筒であれば温度変化の影響も小さくできる可能性がありますし、FSQ-106EDの対抗馬になれるポテンシャルは秘めていそうな気はします。


ただ、あまりにマニア路線に突き進むと、タコツボ化してかつての苦境の二の舞にならないとも限らないので、入門的なラインも同時に大事にしてほしいと思います。

ケンコー・トキナー

火星需要をにらんでか、望遠鏡類を目立つところに並べてきたのがケンコー・トキナーです。


一番手前にあったのが新型経緯台「SkyExplorer SE-AZ5」です。価格は税抜5万円。ポルタIIと同じ片持ちフォーク式のフリーストップ経緯台で、昨年参考出品されていたものを改良したもののようです。耐荷重は5kgで、スペック上はポルタIIと同等です。経緯台単体のほか、SE102鏡筒とSE120鏡筒をそれぞれセットにしたものがラインナップされています。

アームは、固定するネジ穴を変えることである程度角度を変更することが可能になっているようです。

本体重量2.3kg、三脚重量1.8kgと、ポルタII+三脚の5.7kgに比べるとやや軽くなっていますが、特に三脚が華奢な感じがするので実際の安定性はどうでしょうか?


Meadeの製品も多数並べてきていましたが、多くは旧製品で目新しいものはあまりなく、せいぜい自動導入経緯台のETXシリーズがマイナーチェンジ(?)した程度。本社側のゴタゴタがまだ尾を引いている感じでしょうか?

サイトロン

こちらも火星接近を前に鼻息が荒い感じで、いつもにもまして望遠鏡が目立ってました。


まずSkyWatcher製品ですが、ブース中央にあったのが自動導入経緯台AZ-GTiマウント。WiFiモジュールを搭載していて、スマホタブレットから操作ができるようになっています。エンコーダーも搭載していて、手動で経緯台を動かしても姿勢情報は保持されるようになっています。

電源は単三電池8本とのこと。パッケージとしての収まりはスマートですし、認知度が上がればそれなりに人気が出そうな気がします。



手動の新型経緯台としては「AZ PRONTO」が出品。お世辞にも頑丈とは言い難いですが、半クランプにして「疑似フリーストップ」にした時の動き、微動の動きともに可もなく不可もなく、といった感じでソツのない仕上がりです。評価は価格次第といったところでしょうか。

どうでもいいですが、モバイルポルタのアーム固定ノブ、このAZ PRONTOに使われているようなツマミつきのものの方がしっかり締められて良さそうな気がしました。



ひと昔前の「GPガイドパック」みたいなものが見えると思ったら、新型のEQM-35赤道儀でした。EQ-3赤道儀をシステム化したような位置づけで、EQ-3と比べるとギアの歯数を180枚に増やすことで精度向上を図ったとのこと。搭載可能重量もEQ-3の5.5kgから10kgへと大幅にアップしています。

もっとも、海外製架台の「搭載可能重量」はまったくあてにならないので、話半分に聞いておいた方が吉でしょう(^^;*3


あと、しばらく前からSkyWatcherの架台は目盛環が緑色になっていますが、これだと赤色光下では真っ黒になってたしかに見づらそうです(^^;


屈折鏡筒のファインダー座には、さりげなく新型のガイド鏡が。「EVOGUIDE 50ED」という製品名の通り、EDレンズが奢られたガイド鏡です。口径50mm、焦点距離242mmというスペック。ピントは、一般的なファインダーのように対物レンズ側を回して大まかに合わせたのち、接眼部のヘリコイドで微調整する方式。回転部の動きは滑らかで、ガタも少なそうな雰囲気ですが、EDレンズの採用も含め「もっと他にカネをかけるべき所があるのでは……」という気がしないでもありません(^^;*4


一方、Celestronから新規に参考出品されていたのは、このPowerSeeker 60EDくらい。このシリーズに共通した、おそろしく華奢な赤道儀に載っていますが、これはおそらくSkyWatcher EQ-1赤道儀と同等のもの。たしか搭載可能重量は2kg程度だったはずで、このレベルの赤道儀を使うくらいなら、まともな経緯台の方がはるかにマシな気がしますが……。


このほか、展示で目を引いたのは「レボリューション・イメージャー」。いわゆる「電視観望」を行うためのキットで、カラーCCDカメラとハンドコントローラー、0.5×レデューサー、7インチ液晶モニター、バッテリーなどがセットになっています。Sky & Telescope誌の「Hot Products 2017」にも選ばれた話題の製品。惑星や明るい星雲などが対象ですが、オールインワンのパッケージになっているので、難しいことを考えずに使い始められるのが利点かと思います。ただ、製品としては1年以上前のものなので、撮像デバイスの進歩を考えると、性能に過度の期待は禁物でしょうか。

STC

昨年からブースを構えるようになった、台湾の光学フィルターメーカーです。昨年のユニークな製品群の展示で知名度が上がったのか、ブースはかなりの盛況。そして、今年も色々とユニークなものをそろえてきました。


まず圧倒されるのがフィルター形状のバリエーションです。各社のカメラに合わせたマウント内フィルターをずらりと取り揃えてきました。

対応表はご覧の通り。フジフイルムやペンタックスオリンパスなど、普通ではまずお目にかかれないようなラインナップです。

広角レンズで光害カットフィルターなどの干渉フィルターを用いる場合、レンズ前面にフィルターを付けると光の入射角度によってカットされる波長のシフトが起こり問題が発生することがありますが、マウント内にフィルターを置ければ、この問題は大きく緩和されます。キヤノン機については以前から、ニコン機やソニー機については最近になって、こうしたマウント内に設置するフィルターがいくつかのメーカーから販売されるようになってきましたが、それ以外の機種についてはシェアの問題もあってか選択肢がありませんでした。

フジフイルムやペンタックスオリンパスのユーザーにとっては、干渉フィルターを用いる際の福音になりそうです。


天体用フィルターの類としては、一般的な光害カットフィルターである「Astro Multispectraフィルター」、Hβ、OIII付近およびHα付近のみを通す「Astro Duoナローバンドフィルター」、そして「Astro Nightscapeフィルター」が用意されています。

今回初登場でユニークなのは「Astro Nightscapeフィルター」。分光特性を見ると分かる通り、光害成分を完全にカットするのではなく、あえてある程度透過させています。いわく「人工光を生かした星景写真用」ということで、実際の効果のほどは分かりませんが、面白い発想だと思いました。


昨年出品されていた結露防止フィルターも「E-Warmer 防曇ヒーターフィルター」として無事製品化の運びとなった模様。フィルターだけが発熱するため消費電力も小さく済むので、夜露に悩まされている人にとってはありがたいソリューションかもしれません。

*1:というか、これに限らずですが、同じ光学機器にもかかわらず、顕微鏡には微動装置がついているのに望遠鏡ではオプション、というのが以前から納得いきません。特に、昨今はF値が小さくてピントのシビアな鏡筒が多いですし、いい加減F10〜15とかが標準だった大昔の思考から脱却してほしいものです。

*2:ただし、レンズ構成自体はオーソドックスとの話なので、SKY90のような凝ったことはしていないようです

*3:「搭載可能重量」の位置づけですが、タカハシの場合は「安心して撮影に使える重量」、ビクセンの場合は「眼視に使える重量」、そして海外製架台の場合は「これ以上載せたら壊れる重量」だと個人的には思っています(^^;

*4:中の人も同様の感想を漏らしてました(^^;