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AXJ赤道儀発売

旧聞に属しますが、CP+に出品され期待を集めていたビクセンの新赤道儀「AXJ赤道儀」が去る11月27日に発表され、30日から販売開始となりました。

おおまかなスペックはこれまでCP+で公開されていたものと大体同じ*1。気になる価格は税抜70万円(税込75万6000円)となっています。

同社の他赤道儀と比較する

まずはこの製品の位置づけをはっきりさせるため、主なスペックをSXP赤道儀PFL、AXD2赤道儀と表にまとめてみました。

これを見ると、赤緯軸・赤経軸の太さや材質をSXPと同じにしていたり、ウォームホイールの直径がAXD2より一回り小さかったりと、AXD2からダウングレードしている部分はあるものの、出荷時にピリオディックモーションのデータを不揮発性メモリに書き込む「V-PEC」に対応している点や、サイズ感などははっきりAXD2の流れを汲んでいます。


特徴的なのは、ビクセン赤道儀として初めてベルトドライブを採用した点で、騒音の低下やバックラッシュの低減などが見込めます。ネット上では、ベルトドライブと聞いて耐久性を不安視する向きもあるようですが、一般にこういう部分で使用されるベルトは「輪ゴムのお化け」などではなく、産業用のきわめて丈夫なもの。普通、毎分数千回転といった回転数に耐えるようなシロモノですから、赤道儀に要求される回転程度では全く問題になりません。

極軸を支える構造もAXJに特徴的なところで、海外製赤道儀でしばしば見かける、極軸体をフォークで支える構造になっています。おそらく重量軽減に一役買っているのではないかと思いますが、調整可能な傾斜角範囲は従来品と同じで、機能面での直接的な違いはなさそうです。

本体重量と搭載可能重量はそれぞれAXD2から約3割減。「SXPだと物足りないけどAXD2だと大げさすぎる」という人も少なくなかったと思うので、このサイズ感は悪くないと思います。搭載可能重量は22kgとなっていますが、ビクセンの「搭載可能重量」は目視観測を念頭に置いているフシがあることを考えると、撮影目的なら実用的には7掛けの15〜6kgあたりが無理のないところでしょうか?

また、表には書いていませんが、鏡筒取り付け部の仕様はAXD2と共通です。


スペックを見る限りでは、性能と使いやすさのバランスという点で評価の高いAXD2をうまくダウンサイジングしており、好印象です。

AXJ赤道儀の気になる点

とはいえ、気になる個所がないわけではありません。


真っ先に議論の対象になりそうなのは、やはりその価格です。

私の「期待込み」の予想では「60万円前後、両軸エンコーダをつけて80万前後」でしたが、それより10万円高い価格です。上記予想は「SXPとAXD2の間を取るだろう」、「AXJにオプションのエンコーダをつけてもAXD2との下克上は起きないだろう」という考えでのものですが、思ったよりAXD2に寄せてきました。希望小売価格的には、40万円のSXPと約100万円のAXD2のちょうど中間と言えば中間なのですが……(^^; 店頭値引きがないのもAXD2と同じで、旧来の「お手頃価格のビクセン」というイメージでいると割高感を感じてしまうかもしれません*2


また、上でちらっと書きましたが、CP+で目玉の1つとなっていたエンコーダが同時発表されなかったのも不安材料です。このエンコーダは、クランプフリーで望遠鏡を動かした場合でもアライメント情報を保持し続けるほか、フィードバックによって追尾精度を向上させる役割も担うことになっています。しかしこれがないことで、AXJ赤道儀の魅力の一部が削がれるのは確かです。ビクセン社長のTwitterでの発言によれば「予定されているが発売時期は未定」とのことなので、いずれ出るとは思いますが、出る予定といわれながらいまだに姿を見せない「VSD100F3.8専用エクステンダー」のような例もあるので、一抹の不安が残ります。

エンコーダについては、価格の問題も気になるところです。以前にも書きましたが、同じようにエンコーダを利用するiOptronのCEM60赤道儀の場合、エンコーダなしのCEM60が税抜318000円、エンコーダ付きのCEM60-ECが税抜495000円となっていて、両者の差は177000円。これを目安に考えると、AXJ赤道儀にエンコーダを搭載した場合、プラス20万〜25万円はかかりそうというのが容赦のない見立てでしょう。しかしこうなると、価格的にはAXD2と極めて近くなってしまいます。追尾精度はAXD2に匹敵するものになりそうですが、本体重量減のメリットと搭載可能重量減のデメリットをどう考えるか、買う人のバランス感覚が問われることになりそうです。


そして最後に三脚。今のところ、AXJ赤道儀の三脚については、SXシリーズ用のSXG-HAL130、またはアダプタ経由でAXD用のAXD-TR102が組み合わされることになっています。SXG-HAL130はたしかに使いやすい三脚ですが、各所のネジが緩みやすいなど信頼性にやや難がありますし、強度についても最大40kg近くにもなる上物を支えられるのかどうか不安が残ります。一方のAXD-TR102は、強度的な問題はありませんがAXJ赤道儀とのバランスという面では重厚に過ぎるかもしれません。

CP+ 2017の時点では「TR15三脚」と称する、AXD-TR102の下位版のような三脚に載せられていました。また、AXJ赤道儀発表前の社長のTwitterでは、同三脚に載せられていると思しきAXJ赤道儀の写真が掲載されていましたので、軽快さを重視するなら期待したいところです。

*1:細かいところでは赤緯側のウォームホイールの仕様やベアリングの数が変わっていたり、より軽量になったりといった違いはあります。

*2:ただ、製品の序列と内容を考えれば「不当に」高いとまでは思いません。