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皆既月食&天王星食

8日は事実上今年最大のイベント、皆既月食天王星食の日でした。幸い、晴れた地方も多く、楽しまれた方も多かったようです。


こちらもこの日は、台車に機材を満載して3kmちょっと先の河川敷へ。持って行った機材は以下の通り。


ビクセン ED103S+Canon EOS KissX5:月食撮影用
・SkyWatcher MAK127SP+ZWO ASI290MC:天王星食撮影用
 +ビクセン SXP赤道儀

トミーテック ミニボーグ60ED+SkyWatcher AZ-GTiマウント
・同ミニボーグ45EDII+ミザールテック K型経緯台+Manfrotto 190プロアルミニウム三脚
ニコン 10×42HG L DCF
ビクセン Newアペックス HR 8×24
 以上 観望用


これに大容量バッテリー、制御用PC2台、防寒具などなど追加していくと、総重量は台車の自重も含めてなんと108kgに!ここまでくるとさすがに重く、動かすのに苦労するだけでなく、河川敷への下り坂*1で制御が効きづらいです。しかも帰りはこれが丸々登り坂に化けるわけで……。重量的にも台車の容積的にも、このくらいの機材量が限界でしょう。


なお、今回は終始好天が予想されたので、月食経過の連続写真も狙えそうということでK-5IIs+DA 17-70mmF4AL[IF] SDM+三脚を持参することも考えたのですが、

  • 撮影機材が都合3台もあると面倒見切れなそう。
  • 17mmで月食の全過程を撮ろうとすると地上風景が入らず味気ない(これ以上の広角は手元にない)。
  • 露出倍数の違いをシャッタースピード等で調整しようとすると本体の操作が必要。→カメラが動いてしまいそう。
  • 可変NDフィルターで調整するとしても、同フィルターは広角側が苦手(ムラが発生しやすい)。

といった理由で諦めました。荷物量を見ると、結果的に持って行かずに正解だったようです(^^;


また、今回はギャラリーがある程度の人数来ることも考えて、事前にパンフレット(自分の撮った天体写真のおまけつき)を10部ほど用意しておきました。暗くなると読めないよな……とは思いつつも、一応の「気分」です(^^;


観測開始

3時過ぎに家を出て、4時前に現地着。ここから機材を展開して5時くらいには観測待機状態になりました。東の地平線上には月が昇ってきています。


上でも書いたように、手前のミニボーグ60ED+AZ-GTiとミニボーグ45EDII+K型経緯台は観望専用。撮影用には月食用のED103S+EOS KissX5と天王星食用のMAK127SP+ASI290MCを同架しています。カメラはそれぞれ2台のPCに接続し、都度操作していくことになります。


本影食開始前に、試しにシャッターを切ってみましたが、タイマーともどもちゃんと動いてくれているようです。ちなみにタイマーは今回「TimerPlus」というアプリを用い、4分30秒で予鈴、5分で本鈴という使い方をしてみました。本来はインターバルトレーニングのためのアプリなのですが、時間表示もハッキリしていて案外使いやすかったです。
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Timer Plus - ワークアウト用タイマー

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18時10分11秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO100, 露出1/250秒



18時40分19秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO100, 露出1/125秒

本影食開始は18時9分から。そこから先は見る見るうちに欠けていきます。




19時15分24秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO1600, 露出0.5秒

やがて、写真には「ターコイズフリンジ」がハッキリと。眼視でも、この写真の彩度を落としたような感じで、一般に思われているよりもずっとカラフルです。満月で月面に影がないこともあり、まるでシルクのような質感に見えます。



19時20分23秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO1600, 露出0.5秒

ターコイズフリンジは皆既に入った後もしばらく見えていたので、明るい部分からの色にじみ等の類ではなく、やはり実際の現象なのだろうと思います。
hpn.hatenablog.com


なお、写真の左上隅には、このあと月に隠される天王星が見えてきています。月は1時間20分ほどであの位置まで移動するわけですから、思いのほか天球上での動きが大きく速いのが分かると思います。


ところで、この写真で感度がISO1600に切り替わっていますが、これは完全にこちらのミス。撮影途中でうっかり撮影シークエンスを初期化してしまい、再度設定しなおしたのですが、ISOが初期値の1600になっているのに気付かず……。気付いたのは皆既が終わった後のことでしたとさ。道理で妙に白飛びしやすいと……(^^;


一方、食が進むとともにギャラリーはどんどん増加。半ばネタで用意していたパンフはとうに捌け、入れ代わり立ち代わりしながら人数は増えていきます。もはや即席観望会どころか、完全に普通の観望会です本当にどうもありがとうございました。


最終的には、のべ50人以上はいらしたのではないでしょうか。それだけの数の方が楽しんでいただけたのであれば、大量の機材を運んだ甲斐があるというものです。




20時00分10秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO1600, 露出1秒

「食の最大」の頃の月。皆既の初めごろに見られた青みはほぼ完全に消え、重々しく色づきます。皆既中の月の色は、食の深さや地球大気の透明度などによって月食ごとに違うのですが、今回は赤銅色というよりは褐色に近く、かなり暗かったように感じます。皆既中の月の明るさを評価する「ダンジョン・スケール」で言えば、1に近かったのではないでしょうか。
hpn.hatenablog.com


1993年6月4日の皆既月食では月がかなり暗くなりましたが、これは1991年6月のピナトゥボ山噴火の影響があったためと言われています。今年は1月にトンガのフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ火山が大噴火、3月にパプアニューギニアのマナム火山が噴火、5月にカムチャッカ半島のベズィミアニィ火山が噴火と、噴煙が高度1万メートル以上に届くような大噴火が続発したので、その影響があったのかもしれません。


天王星


皆既の終了直前には天王星食が見られます。天王星食は、写真左側のMAK127SP+ASI290MCを用い、動画で記録する予定です。


ところが、実際に天王星が隠れるあたりの月面をASI290MCの写野に入れて見ると、想像以上に月面が暗いです。上で書いたように、今回の皆既自体が暗いというのもありそうですが、相応にゲインを上げる必要がありました。シャッター速度も遅くせざるをえず、そこだけが少し残念です。


心配していた「低重心ガイドマウント」の強度ですが、望遠鏡の姿勢が変わるとともに徐々にずれていってしまうのは仕方ないとして、数分の間ならほとんど問題ないことが分かりました。また、この夜は7時ごろまで風が強かったので、システムが揺すられてまともな動画にならないのでは?という心配もあったのですが、天王星食の頃は風もまずまず収まってくれました。




20時40分9秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO1600, 露出1/4秒

天王星食の直前。青緑色の天王星が月面ギリギリにあるのが写真でもよく分かります。


そして動画。

youtu.be

分かりやすいよう、4倍速にしています。記録された時刻では、天王星が月に接する「第1接触」が20時40分36秒ごろ、天王星が完全に月に隠れる「第2接触」が20時40分54秒ごろでした*2。隠れるのに15秒以上かかったことになります。


撮影している間は観望していた大勢がPC画面を見つめ、天王星が隠れた瞬間は歓声が上がりました。望遠鏡からの映像をリアルタイムで大勢が眺めることができるというのは、これはこれでなかなか良いものだと再認識しました。


この約40分後には、天王星が出現します。しかし、この時に皆既はすでに終わっていて、明るさを取り戻した月の明るさが厄介です。実際、天王星が出てくるあたりを導入してみると強烈なフレアが。鏡筒内部のつや消しが上等だったり、そもそも迷光に強い光学系なら問題ないのかもしれませんが、こればかりは仕方がありません。フレアの位置を、天王星出現予想位置からずらし、出現を待ちます。


youtu.be

無事、フレアにかぶることなく、比較的見やすい位置に天王星が出てきてくれました。この動画も4倍速になっています。天王星が月から出始める「第3接触」は21時22分11秒、完全に出切る「第4接触」が21時22分27秒でした。



21時50分10秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO100, 露出1/250秒

その後、30分ほどたって月食は終了。半影月食はなお続いていましたが、ここで観測を終了、撤収となりました。



今回は、久々に月食の全過程を好条件で観測することができ、天王星食も相まって非常に楽しむことができました。自然発生的な即席観望会も大盛況でしたので、次の機会にはパンフの電子化なども検討してみたいと思います。

*1:高度差30mの坂がだらだらと1.5km近く続きます。

*2:時刻はネットから切り離されたPCでの読み値なので、ずれている可能性は十分あります。