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たまには「近場」を

4日の「みどりの日」は、午後からすっきり快晴。天気図を見ると九州沖に低気圧があるものの、関東はまだ十分に移動性高気圧の圏内。しかもWindy *1(最近Windytyから名前が変わりました)の情報によれば、関東においてシーイングへの影響が大きい高度3000m付近の気流*2はかなり落ち着いていて、月や惑星の観望、撮影にはちょうど良さそうです。

というわけで、地上の風はちょっと気になりましたが、月・木星狙いでいつもの公園に出撃してきました。星雲や銀河ならともかく、月や木星なら自宅前でも見たり撮ったりできないこともないのですが、視界があまり取れないのと、近くを通る電車の振動のせいで落ち着いて撮影できないので……。


公園についたのがまだ明るい時間ということもあり、親子連れが大勢遊んでいましたが、望遠鏡を組み立てだすと子供たちは興味津々。せっかくのいい機会なので、日没までの時間を利用して、親御さんたちを巻き込みつつ、ミニボーグを使っての「プチ月観望会」となりました。プラネタリウムが大人の癒しスポット&既成番組を垂れ流す場となってしまい、子どもの興味を喚起する場所ではなくなってしまった感がある*3現在、こういう体験はなかなか貴重かと。こんなちっちゃな体験でも、これをきっかけに一人でも多く天文に興味を持ってくれるといいのですけど……。


やがて観望会も自然に終了。たっぷり鏡筒の温度順応を済ませ、光軸もしっかり調節したら、薄明終了を待って月面の撮影開始です。今回は、以前も一度やったASI120MMでのモザイク撮影を試みます。なお、今回の新機軸として、シーイングの影響を軽減するためにOPTLONGのNight Sky H-Alphaフィルターを実戦投入してみました。

このフィルターはシーイングの影響を比較的受けにくい長波長域の光のみを透過するため、良像の得られる可能性が高まります。高まるはず。高まるといいなぁ……(三段活用)


宵のうちは地上の風が結構強く、鏡筒がそれなりに揺さぶられます。当然、カメラに収まる範囲も揺れ動くため、スタッキング後に画像同士をつなぎ合わせるとき、隙間ができないように「のりしろ」を大きめに取るようにしたのですが……結果、動画の数は40個以上にもなってしまいました。動画1個当たり15秒しかないので容量的にはたかが知れているのですが、あとの処理が猛烈に面倒くさそうですorz

最後に、デジカメで普通に撮影してカラー情報を取得*4。あとでLRGB合成する予定です。

月面撮影後は、システムを組み替えて木星狙い。23時頃には大赤斑がちょうど正面を向くので、できればその時間まで粘りたかったのですが……22時少し前から雲が広がり始め、22時を過ぎたら空の7〜8割がたが雲に。やむを得ずこの時点で撤収です。


帰宅後は、月面はAviStack2のバッチ処理に投げておいて、まず木星から処理。



2017年5月4日21時58分37秒(日本時間)
セレストロンEdgeHD800+Meade 3x TeleXtender(D203mm, f6096mm) SXP赤道儀
L画像:ZWO ASI120MM, 30ms, 2400フレームをスタック
RGB画像:ZWO ASI120MC, 30ms, 2000フレームをスタック

比較的シーイングが良かったおかげか、結構細部まで写ってくれました。昨年末から始まった大規模な擾乱の影響なのか、南赤道縞SEBにははっきりした濃淡模様が見られ、赤道帯EZにひげのように伸びるフェストーンも顕著でなかなかにぎやかです。大赤斑の前方、写真の左上には永続白斑BA*5も見えています。

それにしても、我ながら木星の「色」が安定しません。L画像と合成した時に色の濃さが変わりがちなのも問題ですし、そもそもASI120MCで撮影してRegistaxでホワイトバランスを取ると、肉色っぽくなって「これじゃない」感が拭えません。どうやったら再現性良く「自然な色」をコンスタントに出せるか……悩ましいところです。


一方の月面は、スタッキング→ウェーブレット処理までをAviStack2のバッチ処理を利用して寝ている間に処理。出来上がった画像をImage Composite Editorでつなぎ合わせ、明暗の調子を整えたのち、デジカメで撮ったカラー画像とLRGB合成して……出てきた結果がこちら。



2017年5月4日 セレストロンEdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
L画像:ZWO ASI120MM, 15ms, 各450フレームをスタック後、43枚をモザイク合成
RGB画像:EOS KissX5, ISO100, 1/100秒

先日のおとめ座銀河団の写真と同様、盗用等の可能性が否定しきれないため、ここにオリジナルの画像(4800×6400ピクセル)を載せることができないのが残念ですが、なかなかの高精細ぶりで、手間をかけただけのことはある感じです*6

そのうちの一部分だけ、縮小前のサイズでご紹介(クリックすると大きめの画像が見られます)*7




「雨の海」北側にある名所、アルプス谷とその周辺。アルプス谷は長さ130km、幅11kmの大地溝で、雨の海ができたときの天体の衝突によりできたといわれています。アルプス山脈は標高約2400mの山脈で、その西にはプラトーの外壁が見えています。




雨の海の中で大変目立つ3つのクレーター。アルキメデスは内部が溶岩で満たされて平らになっています。アリスティルスはできてから数億年の新しいクレーターで、衝突の衝撃でできた中央丘や放射状の尾根がよく残っています。すぐ北側には溶岩に埋もれた古いクレーターと思しき跡が見えるのも面白いところです。コーカサス山脈は標高3650m、アペニン山脈は標高5400mと、その高さはいずれもアルプス山脈をしのぎます*8




南部の高地には古い巨大なクレーターがひしめいています。中でもデランドルは、非常に古くて崩れかけてはいますが、月面でも有数の大きさで、その直径は約235km。四国がほぼ丸ごとおさまってしまうほどです。

*1:風よ、戒めとなれ!(違

*2:http://alpo-j.asahikawa-med.ac.jp/publications/TGS/2016-06.htm

*3:プラネタリウムの投影内容と現実の空がかけ離れすぎてしまっているのも一因のような。そこを接続するのが生解説の妙だったのですが……と、すべて、五島プラネタリウム育ちな人の個人的な感想です。

*4:以前は調子に乗って、カラー画像もASI120MCによるモザイクで取得していましたが、色情報は解像度はそれほど必要ないのでデジカメでのワンショットで十分です。

*5:数年前から大赤斑のようにすっかり赤くなってしまい、もはや「白斑」とは言い難かったりするのですが。

*6:もっとも、きょうびEOS 5Dsのように5060万画素などという「解像度番長」がいたりするので、この程度のモザイクだとなかなか優位性が出しにくいところかもしれません。

*7:切り出した部分単体で見るとシャープネスが足りない印象を受けるかもしれませんが、あまりバキバキの硬調にすると月全体の写真として見たときに不自然になるので、あえて抑え気味にしてあります。

*8:ちなみに、名前の元となった地球上のそれぞれの山脈の標高は、コーカサス山脈アルプス山脈アペニン山脈の順になります。