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月に始まり、月に終わる

長らくご無沙汰してました。

この春の東京はとにかく天気が悪く、2月中旬以降、土日の夜はほとんどが曇りか雨。晴れ間の見えた夜も2〜3度あったものの、薄雲がかかっていたり強風だったりで、とても望遠鏡を出せる状況ではありませんでした。ご存知の通り、4月4日の皆既月食も見事に撃沈です。


しかしGW間近になって、ようやく天気が安定しだした感じ。特に26日夜は久しぶりに雲ひとつない快晴で、風も比較的弱め。上弦の月が出ているので星雲・星団の撮影には向きませんが、逆に月を撮るにはもってこいの状況です。気圧配置的にも、移動性高気圧が日本の上にどっかりと腰を下ろしていて、良好なシーイングが期待できそうです。



月なら自宅前の路上で撮影してもよかったのですが…今回はちょっと試したいことがあったので、EdgeHD800を持ち出していつもの公園へ。



まずは鏡筒を外気に順応させます。いつもなら自然順応を待つのですが、月の高度が高いうちから撮り始めたかったのでCool Edgeで強制換気。この装置、以前書いたとおりの轟音なので街中で使うのはためらわれますが、人の少ない公園なら気兼ねなく使えます。

十数分間ファンを回したのち、副鏡を元に戻して慎重に光軸調整。そして、薄明が終わったころを見計らって撮影を開始します。


今回使ったカメラは、普段惑星撮影やガイドに使用しているZWOptical ASI120MM。これをEdgeHD800の直焦点位置に取り付けて撮影し、画像処理後にモザイク合成して月面全体をカバーしようという作戦です。2000mmの焦点距離に1/3インチセンサーの組み合わせなので画角は非常に狭く*1、月全体をカバーするには手間がかかりますが、これもクオリティのため。幸いシーイングは予想通り良好で、結果には期待できそうです。



2015年4月26日 セレストロンEdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
ZWO ASI120MM, 約450フレームをAviStackでスタック後、34枚をモザイク合成

そうして最終的に得られたのが上の写真。一眼レフでのワンショット撮影とは比べ物にならない精細さです。

ここにはもちろん縮小した結果しか上げていませんが、元画像は4800×6400ピクセルという巨大なもの。PCの画面いっぱいに表示してスクロールさせながら見ていると、それこそ宇宙船の窓から月面を眺めているような気分です。

天体写真にしろ天体観測にしろ、天文ファンの間では「月に始まり、月に終わる」とよく言われますが、それも納得といったところでしょうか。


なお、クレーターの大きさなどから計算すると、元画像の1ピクセルは約650mに相当します。一方、口径203mmの望遠鏡の分解能(ドーズの限界)はおよそ0.57秒で、月面での約1.1kmに相当します。同じ明るさの2つの光点を識別する能力と、月面にモノがあるかどうかを識別する能力は別物だと思いますが、実物大の画像を見ると確かにそのくらいの大きさのものは識別できそう。存在の有無だけなら、それこそ1ピクセル分の大きさのものが見えています。

ちなみに、一部を実物大で切り出してきたのが以下の写真。かなり細かいところまで写っているのが分かると思います*2



欠け際付近の北寄りの部分。右側の大きなクレーターは上からアリストテレス(87km)とエウドクソス(65km)。左端中央に目立つ裂け目はアルプス谷。



同じく欠け際付近の、こちらは中央付近。写真中央付近の形のいいクレーターがトリスネッカー(26km)で、その周りに走る網目状の谷がトリスネッカー谷。上部中央に「く」の字に走るのはヒギヌス谷。この辺りは谷をはじめ、起伏が多くて面白いです。

*1:計算すると、およそ0.10度×0.13度≒6分×8分しかありません。満月の視直径が約30分ですから、かなりの枚数が必要なのは容易に分かります。

*2:もう少しウェーブレット処理をキツめにかければ一見キリッとした感じにはなりますが、コントラストばかり強いギトギトした絵になりがちなので、意図的に控えています。