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近いのと遠いのと

先日の木星撮影に味を占めて「また惑星を撮りたいな……」と思ってステラナビゲータを眺めていたところ、3日~4日にかけて大赤斑が見えるとともに、4大衛星中最大のガニメデが木星面を通過するとのこと。大赤斑は3日21時過ぎに昇ってきて4日1時ごろに没、ガニメデの木星面通過は3日23時過ぎに始まり4日0時半ごろに終わる予想です。


ところが、この夜の木星の南中時刻は23時25分。一方、我が家の玄関先からは子午線より西側しか視界を確保できず、スケジュール的にあまり余裕がありません。おまけに、近くを電車がまだひっきりなしに通過する時間帯で、振動が撮影を頻繁に邪魔するのは分かり切っています。


というわけで一念発起。晩飯後にいつもの公園まで出撃してきました。


機材は22時半ごろには組み上がり、その後光軸調整などを行って23時ごろから木星の撮影を開始します。ところが、この夜はシーイングがイマイチ。冬場みたいな悪さではないものの、1日~2日にかけてのような落ち着きはありません。事前に確認していたWindy(ECMWF)の予報では上空5500~7000m付近の気流が激しく、そのあたりが影響したのかもしれません。


しばらく撮影していたのですが、シーイングが良化する気配は全くなく、0時過ぎに木星撮影は終わりとしました。この時点でデータ量はすでに111GB……約0.1TBにも達しています。そりゃあHDD容量がいくらあっても足りないわけです(^^;


次いで、機材を組み替えて今度はDSO狙い。とはいえ月明りがあって淡い対象を狙うのは無謀なので、影響を受けにくい惑星状星雲をワンショットナローバンドフィルターで狙うことにします。目標は「クリスタルボール星雲」ことNGC1514。比較的明るいと聞きますし、楽勝でしょう。




ところが、撮ってみると期待ほどの明るさではありません。Gain500の1分露出でこの程度(ASI FitsViewerで強調後)なので、ラッキーイメージング的な処理は難しそうです。とはいえ撮影は始めてしまっていますし、いまさら中止するのもアレなのでこのまま押し切ってしまいます。後処理で多分なんとかなるでしょう(ぉぃ


小1時間撮影したら再度機材を組み替えて、今度は月面のモザイク撮影に写ります。この日の月齢は約20.下弦の少し前ですが、この月齢の月は高く昇るのが夜半過ぎになることもあり、今まであまり腰を据えて撮ったことがなかったのです。


ところが、いざ撮影という段になって、シーイング改善に使う赤外線フィルターを忘れてきてしまったことが発覚。痛恨の一事ですが、ここまで来たら仕方ありません。これも後処理でなんとかなると信じて撮影に突入します。


しかし、撮ってみて感じたのが下弦側の月の明暗差。海が多くてベースが暗い一方、アリスタルコスのような猛烈に明るいクレーターもあり、これを白飛びさせないように条件を設定すると大半が真っ暗です。




なにしろ海の部分とか、こんな暗さです。やはり暗い欠け際などは、撮り漏らしがないよう、一時的にゲインを上げて構図を確認して撮影を行います。最終的に、撮影したファイル数は54個、容量にして131GB……約0.1TBにも達しています。そりゃあHDD容量がいくらあっても足りn (ry


そして最後に、デジカメでカラー画像を撮影して終了です。



で、やれやれと思って片付け始めたところ……驚愕の事実が発覚。


補正板が結露してやがる……!orz


都心とはいえ、芝生が多いので比較的露の下りやすい環境ではありますが……まさかここまでガッツリ曇るとは。もしかして、クリスタルボール星雲が暗かったのはこのせい……?とはいえ、撮ってて違和感を感じなかったのも事実なので、おそらく画像に大きな影響はないでしょう……ないかなぁ……ないといいなぁ……(三段活用


リザルト


仮眠をとったのち、早速処理に取り掛かります。まずは処理が簡単そうな「クリスタルボール星雲」から。



2023年11月4日 EdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
ZWO ASI533MC Pro, -10℃
Gain=500, 60秒×60, Optolong L-Ultimateフィルター使用
オフアキシスガイダー+StarlightXpress Lodestar+PHD2によるオートガイド
PixInsight, ステライメージVer.9.0hほかで画像処理

うーむ……。とりあえず形にはしたものの、仕上がりとしてはもう一つ。総露出時間が1時間しかありませんし、もっとじっくり時間をかけて撮影した方がよさそうです。まぁ、それでも「クリスタルボール」の本体を取り巻く淡い領域まで分かるのは収穫。いずれしっかり腰を据えて撮り直したいところです。



さて、お次はこの夜の本命、木星です。


上記のように動画はそれなりの量を撮ったのですが、中から写りの比較的よかったものを選んでAutostakkert!でスタッキング。ウェーブレット処理を行って……はい、ドンッ!



2023年11月3日23時33分46秒(日本時間)
セレストロンEdgeHD800+Meade 3x TeleXtender+Pierro Astro ADC MK3 SXP赤道儀
L画像:ZWO ASI290MM, Gain=230, 30ms, 1500フレームをスタック
RGB画像:ZWO ASI290MC, Gain=280, 30ms, 1500フレームをスタック

やはり、木星は大赤斑があるとグッと締まりますね。大赤斑後方(右側)の縞の乱れが、いかにも「流体です!」という感じがして好き。北赤道縞(下の方の濃い縞)も結構乱れてます*1


また、大赤斑のすぐ南側に隣接して、南温帯縞を遮るようにOval BAと呼ばれる渦があります。日本語だと「中赤斑」などという通称もあるようですが、その割に色がかなり淡くなっています。むしろそのさらに南にある白斑の方が目立つほどです。一時期はそれなりに赤かったようなのですが、今後どうなってしまうのでしょうか?大赤斑とOval BAがすれ違う前後には色々と変化も起こるようですし、要注目かもです。


写真には衛星も写っています。左側にあるのは、先日の記事にも書いた第1衛星のイオ。そして、木星面を通過中なのが、第3衛星にして太陽系最大の衛星ガニメデなのですが……なんと表面に模様らしきものが見えます!


衛星の模様など、それこそ海外の絶好のシーイングの下、大口径の望遠鏡を使わないと捉えられない、となんとなく思い込んでいたので、ちょっとした驚きです。にわかに信じがたかったので、Stellariumで確認してみたところ……



間違いなくガニメデの模様ということで良さそうです。北側の暗い領域は「ガリレオ地域」(Galileo Regio)と呼ばれる、月の「海」に相当する地形、南側のひときわ明るい部分はオシリス・クレーター(直径107km)のようです*2 *3


この時のガニメデの視直径はおよそ1.8秒。EdgeHD800(口径20cm)の理論上の分解能は0.57秒なので、性能がフルに発揮されれば模様が見えること自体不思議ではないのですが……。銀塩フィルムで写真を撮っていた頃にはとても考えられなかったことです。



なお今回、L画像のウェーブレット処理については、Registaxの作者が新たに開発中の「waveSharp」を使ってみました。
github.com


Registaxも悪くないのですが、waveSharpの"ZeroGauss"フィルターが想像以上に優秀で、より精細な表現が可能でした。良し悪しは処理する画像にもよるでしょうけど、一考の余地はあるかと思います。なにより、選択肢が増えるのはありがたいことですね。


撮影した「もう1つ」である月については、記事を改めて。

*1:この記事では惑星観測の伝統的な流儀にのっとり、惑星の南極が上になるようにしています。

*2:地形はこちらを参照。 pubs.usgs.gov

*3:逆に木星から地球の月を観測すると、ティコ・クレーターがこんな感じで見えるのかも。