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部分月食

前回の皆既月食から約半年、19日は食分0.978の部分月食……というか、「ほぼ皆既月食」でした*1 *2。5月の月食の時は雲に阻まれ、ほとんど月が見えなかったので、リベンジと行きたいところです。
hpn.hatenablog.com


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ところが、直前に晴天が続いていたにも関わらず、19日に限って空模様が怪しい感じに。気象庁によれば関東の南海上で低気圧が発生する予報で、Windy(ECWMF)の予想を見る限り、その余波で関東にも広く雲がかかりそうです。救いは上層雲がメインになりそうな点で、巻雲や薄い巻層雲(いわゆる薄雲)ならまだチャンスありそうです。


もっとも、5月の時も上層雲がメインだったけど、雲が分厚すぎて惨敗したわけですが……orz



ともあれ、出撃しないことには見られるものも見られません。台車に荷物をごっそり載せて、事前にロケハンしておいた3kmほど先の河川敷……正確には堤防の上に向かいます。今回は月が欠けたまま昇ってくる「月出帯食」ですので、東北東の見晴らしがいいことが絶対条件。1.5kmほど離れたいつも使っている公園は、その方面の見晴らしが悪いので、やむをえずです。


ただ、距離が倍近くも長い上に高低差も3倍ほど、とどめに路面の状態もあまり良くなくて、かなり体力を消耗しました。よほどのことがないと、正直あまり利用したくないですね(^^; *3


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それでも小1時間かけて、月出1時間半前の午後3時ごろには現地に到着。機材を展開します。


今回は

  • ED103S+SDフラットナーHD+EOS KissX5+SXP赤道儀(撮影用)
  • MAK127SP+AZ-GTi(眼視用)
  • ミニボーグ60ED+K型経緯台+Manfrotto 190プロアルミニウム三脚3段(眼視用)
  • ニコン 10×42HG L DCF(双眼鏡、手持ち)

というラインナップ。眼視用を2台用意したのはギャラリーが多いだろうことを見越したもので、特にミニボーグの方はフリップミラーを装着することで背の低い子供でも覗きやすいようにしています*4


空模様は、案の定というかなんというか、東から南の低空にかけて雲が目立ちます。切れ目は十分あるので全くの坊主ということはなさそうですが、薄雲がこれだけたなびいていると露出のコントロールになかなか苦労しそうです*5



ところで、こちらが準備している最中、近くを通りかかった神奈川県警の警官がバイクから降りてきました。悪名高い(失礼っ!)神奈川県警のこと、「すわ、職務質問か?」と思ったら……


 警官 「今日って、えぇと……月食なんでしたっけ?」
 HIROPON 「ええ。欠けた状態で月が昇ってきて……一番欠けるのは6時ごろですかね」
 警官 「あ~、6時かぁ……。8時ごろには……」
 HIROPON 「終わってますね」
 警官 「orz」


ということで、単に月食に興味があるだけでした。お仕事お疲れ様です(^^;


やがて、日が暮れて月が昇ってくるはずの時刻に。そのまましばらく待っていると……


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16時49分49秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO100, 露出1/4秒
地平座標になるよう画像を回転

出ました!半月状に欠けた月が昇ってきます(食分0.41)。とはいえ、普段の満ち欠けとは違い、半月状の月がまっすぐ立ったまま昇ってくるので違和感がすごいです。高度が低い(このとき約3度)ので、少し楕円形にひしゃげて見えています。


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ところが、そのあとはすっかり雲が厚くなり、月の姿はほとんど見えなくなってしまいます。本当は17時12分~13分ごろに国際宇宙ステーションISS)が(見かけ上)月の近くまで飛んでいくのが見られるはずだったのですが、とてもそれどころではありません。


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17時37分3秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO100, 露出5秒

再び月が見え始めたのは、小1時間ほどたった17時半ごろ。この時で食分0.88です。このころになると、こちらの望遠鏡を見かけて多くの方が集まってきて、ちょっとした規模の「即席観望会」になりました。幼稚園児~小学校低学年くらいの子供たちも含めて少なくとも十数人、延べ人数で言うと確実に20人以上はいらしたでしょうか。眼視用の望遠鏡を複数用意しておいた甲斐があるというものです。


月食の説明や、こちらが今まで撮影した写真などを見せたりしているうちに月食はどんどん進み……ついに食の最大に。


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18時4分16秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO100, 露出10秒

この写真はほとんど強調していないので、ほぼ見た目通りです。欠け際が青っぽく色づく「ターコイズフリンジ」もよく分かります。眼視でも見ましたが、想像以上にカラフルで美しい眺めでした。


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昔はフィルムの性能の限界もあって「ターコイズフリンジ」の存在が知られていなかったのですが、一方でスケッチでは欠け際に緑~青の色味を感じていると思われる描写もありました。例えば上のは「天文ガイド」1990年5月号のページですが、フィルムでは一面オレンジなのに対して、スケッチは実にカラフルで、おそらく実際にはこう見えていたのだったのだろうなと思わせます。絵心があればこうした記録方法も重要かもしれません。



その後はまた雲が厚くなり、月は全く見えないか、せいぜい雲越しにぼんやりした姿を見せる程度に。食の最大も過ぎたということで「即席観望会」も自然とお開きになりました。


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19時46分41秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO100, 露出1/125秒

こちらも、一応本影食の最後まで見届けて終了です。全体を通して天気は今一つでしたが、ハイライトは見られましたし、多くの方に喜んでいただけたので満足です。


最後に、ちょっとした反省点というか気づいた点としては、思った以上にスマホで撮影しようとされる方が多かった点でしょうか。スポット測光のやり方とかをきっちり説明できれば良いのですが、特にAndroidは機種によって操作も様々な上、「測光?なにそれ?」というレベルの人も少なくなく、なかなかそこまで手が回らないのが実情です。撮影中のPC画面を撮影してもらうのも一つの手とはいえ、うまい方法があるといいのですが……。

*1:「140年ぶり!」などと騒いでいたマスコミもありましたが、この食分自体は皆既月食の経過中に普通に見られるものですし、特に珍しいものではありません。ちなみに次の皆既月食は来年の11月8日。しかも、月食中の月によって天王星食が起きるというオマケつきです。

*2:Twitterを見ていると、「大部分月食」と言っている方もおられました。ダブルミーニングっぽくてうまい言い方かもしれません。

*3:というか、自重含め100kg以上の台車を押して運ぶとかいうこと自体が酔狂の極みなのですけど。

*4:実際には、三脚は写真の状態よりもさらにずっと低くしています。

*5:実際、欠け具合と高度を勘案した露出表を作っておいたのですが、薄雲の「減光フィルター」がかかっていることが多く、全く役に立ちませんでした。