昨日、5月26日は、日本国内で見られるものとしては約3年ぶりの皆既月食でした。
ところで、2011年に天文趣味に復帰してからの月食時の天気を振り返ってみると……
- 2011/12/10 皆既:〇晴
- 2012/6/4 部分:×曇
- 2014/4/15 部分(月出帯食):観測せず
- 2014/10/10 皆既:△~×曇のち雨(欠け始めのみ)
- 2015/4/4 皆既:×曇
- 2017/8/8 部分:×曇時々雨
- 2018/1/31 皆既:〇~△晴のち曇
- 2018/7/28 皆既(月没帯食):×雨
と、なかなかの酷い勝率。ぶっちゃけ、冬型の気圧配置で安定した晴天が望める冬以外、まともに晴れたためしがありません。今回も、10日前くらいの段階では晴れそうな予想だったのですが、前日の予報だと
東京付近は雲がべったり。幸い、高度の高い雲がメインのようで、雲を通して月が見える可能性はあったので、いつもの公園へ出撃することに。当初は、天気が良ければ
などなど、色々持ち出そうと思っていたのですが、そもそも月が見えない可能性も高いので、
- ミニボーグ60ED+K型経緯台(撮影用)
- MAK127SP+AZ-GTi
- 双眼鏡
のみに軽量化し、事前にロケハンしたポジションに陣取りました。
この時点では、東の空に雲の切れ間があってチャンスがありそうだったのですが……
月の出が近づくとともにどんどん雲量が増加。
月が出て本影食が始まっても、雲が切れるどころか、月がどこにあるのかすら全く分かりません。19時過ぎには一瞬雲が薄くなって月の位置「だけ」分かる時間帯も瞬間的にあったのですが、見えたのはその一瞬のみ。
一応、皆既の終わりまで粘ってみましたが、全天ベタ曇りで月明かりの「つ」の字も見えない状況は変わらず、21時ごろ、諦めて撤収となりました。
ところが、帰宅して荷物を片付けたのち、2階の自室から何気なく空を見上げると、なんと薄雲越しに欠けた月が見えるではないですか!あわてて機材を再度引っ張り出して、ベランダから手持ちでパチリ。
2021年5月26日21時44分 ミニボーグ60ED+マルチフラットナー 1.08×DG(D60mm, f378mm)
EOS KissX5, ISO1600, 露出1/100秒
これが今回の月食で撮れた唯一の写真になりました。薄雲越しとはいえ、雲自体はそれなりに厚く、ピントが合っているのかどうかの判断さえ難しい状態でしたが、完全なボウズよりはまだマシでしょうか……(^^;
ちょっと気になった点
ところで今回、公園で観望していてちょっと気になった点がいくつかあったので、メモっておきます。
皆既の時間帯だけ人が出てきた
今回の月食、月の出直後から始まるということで、見ようという人が夕方から集まってくるかと思ってたのですが、欠け始めの時間には広い公園にほぼ自分1人だけ。その後も人がいない状態が続きましたが、皆既の始まる20時ごろになると急に人が増えました。公園全体で50人近くはいたのではないでしょうか?
事前のニュース等で皆既の時間帯ばかりことさらに強調していたので、普段興味のない人は「夜8時過ぎに皆既月食が見られる!」と思って見に来たのだと思いますが、個人的には、この観望の仕方はちょっと残念に感じました。
皆既の状態というのは皆さんご存知の通り「赤黒い月が浮かんでいる」というだけのもので、月食のハイライトはむしろ地球の影の進行そのものにあると思っています。もちろん、楽しみ方は人それぞれで、皆既の場面だけを見る見方を否定するものではありませんが、月食の進行を通じて「月の動きってこんなに速いんだ!」とか「自分たちの足元にある地球の影があそこに写っているんだ!」といった驚きを感じることができるだけに、ちょっともったいないかなと思いました。
特に、親子連れも数多く見かけたので、余計にそう感じたのかもしれません。理科教育のいいタイミングなのですが……。
曇りなのに大勢の人が月食を見ていた
皆既の時間帯、空が完全なベタ曇りなのにもかかわらず「月はどのあたりに見えてますか?」と聞いてくる方が複数いらっしゃいました。原因として挙げられるのは……
- 空全体が一様な高層雲に覆われていて、雲の形や陰影がほとんど見えず、晴れていると思い込んでいた。*1
- 星が見えなければ曇っていることに気づいたはずだが、都心なので星が見えないことをそもそも不思議に思わなかった。
- 月の高度が低いことが報道されていたため、建物などの陰に隠れていると思い込んでいた。
- そもそも方位を把握していなかった。
といったあたり*2。このほか、皆既中の月の明るさを知らなかった(肉眼で見えないほど暗くなると思ってた)ケースも、もしかしたらあったかもしれません*3。
「曇ってるのに気づかなかった」というのはかなり意外な感じですが、普段都心の夜空を見慣れている自分なんかと違って、普通の人たちはそもそもこの時期、この時間に、どこにどんな星が出ているはずなのかも分からないわけで、結構そんなものなのかもしれません。
「スーパームーン」という言葉が独り歩きしてた
「珍しいスーパームーンの皆既日食!次回は12年後!」などと事前にマスコミ等が報じていたせいか、普段と違う、何かとんでもないものが見られると期待している人も少なからず見受けられました。これは「スーパームーン」という語感の「強さ」が生んでしまった一種の誤解です。
たしかに、満月が最も大きく見えるときと最も小さく見えるときとの間では、このくらい見かけの大きさが違います。とはいえ、その差は直径で10%ほどしかなく、横に同時に並べて比較するならともかく、普通はまず分かりません。ましてや、マンガやアニメでよく見る「地平線近くに赤い月がドーン!」みたいな見え方では断じてありません。
「スーパームーン」という言葉は元々占星術師が割と最近に使いだした用語で、これをNASAが援用したため、一気に一般に広がったという経緯があります。一度定着してしまった言葉を今さら「なかったこと」にはできませんし、この言葉が空を見るきっかけの1つになっているのは確かですが、過度の盛り上げを誘発するようでは「期待させておいて落とす」を繰り返すことになり、かえって逆効果です*4。こんなところでマスコミに対して騒いでも影響はほとんどないはずですが、「スーパームーン」という言葉を使うにしても、相当抑制的に使う必要があるかと思います。
ちなみにスーパームーン時の皆既月食ですが、月の見かけの大きさが大きい、近地点付近なので月の角速度が速い、地球との距離が近いので月の見かけの移動速度も大きい、と3つの悪条件が揃うため、理屈の上では皆既時間は短くなる傾向があり*5、月食としては実は大しておいしくなかったりします(^^;