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やっと冬本番

いつもなら冬型の気圧配置が続いて晴れっぱなしの時期のはずですが、今年は異常気象で年明け以降晴れ間はほとんどなし。年末に注文していたASI2600MC Proも、新型コロナウイルス流行の影響もあって納品時期が延びてしまい、意欲が減退気味だったのですが、ようやくこの週末になって「冬本番」といった気候になってきました。


そこで金曜夜、月没のタイミングでいつもの公園に出撃してきました。


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この日は、久々の冬型ということで安定した快晴だったのですが、その代わり風も強く、出撃時は5m/s以上の風が吹いていました。月没後は春の銀河が撮り頃なのですが、この強風なのでEdgeHD800(焦点距離2032mm)を持ち出すのは諦め、ED103S+SDフラットナーHD(焦点距離811mm)で撮れる対象を撮ることにしました。


この夜最初の狙いは、しし座の系外銀河NGC2903。ししの鼻先にあるかなり明るく大きい銀河で、メシエナンバーが付かなかったのが不思議なくらいの立派なものです。


露出条件は、普段はISO100の15分露出を基本にしているのですが、F値が比較的暗い(F7.9)ですし、天体の高度が高くて光害の影響が比較的少ないこともあり、1コマ当たりの露出時間を20分にまで伸ばしてみました。


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「撮って出し」はこんな感じ。「光害が比較的少ない」とはいってもそこは都心。背景レベルはかなり上がってしまっています。それでも、現場で軽く調整しただけで銀河の腕が確認できますし、感触は悪くありません。


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とはいえ、露出時間をこれだけ伸ばすと撮影中は暇です。そこでその間、同時に持ってきたAZ-GTi経緯台+MAK127SPで観望していました。都心なので、特に系外銀河の多い春の夜空ではそれほど大したものは見えないのですが、二重星は別。よほど暗いものでなければ光害も関係ありませんし、春の夜空にはコル・カロリのような美しい二重星もあります。SynScanアプリには二重星のリストもあるので、こういう観望スタイルには便利です。


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3時前にはNGC2903について予定のコマ数を撮り終えたので、目標をNGC5364付近の銀河群に切り替えます。この銀河群はおとめ座にあるのですが、いわゆる「おとめ座銀河団」とは別の集団になります。


これもNGC2903と同様、1コマ当たり20分の露出を確保してみました。予定のコマ数を撮ると天文薄明開始後に少し食い込んでしまいましたが、元々都心の空自体、田舎の薄明時みたいなものですから問題ないでしょう*1


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「撮って出し」はこんな感じ。こちらの場合、中央やや左上にある楕円銀河NGC5363は割とよく見えますが、その下のNGC5364はかなりおぼろげな写りです。また、銀河は他にも多数写り込んでいるはずですが、これもほとんど分かりません。果たして炙り出せるのでしょうか……?



帰宅後、仮眠をとってから処理にかかりますが、露出を多めに取った甲斐もあったのか、処理自体は比較的楽でした。まずはNGC2903から。


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2020年1月31日 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出1200秒×8コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

中央部をトリミングしていますが、渦巻の様子や渦がよく写っています。また、腕の中にはHα領域が見えていますが、色合いがやや薄いのはある程度仕方のないところ。これを強調しようと思えば、Hαのナローバンドフィルターを併用した方がいいでしょう。


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ちなみに、このNGC2903のあたりを星図ソフトで表示すると、NGC2905というのが寄り添っています。実はこのNGC2905、今はNGC2903とされている銀河の腕の一番濃い部分のことなのです。つまりこういうこと。


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NGCが編纂されたハーシェルの時代は当然写真などないですから、銀河の核の部分と腕の一番濃い部分しか見えなかったのでしょう。



次いで、NGC5364周辺の銀河群。


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2020年2月1日 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出1200秒×8コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

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「撮って出し」の状態では写っているのかどうか自体怪しい感じでしたが、どうにかなりました。中央左下の、きれいな渦巻銀河がNGC5364、その上の明るい楕円銀河がNGC5363です。また、NGC5356、NGC5348といったエッジオンの銀河も見えます。写真中で識別できる銀河について注釈をつけてみましたが、相当な数の銀河が集まっているのが分かります。


なお、注釈にあるAbell(エイベル) 1809ですが、これははるか遠方の銀河群です。


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この付近を拡大すると、暗い星のような、でも星とは少し違う像が見えますが、これの多くが1つ1つの銀河です。ただ、これらの銀河をはっきり識別するためには、好シーイングと長焦点の鏡筒が必要でしょう。




ところで……現場写真の画質が途中でいきなり変わったことに気付いたと思いますが、理由は簡単。

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コンデジを落として壊しましたorz 微妙にかじかんだ手で弄ったのが直接の原因で、見事に沈胴式の鏡筒がひん曲がっています。コンデジを落として壊したのは、14年ほど前に雪道で転んでPowerShot G3を地面にたたきつけて以来ですが、この時も沈胴式の鏡筒が壊れています。やはり出っ張っているだけに急所なんでしょうね……。


このPowerShot S120は性能と使い勝手のバランスが良く、非常に満足し愛用していたのですが、こうなってしまっては仕方ありません。後半の写真はスマホHuawei P20 lite)のカメラによるもので、意外とよく写るものだとは思いましたが、やはりどうにも力不足。CP+の直前というなんともイヤなタイミングですが、後継機を考えなければなりません。


順当にいけば、PowerShot G9 X Mark IIが機種の系譜的にも後継機なのですが、各種操作がタッチパネルメインで、操作の即時性に乏しい上に指を置く場所が窮屈なのが難。もう1つ上&最新機種のPowerShot G7 X Mark IIIはサイズと価格がネックになりそうな……。この際、PowerShot S120の中古という手もありますが……さて。


【追記 2020/2/2 12:30】
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壊れたPowerShot S120ですが、まさに代替機を買いに家を出ようとした直前、ダメ元で鏡筒を曲がったのと逆方向に強く押し込んだら、なんと、ひん曲がった鏡筒が元通りになって復活しました。ひょっとしたら光軸や手振れ補正機構に多少影響があるかもしれませんが、ちょっといじった限りでは致命的ではなさそうですし、これでまだしばらくはこのカメラで戦えそうです。

*1:実際、背景レベルはほとんど上がっていませんでした。