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春の銀河祭り&都心の天の川チャレンジ


この週末は、実にほぼ1か月ぶりの好天。Windyの予報でも曇る心配はほぼなさそうだったので、日没後からいつもの公園に出撃してきました。

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……って、晴れる予報じゃなかったんかい!orz


到着して空を見上げてみると、このあたり一帯だけ雲が被っています。それでも20時ごろにはどうにか雲が取れてくれたので、機材を展開して撮影開始です。


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この日の主砲はED103S+レデューサーHD(焦点距離624mm)。これにIRパスフィルターとASI290MM/MCを組み合わせ、視直径の小さな系外銀河を狙います。35mm判換算で3900~4680mmに相当する焦点距離なので、画素数はともかく、構図だけならそれなりの迫力で写せるはずです。


「春の銀河祭り」とはいえ、おとめ座を中心に対象は非常に多く、何をターゲットにするかはずいぶん迷ったのですが、今まで撮っていない対象ということで、メシエ天体の中でイマイチ存在感の薄いM61、そして2つの銀河が衝突している姿が有名なNGC4567-8を狙うことにします*1


撮影は先のM51の場合と同様、モノクロカメラで近赤外画像を、カラーカメラでRGB画像を得て、LRGB合成をする方針で。まずは近赤外の「撮って出し」ですが、Gain=110の5分露出の結果がこれ。


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背景の明るさの違いは、おそらく天体の高度&時間帯によるもの。光害の影響を受けづらい近赤外とはいえ、まったくの影響ゼロとはいかないようです。とはいえ、この時点でフェイスオンのM61の腕が見えるというのは、なかなか大したものです。


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同じくこちらはカラーの「撮って出し」。UV/IRカットフィルターのみの状態で、Gain=110の3分露出です。こちらだと、この時点ではいずれも銀河中心部くらいしか見えません。なお、光害カットフィルターを使わなかったのは、自然な色情報が欲しかったため。決してフィルターの付け外しが面倒だったとかそういう理由では……ゲフンゲフン


これらを全て各8枚ずつ撮影したのち、処理して出てきた結果がこちら。


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2021年4月11日 ビクセンED103S+レデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
L画像:ZWO ASI290MM, Gain=110, 露出600秒×8コマ, OPTOLONG Night Sky H-alphaフィルター使用
RGB画像:ZWO ASI290MC, Gain=110, 露出180秒×8コマ, OPTOLONG UV/IRカットフィルター使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0bほかで画像処理

まずはM61から。この銀河はおとめ座の「銀河密集地帯」からは南に少し離れた位置にありますが、おとめ座銀河団の一員です。実際のサイズは私たちの銀河系と同程度と言われています。立派な渦巻きを持つ見事な銀河なのですが、上記の位置の問題に加え、明るさが9.7等とやや暗いこともあり、どうにも存在感の薄い可哀想な子です。


このくらいクローズアップすると、腕が見事で興味深いです。巻き方がちょっとうみへび座のM83に似ている気もします。



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2021年4月11日 ビクセンED103S+レデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
L画像:ZWO ASI290MM, Gain=110, 露出600秒×8コマ, OPTOLONG Night Sky H-alphaフィルター使用
RGB画像:ZWO ASI290MC, Gain=110, 露出180秒×8コマ, OPTOLONG UV/IRカットフィルター使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0bほかで画像処理

そしてNGC4567-8。2つの銀河のうち、上がNGC4567、下がNGC4568です。今まさに2つの銀河が衝突し始めた姿で、写真で見ると、NGC4567の方がやや青味がかっているのが分かります。どちらも約12等とかなり暗い銀河ですが、激しい光害の中、よく写ってくれました。さすがは近赤外というところでしょうか。


ただ一方で、暗黒帯はやや不鮮明です。一般に赤外域での撮影の場合、暗黒帯は透けて写ってしまいます。これは、暗黒帯による減光の影響が短い波長の光ほど大きいためで、近赤外撮影の泣き所でもあります。もっとも今回の場合は、極端にクローズアップしたことでシーイングや微細なガイドズレの影響が出た可能性もあり、何とも言えないところです。


ちなみにこの銀河、"The Butterfly Galaxies"(ちょう銀河)という愛称がありますが、もう一つ有名な愛称として"The Siamese Twins"(シャム双生児)というのがあり、こちらの方が有名かもしれません。ただ、これはいわゆる結合双生児を指す俗称で、用語として不適切ということから、2020年8月、NASAはこの呼び名を使用しないと決定しています。




さて、これを撮った後、お遊びとして「東京都心から天の川が撮れるか?」にチャレンジしてみました。


以前から、試してみたいテーマではあったのですが、先日、けむけむさんが自宅から天の川の撮影に成功されているのを見て、尻に火が付いた形。この夜は透明度がイマイチでしたが、時間があるので試してみた次第です。


使う機器は、ここ最近のお手軽撮影でおなじみの構成で、EOS KissX5 SEO-SP3にシグマの格安レンズ18-50mm F3.5-5.6 DCの組み合わせ(焦点距離28mm、F4.5に設定)。ボディ内には光害カットフィルターLPS-P2-FFを内蔵し、追尾には赤道儀化AZ-GTiを用いています。


この構成で、とりあえず240秒露出で8枚確保しました。1枚の「撮って出し」はこちら。


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画角に地上の強烈なLED照明からの光芒が入って、かなりうっとうしいです。かろうじてさそり座と南斗六星、M8が確認できますが、当然天の川は影も形も見えません。


しかし、8枚コンポジットしたのち、DynamicBackgroundEstimationでざっくり背景を引いて強調してみると……


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見える!見えるぞっ……!!


40~50m先の真正面にLED照明がある上、フラット補正なしのこんな雑なやり方でも、案外ガッツリ天の川が浮かび上がってきて驚きです。考えてみれば、天の川が肉眼で見えるものである以上、トータルとして6等以上の明るさはあるわけで、写っても不思議はないわけですが……それでも、街の光を超えて星の光が地上に確かに届いているのだなぁと感じられて、ちょっとした感動です。


照明さえ直射しなければもう少しマシな画像になったと思うので、次は正面に強烈な照明がない場所でチャレンジしてみようかと思います。案外まともな絵が撮れるかもしれません。

*1:どうでもいいけど、NGC4567ってすごく覚えやすい……(笑)