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白色LED対応光害カットフィルター「LPS-D2」発売

以前、白色LEDと光害カットフィルターとの関係について、ちょっとしたエントリーを書きました。白色LEDは連続スペクトルで輝く上、最も光強度の強い波長470nm付近の光を既存の光害カットフィルターはカットしておらず、いずれ役に立たなくなってしまうのではないか……という内容です。

あれから数年、「ついに」というか「ようやく」というか、白色LEDへの対応を謳う光害カットフィルターが現れました。IDASのLPS-D2がそれで、M48mmとM52mmから先行して発売となります。価格は従来品のLPS-D1から据え置きです。


このLPS-D1とLPS-D2の特性の違いですが、メーカーのサイトでも横並びの比較が行われていないので、少し分かりづらいように思います。そこで、透過率などの数値をグラフから書き起こして比較してみました。*1


まずは、主な光害成分から。



図には水銀灯、蛍光灯、高圧ナトリウムランプ、白色LEDの各スペクトル*2、低圧ナトリウムランプで見られるナトリウム原子由来の輝線(589.0nm, 589.6nm)、および天体観測で重要な水素原子由来のHα(656.28nm)、Hβ(486.13nm)、酸素原子由来のOIII(495.9nm, 500.7nm)、硫黄原子由来のSII(671.6nm, 673.1nm)の各輝線を示しています。


従来、主な光害源とされてきた水銀灯は、可視光線として波長404.7nm、435.8nm、546.1nm、577.0nm、579.1nmの光を発しています。また、水銀は紫外域にも波長253.7nmのピークがあるのですが、これを蛍光物質に当てて光らせるのが蛍光灯です。そのため、蛍光灯は水銀の発する光に加えて、蛍光物質由来のピークがいくつか見られます。

ナトリウムランプは、昔ながらの低圧ナトリウムランプでは589nm付近の光しか出さないのですが、現在主流の高圧ナトリウムランプでは、電球内のナトリウム濃度が高いために複雑なエネルギーの吸収・放出が起こり、かなり幅広い波長域の光が出ます。

そして白色LEDですが、現在よく使われているのは、青色LEDに黄色の蛍光体を組み合わせたもので、青色LEDに由来する460nm付近のピークと、蛍光体に由来する570nm付近を中心とする幅広いピークが目立ちます。



ここにLPS-D1の透過率を重ねてみます。すると、水銀由来のピークと低圧ナトリウム由来のピークはうまくカットできているものの、蛍光灯や高圧ナトリウム由来のピークはカットしきれていないことが分かります。そしてなにより、白色LEDで最も強度の高い460nm付近のピークはほとんど素通しになっています。

昨今の照明事情を考えると、いささか心もとないのは確かです。


では、LPS-D2ではどうか、というのを示したのが下の図です。



LPS-D1で問題になっていた、白色LED由来のピークや高圧ナトリウム由来のピークにあたる波長域がばっさりカットされているのが分かります。光害カットの効果はかなりありそうです。一方で、水銀由来の光のうち、波長435.8nmと546.1nmの光はかなりの割合が透過してしまいます。水銀灯はだいぶ減ってきていますが、蛍光灯はまだそれなりの数が残っているので、環境によっては影響がそれなりに出そうです。

透過する波長域を見る限り、特性としてはAstronomikOPTOLONGのCLSフィルターの類にやや近い感じ。しかし400〜450nm付近の光も通すようになっているあたり、LPS-D2の方がカラーバランスは取りやすそうで、連続スペクトルで輝く天体に対しても使えるようにしようという配慮が見られます。

とはいえ、黄色〜オレンジにかけての色情報が大きく削られることになるので、被写体によっては注意が必要かもしれません。例えば、馬頭星雲の近くにある「燃える木」星雲(NGC2024)は、従来型の光害カットフィルターを用いた場合でも十分に露出を与えないとオレンジ色が出てきません*3が、LPS-D2の場合はさらに色が出づらくなりそうです。

*1:ウェブサイトで公開されている透過率等のグラフ画像を読み取って数値化し、グラフを書き起こしています。なので、多少の誤差はありますが、大きな違いはないはずです。

*2:ここに示したのはあくまで一例です。水銀灯以外は、製品によって実際のスペクトルはまちまちです。

*3:オレンジ色に相当する波長600nm付近の光がカットされるため、露出不足だと濁った赤色に写りがちです。