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惑星撮影用動画カメラ

口径20cmクラスの望遠鏡を手に入れることを考えた時点でやってみたかったのが、すっかり主流になった動画カメラによる月や惑星の高解像度撮影。これをやるためには、やはりこのくらいの口径がないと明るさ的になかなかつらいです。

そのためのカメラとしてここ数年人気があったのはSony製CCDを搭載したImaging Source社のDMKシリーズで、事実上のデファクトスタンダードとなっていました。ただ、安価なデジカメやビデオカメラが普及している現在からすると、例えば解像度640×480、1/3型のモノクロCCDを積んだエントリー機、DMK21AU618.ASが69300円などというのは明らかに高すぎです。

しかも、LRGB撮影*1まで視野に入れるとカラーとモノクロ、2種類のカメラをそろえねばならず、あっという間に15万円や20万円は行ってしまいます。さすがにこの出費は正当化できません。


しかし、ここにきてようやくというか、CMOSを使った安価な惑星撮影用動画カメラが登場してきました。このタイプで現在国内で容易に入手できるのはQHY社のQHY5L-II、ZW Optical(ZWO)のASI120MM(以上モノクロ)、同じくZWOのASI120MC(カラー)の3つです。

下の一覧表にある通り、QHY5L-IIとASI120MMが搭載しているチップは同じで、どちらもAptina ImagingのMT9M034を採用しています。このチップは量子効率(入射した光を電子に変換する効率)が非常に高く、ノイズの問題を差し引いても、従来の高感度CCDを十分に置き換えうるものです。一方、ASI120MCが搭載しているのは同じAptina ImagingのAR0130CS。こちらも非常に高い量子効率(ピーク時68%)を誇るチップです。




で、カラーとモノクロを同一メーカーでそろえることができる点、価格が最も安価である点、さらに12月から国内価格が値上がりする予定であることを考え、ZWOの2機種を購入しました。価格は税込みでASI120MMが32800円、ASI120MCが31800円でした。

ASI120MM, ASI120MC使用前簡易レビュー

…というわけで、入金の翌日には早くもカメラが到着しました。

箱の中身はカメラ本体と画角150度のワイドレンズ(焦点距離2.1mm)、フェライトコアつきのUSBケーブル、ST-4互換ガイドケーブル、ドライバCD、M42-31.7mmスリーブアダプター&キャップといったところです。これだけ入って3万円ちょっとというのですから、コストパフォーマンスはとんでもなく良いです。一体原価はいくらなんだろうか…(^^;

外見はMM、MCともほとんど同じで、本体裏の印字を見ないと区別ができません。これはちょっと不便ですかね。底面中央には1/4インチネジ(いわゆるカメラネジ)、四隅にはM4ネジのネジ穴(39mm間隔)が切られています。ZWOとしてはペルチェ素子をはじめとした冷却装置の取付を想定しているようです*2

商品写真を見ると大きそうに感じますが、実物は意外とそうでもありません。赤いアルマイト処理がされた本体は、中国製品にありがちな手抜き感がなく、なかなかきれいです。レンズはCSマウントのもので、Tマウントへの変換アダプタを介してカメラ本体に接続されます。レンズは距離指標も絞りもない簡素な作りですが、こんな簡易式のものでも、あればカメラの動作確認に使えますし、全天モニター用のカメラとしても面白いと思います。


カメラドライバのインストールは簡単で、ZWOのウェブサイトに記載されている通りにやれば特に問題はないでしょう。肝心の動画のキャプチャについては、一応ドライバインストール時に簡単なものが一緒に入りますが、これは機能が非常に限られていて、ほぼ動作確認用。実際の撮影にはFireCaptureSharpCapといったフリーウェアを使うことになります。


私はとりあえずFireCaptureを使うことにしましたが、現時点ではこれがちょっと厄介です。問題は2つあって、ASI120MCのフル機能を発揮させるためには現行バージョンの2.2ではなく2.3betaを使う必要があるというのが一点。そしてもう一点は、この2.3betaが日本語環境でうまく動作しないという点です。

前者はFireCaptureのサイトにある説明書きの通りにアップデートすれば大丈夫ですが、やはり最大の問題は後者。ただ、これについては幸い先人の知恵をお借りすることで解決することができます。具体的にはこちらの記事にある通り、start.batファイルを編集すればOKです。

私の場合、2.2をダウンロード→展開後にStart.batを修正→2.3betaのアップデート操作実施、の手順でうまく動作させられました。なお、海外製ソフトの常で、ユーザー名が日本語だったり、日本語を含むフォルダを扱う場面などで問題が出る可能性はありますので、その点は注意が必要です。


他にも、環境や使用状況によっては動作が不安定だったりする場合などあるようですが、このあたりはドライバやソフトがバージョンアップしていくうちに、いずれ解決していくでしょう。

カメラの接続方法について

LRGB撮影を行う場合、フリップミラーを介するなどして2台のカメラを望遠鏡に接続することになります。もしこの2台をPCに同時に接続できれば、いちいち配線のつなぎ替えをやらずに済むので大幅に省力化できます。

まずソフト側の対応ですが、この点は大丈夫そう。FireCaptureは多重起動が可能で、2台のカメラのそれぞれをモニターした状態で起動できます。ただ、問題はPCへのカメラのつなぎ方です。


私が普段利用しているLet'snote SX2の場合、本体向かって左側にUSB3.0ポートが2つ、右側にUSB2.0ポートが1つあるのですが、ここで2台のカメラを両方ともUSB3.0のポートにつなぐと、フレームレートが極端に低下してしまうのです。例えば、1台だと1280×960ピクセルのフル解像度で30fps前後を維持していたものが、2台つないだとたんに双方とも5fpsを切るような有様です。

おそらく、2つのUSB3.0ポートは内部でハブを使って分けられているだけで、そのためシグナルが干渉するなどしてこのような事態になったのだと思われます*3。実際、上の写真のように1台をUSB2.0ポート、もう1台をUSB3.0ポートにつないだところ、2台とも安定してフレームレートをを維持していました。


逆に言うと、USBポートが複数あるPCでも、内部接続の仕方によっては問題が発生する可能性があるということになります。特に、スペースに余裕のないスリムノートなどではこうした配線が行われている可能性があるので注意が必要です。

*1:RGB三色分解撮影の変法。輝度情報をモノクロカメラで、色情報をカラーカメラで一気に取得し、PC上で合成する方法。フィルターを用いた伝統的な三色分解撮影に比べ、フィルターワークが不要な上、全体の撮影時間が短時間で済む利点がある。自転の速い木星などの撮影で特に有効。

*2:もっとも、結露対策等は一切されていないので、実際に冷却カメラとして運用しようと思うとかなりの手間だろうとは思います。が、ASI120MM+coolerとかで検索すると、魔改造された例がちらほら…

*3:ZWOもカメラの接続にはハブを使わないよう注意しています。