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アイソン彗星

オールトの雲由来&太陽初接近の彗星のご多分に漏れず*1、事前の光度予測を嘲笑い続けているアイソン彗星ですが、さすがにここにきてそれなりに光度が増してきた模様。今は月の条件が悪い上、近日点通過後の方が核が適度に壊れるなどして明るくなる可能性が高いので、自分としては、近日点通過前は見たり撮ったりする予定はなかったのですが、天気がよさそうなのと、近日点通過後の「練習」の意味も兼ねて、アイソン彗星の観望・撮影をやってみることにしました。


23日の暦を確認すると、天文薄明(6等星が見えなくなってくる)が始まるのが4時55分頃、航海薄明(水平線が識別できるようになる。1〜2等星も徐々に見えにくくなってくる)が始まるのが5時25分頃、市民薄明(照明がなくても行動できる)が始まるのが5時57分頃となっていて、この時のアイソン彗星の高度はそれぞれ0.5度、5.7度、11.3度といったところです。

彗星の明るさが金星並とか三日月並だったら、市民薄明が始まるころでも見えるでしょうけど、ここまでの報告から予想される明るさは楽観的に見ても3等前後。となると、彗星が昇ってくる5時頃から航海薄明が始まる5時半頃までの勝負になりそうです。

一方、天体の高度が低いと、星の光は大気中を長い距離通ることになって大幅に弱まります。こうしたことを考えると、事前に全くの予備知識なしで3等程度の彗星を捉えようと思っても、見つけることすら困難なのは想像に難くありません。


幸い、おおいぬ座シリウスが昇ってくる位置が、23日朝にアイソン彗星が昇ってくる位置とほとんど同じなので、前日(22日)の夜にシリウスが昇ってくる位置、そして観測場所として想定していた場所から地平線近くのシリウスが見えることを確認しました。23日朝は、アイソン彗星のすぐ近くに(惑星の)水星があって比較的見つけやすかったですが、上で書いたように時間との勝負ですので、見つける時間を短縮できたのは結果的に大きかったです。



22日21時30分のシリウスの位置と23日5時10分のアイソン彗星の位置

というわけで、セッティング等の時間の余裕を見て、4時40分頃に近く(といっても家から徒歩30分)の多摩川河川敷に到着。東の空を見てみると、超低空にもかかわらず、水星が意外とはっきり見えています。透明度がよさそうで、これは期待が持てます。


で、まずは感度や絞り、露出時間を確認するために何枚か試し撮りをしていたのですが…5時頃撮影したものにアイソン彗星の姿が。このときの高度はわずか1.6度。まさかこんな低空で彗星の姿を捉えられるとは思いませんでした。春先のパンスターズの時と違って空気の透明度が高いのに加え、コマの集光がかなりしっかりしているようです。



2013年11月23日5時1分 Pentax K-5IIs+D FA MACRO 100mF2.8, F4.0, ISO1600, 露出10秒, アストロトレーサーによる追尾
囲み中央部、建物直上の光点が彗星

彗星が確認できればしめたものです。撮ったその場で彗星が確認できないことも想定して、画角が広めのD FA MACRO 100mmF2.8を使っていたのですが、位置さえわかればクローズアップで狙えます。早速DA55-300mmF4-5.8EDに付け替え、撮影を継続。そうこうしているうちに空はあっという間に明るくなり、30分あまりで撮影は終了となりました。



2013年11月23日5時22分 Pentax K-5IIs+DA55-300mmF4-5.8ED, f=300mm, F5.8, ISO1600, 露出10秒×6コマ,
アストロトレーサーによる追尾, 中央部をトリミング

上の写真は、撮影したうちの6コマ分をコンポジットし、軽く強調処理をかけたもの。

写真を見る限り、ようやくダストの尾もはっきりしてきて、いかにも彗星らしい姿になってきました。よく見ると尾の中の濃淡もわずかに見て取れます。しかし、写真で強調処理をかけた結果こう見えるのであって、眼視ではかろうじて光のシミが見える程度。それも場所が分かっていた上で「たぶんこれがそうかな…?」と思える程度のものなので、過度の期待は禁物です。

彗星の明るさですが、近くにあるおとめ座λ星(4.5等)やHIP69269(4.9等)との比較から考えると、3等台は確実にありそうな感じです。ただ、薄明の真っただ中の上、近くに同程度の明るさの星がないため、とても断定はできませんが…。



アイソン彗星と近くの恒星の明るさ比較

ただ、いずれにしても明るさは数か月前に予想されていたものからはほど遠く、見つけたり撮影したりするにはそれなりの機材、または経験が必要になります。残念ながら現時点では、一般の初心者がパッと見て楽しめるようなものでないことだけは確かです。自分が撮影していた場所の近くで、観察・撮影を試みていた人が何人かいましたが、みなうまくいかなかったようでした。

ちなみに明日ですが、5時半の時点で彗星の高度は3.8度しかありません。今朝の実績を考えると、もし撮影を狙うのであれば、高度が2度以上になる5時20分ごろからの10分間が勝負になると思います。難易度は低くないですが、今の天気が続けば十分勝算はあると思います。

*1:コホーテク彗星やオースチン彗星、パンスターズ彗星など死屍累々です。