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EdgeHD 800強化計画

先日導入したEdgeHD 800ですが、シュミットカセグレン系に共通の弱点として、光軸が狂いやすいこと、そして密閉型鏡筒ゆえ筒内気流が収まりにくいということがあります。また、どちらかといえば写真用途を志向しているにもかかわらず、ピントの微動装置がないのも弱点。

というわけで、鏡筒購入前から予定していた購入計画を発動しました。

光軸調整対策


まずは、光軸調整を簡単にするための"Bob's Knobs"。工具を使わないと回せない光軸調整ネジと交換して使う、専用の手回しネジです。対策としては定番ですね。

ちなみに、EdgeHDの光軸調整ネジはアメリカ製品でよくあるインチネジではなく、ミリネジ(M3)なので、手頃な手回しネジを見つけることができれば、それで代用してもよさそう。ただし、その場合は副鏡ユニットを固定しているリングや鏡筒のふたと干渉しないようなサイズのものを選ぶ必要があります。Bob's Knobsの場合、そうした面倒がないのがいいところです。


ところで、届いたネジを見てみると、ウェブサイトの表記では"Black oxide steel"となっていたのに、仕様が変わったのかどう見てもただのステンレスネジ。さすがにこのピカピカはいただけません。


そこで、ネジ部分をマスキングしたうえで、つや消し黒のタッチアップペンで黒く塗装してみました。


塗装が乾いたら、あとは説明書の通りネジを交換して完了。無事それらしくなりました。これで光軸調整に工具を持ち出す必要はなしです。

筒内気流対策 その1

次は筒内気流対策。購入したのはDeep Space Productsの"TEMPest"。いわく"TEMPerature Equilibration System for Telescopes"の略だそうですが、要は鏡筒に取り付ける小型の換気ファン。EdgeHDの鏡筒には最初からフィルター付きの換気孔(チューブベント)がついていますが、これと交換して取り付けます。


ファンユニットは2つ1組。これらと両者をつなぐケーブルとがセットになっています。ファンユニットは一方が吸い込みで、もう一方が吸出し。これで主鏡背面に一定の空気の流れを作り出し、温度順応を速めます。

2つのファンユニットはどちらにもDCジャックが設けられていますが、最終的に2つのユニットは電源ケーブルでつなぐことになるので、どちらか片方に電源をつなげば2つともファンは回ります。

使われているファンはSUNONのGM0517PDV3-8。17mm角・8mm厚の小型ファンです。軸受けが磁気浮上式(MagLev)になっていて、回転に伴う振動が少ないのが特徴らしく、海外誌のTEMP-estのレビューを見ても、運転しっぱなしでも観測や撮影に影響を与えないことが評価されています。

作りとしては、チューブベントカバーに小型DCファンとDCジャックを付けたようなものですので、ある程度の工作技術があれば、同じようなシステムを自作できると思います。


説明書等は一切ありませんが、単純なものだけに取り付けは簡単。鏡筒についているチューブベントのカバーを外したら、代わりにTEMPestのファンユニットを取り付けます。ファンユニット同士を接続するケーブルは、写真のように鏡筒内部を通して反対側に引き出し、もう一方のユニットと接続します。なお、この作業のとき、主鏡は目いっぱい後退させておいた方が良いです。主鏡バッフルや主鏡を支えるシャフトはグリスまみれなので、こうしてグリスの付いた面が露出しないようにしておかないと、ケーブルがグリスでひどく汚れるばかりか、ケーブルとグリスが粘着して、ケーブルを通すのが難しくなってしまいます。

取り付けについては、Cloudy nightsのこちらの記事なども参考になるでしょう。


TEMPestの電源はDC12Vなので、電源供給は赤道儀駆動用のバッテリーから…でいいのですが、少量とはいえ限りある電気を持っていかれるのは癪なので、最近選択肢の増えたモバイルバッテリーを電源として使うことを考えました。

もっとも、DC12Vが出力できるモバイルバッテリーというのは意外と種類がなく、またあったとしても、PCなどでの使用を念頭に置いているせいか、容量過大で大きく重い上に高価なのが難点。しかし、秋葉原のイケショップでちょうどいいバッテリーを見つけました。


こちらの記事でも紹介されている、DC12V 3800mAhの小型リチウムイオンバッテリーです。値段は記事の通り4980円。内容はバッテリー本体のほか、充電用のACアダプター、30cmほどのDC-DCケーブル、USB-DCケーブル、そしてこれにつないで使うミニUSB、マイクロUSB、旧iPhone/iPod dockの各アタッチメントが入っていました。

TEMPestで使われているファンの消費電力は0.4W@DC5Vが2つですから、流れる電流は2つで160mAh@DC5V。ファンの抵抗が一定なら、12V駆動のときに流れる電流は2つで380mAh程度になります。バッテリーの実容量は搭載されているDC-DCコンバータの性能にもよるのでなんとも言えませんが、5〜7時間程度は持つでしょう。

いかん、計算間違えた orz

TEMPestで使われているファンの消費電力は0.4W@DC5Vなので、流れる電流は0.08A。抵抗は5/0.08=62.5Ω。TEMPestの場合、ファンが2つ直列でつながっているので合成抵抗は125Ω。つまり、12Vかけた時に流れる電流は0.096A=96mAとなるので、バッテリーの実容量が表記の半分だとしても、20時間近く使える計算になります。



そして、ピギーバックマウントとエツミの「スマートフォンアダプター」を利用して、バッテリーを鏡筒に搭載。なかなか格好良く収まったと思うのですが、どうでしょう?

筒内気流対策 その2


上記のTEMPestは、どちらかというと使用中の温度順応がメインの目的。鏡筒全体を温度順応させるために、別途STARIZONAの"Cool Edge"も購入しました。

こちらは最近のセレストロンの鏡筒で採用されている"Faster"と呼ばれる取り外し可能な副鏡ユニットの仕組みを利用して、副鏡の代わりにフィルター付きのファンを装着し、さらにこのファンユニットに副鏡ユニットを取り付けて光学系全体の温度順応を促進しようというシステム。言葉で説明するよりは、上記リンク先の動画でも見てもらった方が早いのですが、なかなかよく考えられた仕組みだと思います。

海外のレビューによれば、このCool EdgeとTEMPestの併用で、口径28cmのEdgeHD 1100鏡筒でも30分ほどで温度順応が十分に完了したとのことなので、性能的にはかなり期待できそうです。

ピント微動装置

最後は微動装置。一般的なシュミットカセグレン系の鏡筒の場合、構造上ミラーシフトが避けられないこともあって、Moonlite Focuserのような外付けのクレイフォード式接眼部なども考えたのですが…EdgeHDの場合、バックフォーカスが普通のシュミットカセグレンより長く、またレデューサーが専用品のため、その分、接眼部取り付けに使うフランジの厚みに配慮が必要でなにかと厄介。


というわけで、結局、既存のピントノブをそのまま置き換える、Starlight Instrumentsの"Feather Touch Micro Focuser"を選択しました。総金属製のピントノブは、高級感があってなかなかに美しいです。


取り付けは、説明書の通りにやれば特に迷うことはなく。ノブの背が純正のものと比べるとずいぶん高くなるので、カメラなどと干渉しないかとちょっと心配しましたが、実際に取り付けてみると特に問題はなさそうです。


というわけで、これで強化は一通り完了。あとは晴れるのを待つだけなんですが…まずは台風27号が通り過ぎてくれないことには…ねぇ。