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SXD赤道儀による写真撮影のコツ

最近、SXやSXD、オートガイド、撮影といったキーワードで検索してこられる方が多いので、我流ですが、SX/SXD赤道儀による写真撮影のコツをご紹介しておこうと思います。SX/SXD赤道儀はDCモーターのレスポンスの悪さや赤緯軸周りの弱さも手伝って、写真用赤道儀としてみた場合、決して理想的とはいいがたいものですが、それでもちょっとした工夫でずいぶんマシになるのは確かです。

もっとも私自身、中学〜高校の頃に「R-130S+スーパーポラリス赤道儀」の組み合わせでごく簡単な天体写真を撮っていた程度で、現在のシステムを導入したのがたかだか1年半前。経験として豊富とはとても言い難いですが、少しでも参考になれば幸いです。

逆に「ここはこうした方がいい」といったご指摘は大歓迎ですので、よろしくお願いします。

足元はしっかり

SX/SXD赤道儀と組み合わされているSXG-HAL130三脚は、カメラ三脚と同じ感覚で設置でき、強度もそこそこある使い勝手の良い三脚です。しかし、脚が完全に固定されているわけではないので、ややねじれなどに弱い傾向があります。

通常の観望ではあまり問題になることはありませんが、写真撮影…特に直焦点撮影では焦点距離が長い分、不安要素は少しでも排除しておきたいところです。

そこで導入しておきたいのが、ビクセンマーケティングなどで販売されている「アクセサリートレイ」。これを三脚に取り付けると、3本の脚の相互の位置がガッチリ固定され、極めて強固な三脚に化けます。価格も安いですし、単に物置としても便利なのでお勧めです。ビクセンマーケティングの他、スターショップ(旧・誠報社)でも取り扱っています*1


あと、設置時に水準器を用いて三脚の水平を取るのも忘れずに。眼視で天体を導入するだけなら、多少の傾きはアライメントの過程で補正できますが、こと撮影となった場合、余分な修正動作を入れさせないためにも基本はしっかり押さえておきましょう。

機材のバランス取り

赤道儀を使う上での基本ですね。方法は以前書いた通り

ただ、SX/SXD赤道儀の場合、クランプフリーにしても軸周りの動きが渋く、バランスが合っているのかどうか分かりづらいのが問題です。この場合、軸を挟んで等距離のあたりを押し上げたり押し下げたりして、手にかかる負荷が同程度になっているかどうかを確かめます。特に、赤緯軸はSX/SXD赤道儀の構造的弱点ともいえる部分で、ここのバランスが合っていないとガイドが暴れる原因になります。しつこいくらい慎重に合わせてください。

なお、できればこのバランス取りの際、カメラやオートガイダーを取り付けたうえ、おおよそのピント位置までドローチューブを繰り出しておきます*2。屈折鏡筒の場合、ドローチューブの繰り出し量によって鏡筒の全長が変わり、バランスも変化するからです。

機器構成がいつも決まっているなら、鏡筒バンドの位置などにマジックで印をつけておけば次回以降が楽になります。

撮影対象の導入とアライメントデータのクリア

SX/SXD赤道儀で撮影を行う上で、最も重要なところかもしれません。

視野内に目的天体を導入したら、一度赤道儀の電源を切り、再起動します。SX/SXD赤道儀を撮影に使う場合、この「儀式」が大事です。

SX/SXD赤道儀では、アライメントの結果に基づいて、星空に対して赤道儀がどういう向きで設置されているのかを計算し、この計算結果に基づいて星を追尾します。もし、アライメントにおいて目標天体を視野の真の中央に完璧に導入できたなどという奇跡的状況でもあれば別ですが、機材の精度もあり、これらはどんなに慎重にセッティングしても多少ずれているものです。この場合、SX/SXD赤道儀はこの「ズレ」を補正するために、計算値に基づいて赤経赤緯軸を動かし、対象天体を視野中央に入れ続けようとします。

ところが、いわゆるガイド撮影を行う場合、オートガイダーは実際の星の動きを監視し、これがズレないように補正を入れます。つまり、赤道儀による補正とオートガイダーによる補正がバッティングすることになるわけで、主に赤緯軸周りを中心に極めて不安定な追尾挙動を示すことになります。

そこで、撮影対象を視野内に捉えた時点で再起動し、アライメント結果をクリアしてやるわけです。これで赤道儀側が勝手に補正をすることはなくなりますから、オートガイダーに従順になってずいぶんと扱いやすくなります。

再起動時、望遠鏡をホームポジションにするように指示が出ると思いますが、これは「OK」だけ押してスルー。要は赤経軸さえ恒星時駆動していてくれさえすればOKなのです。しかもオイシイことに、この状態では赤道儀側が実際の望遠鏡の姿勢を認識できていませんので、副次的効果として、いわゆる「子午線越え」の問題*3が発生しなくなります*4。ただし、この場合は機材が三脚などに衝突しないかどうか、ユーザーがしっかり見張っていてやる必要があります。

なお、再起動の間に撮影対象の天体は多少動いてしまっているので、Starbookで望遠鏡を微動させて目標天体を再度視野中央に収めます(当然、Starbook上の表示は全くあさっての方向を指しているはずですが、これも無視です)。

カメラのセッティング

これはSX/SXD赤道儀に限らず一般的な話ですが、意外と無頓着な人もいるので。

天体写真の撮影ではカメラの向きに原則があります。

月や惑星の撮影の場合、天体の自転軸と画面の縦方向を合わせ、月の場合は「北」が画面の上に、惑星の場合は「南」が画面の上にくるようにします*5。一方、星雲・星団など一般的な天体写真の場合は、作画上の意図がない限り、天の北極の方向を画面の上にします。

これらがきっちり決まった写真は違和感がなく、見ていて気持ちのいいものです。

前者の場合は、実際に天体を視野内にとらえてから調整するしかありませんが、後者の場合、撮影の前…望遠鏡のセッティングの段階でカメラの向きを決めてしまった方が厳密に向きを合わせることができます。

屈折望遠鏡のように接眼部と視線方向が同じ方向を向いている望遠鏡の場合、望遠鏡をセッティングし、鏡筒が真北を向いている状態*6でカメラを装着します。この状態では望遠鏡は左右方向には傾いていないはずですから、水準器を用いてカメラを正しくセットすれば、方向がきっちりと決まるというわけです。

具体的には、縦構図にする場合にはカメラを水平に、横構図にする場合には垂直にすればOK。このとき便利なのが、アクセサリシューに装着するタイプの水準器です。私が使っているのは、ハクバの「ルミナスレベラー2WAY」。縦位置、横位置とも対応している上、蓄光タイプなので暗いところでも使えて便利です。もちろん、電子水準器を内蔵しているカメラなら、それを使えばよいでしょう。

なお、ニュートン式の場合は接眼部が90度曲がっているわけですから、ホームポジション(つまり鏡筒が真西を向いている状態)にしてから同様に調整すればOKです。


…と、パッと思いつくのはこんなところでしょうか。特に、3番目のアライメントデータのクリアについては利点も多いので、どうしてもガイドが安定しないという場合には、試してみる価値はあるかと思います。

*1:価格は地味にスターショップの方が安かったりします。

*2:レデューサーの着けはずしなど、途中で機器の構成を変更した場合も、原則としてバランスを合わせなおします。

*3:子午線を挟んで天体を追尾し続けようとすると、強制的に望遠鏡が反転してしまう問題

*4:Starbook側は、望遠鏡がホームポジションにあると勘違いしているので、極軸周りに90度以上回るまで警告が出ません。

*5:月は肉眼でも見えるので違和感を感じないように正立像で、惑星は望遠鏡で見たままの倒立像で、ということです。

*6:SX/SXD赤道儀の場合、ホームポジションにする前。望遠鏡のカタログ写真でよくある、あの姿勢です。