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太陽系天体の分類を考える

昨日、新しい「惑星」の定義の原案が提出されたわけですが、セレスやカロンまで「惑星」とされて戸惑った人も多かったと思います。実は自分もそうでしたが(^^;、よく考えてみると、これはなかなかよくできた分類であることが分かります。
冥王星が発見された頃、太陽系の天体はそのサイズによって大きく「惑星」と「小惑星」に分けられていました。当時、冥王星は地球程度の大きさがあるものと考えられたため、「惑星」として分類されたのです(もし、冥王星が今知られている程度の大きさだということが当時分かっていたら、何か別のカテゴリに入れられていたのは間違いないと思います(^^;)。
ところが、冥王星の大きさは研究が進むにつれてどんどん下方修正され、とうとう地球の月より小さくなってしまいました。さらに、太陽系の外縁部に「エッジワース・カイパーベルト天体EKBO)」の存在が確認され、その中に冥王星の大きさに匹敵するものが次々と発見されるに至って事情は大きく変わってしまいました。つまり、冥王星の大きさの下方修正&巨大なEKBOの発見で、惑星と小惑星の境目があいまいになってしまったのです。
とはいえ、惑星として2番目に小さい水星と巨大EKBO冥王星のサイズの違いは決して小さくありません。水星の大きさを基準に惑星を再定義したらスッキリしそうです。しかし一方で、冥王星が惑星であるというのは文化的に定着してしまっている事項であり、これをコロコロ変更するのはあまり望ましくありません。さらに、万が一水星より大きなEKBOが見つかると、同様の議論がまた蒸し返されることになります。こうしたことを考えると、惑星というものを大きさだけで定義するのはもう不可能です。
そこで、今回の分類です。
この分類では、惑星の定義として単純に大きさを用いることをあきらめ、「自己の重力で球状となった、恒星の周りを回る天体」をすべて惑星とすることにしています。つまり「赤道直径〜km以上」といった大きさで線引きするのではなく、天体の大きさが結果としてもたらす「形状」に着目することで、「惑星」という言葉が指すものの範囲を実質上拡大し、文句なしに「冥王星は惑星である」といえるようにしたのです。
その一方で、水星〜海王星までの惑星と冥王星EKBOは性質や成り立ちが大きく違いますから、これらを区別するために「惑星」の中に、海王星以遠の軌道を回る天体を指す「Plutons」というカテゴリを新設。また、セレスについては、従来「小惑星」として扱われてきたという歴史的経緯から、「Dwarf planet」と呼んで、他の惑星(Classical Planets)と区別するようにしています*1
つまり、「惑星とそうでない天体は形状で区別」、「Plutonsは軌道で区別」、「Dwarf Planetsは『小惑星』と呼ばれてきた歴史的経緯で区別」ということですね。「Dwarf Planets」の扱いがいささか恣意的な感じもしますが、海王星の軌道内に今後、従来の「小惑星」サイズを上回るような新天体が発見されることはまずないでしょうから、実用上の問題はないと思います。
以上のようにすることで、従来の惑星は「Classical Planets」として体面を保ち、冥王星も「惑星」から陥落することはなく、今後も続々と見つかるであろう巨大EKBOは「Plutons」としてまとめることができる…。結構うまい落としどころのような気がします。

*1:同様に、これまで「小惑星」として扱われてきたパラスやベスタ、ヒギエアなど「Plutons」以外の天体が「惑星」と認定された場合にもおそらく「Dwarf Planets」と呼ぶことになるかと思います。ところで「Dwarf Planets」の日本語訳、いったい何になるんでしょうねぇ?直訳すると「矮惑星」といったところですが、いささか語呂が悪いですね。