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「恋する小惑星」を検証してみた 第6話

「恋する小惑星」の第6話は、タイトル通り文化祭回。前半は文化祭に向けての準備、後半は文化祭本番でした。


桜先輩の悩みは前回まででおおよそ解消されたようで、吹っ切れたような眩しい笑顔が印象的。後半では新キャラが顔見せ程度に出てくる一方、先輩たちの引退も発表されました。次回以降、人間関係も大きく動いてきそうです。


さてさて、今回もいつものように天文ネタを回収していきましょう。




みら『できたー!じゃーん!地球でーす!』
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地学斑が校庭のボーリングで汗を流す一方、天文班は文化祭で飾る太陽系の模型の作成中。みんな、なかなか気合が入っています。



みら土星できました!』
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土星の北極付近は一段暗くなっていますが、惑星探査船ボイジャーカッシーニ、また地上からの観測により、この暗い模様は不思議なことに六角形をしていることが分かっています。みらの作った土星でも、そこはかとなく極が六角形っぽく塗られているあたり、細かいですね*1



あお(でもこのペースだと今日のノルマが…)
モンロー『じゃあ次!』
みら・あお『『え!?』』
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モンロー天王星海王星はあんまり模様ないから』
みら・あお『『おう…』』
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モンロー先輩、雑ゥ!


とはいえ、地上から見たときに両惑星の表面模様を見分けるのは、アマチュアレベルの機材では不可能に近いので、現実的な解かもしれません(^^;*2 色合いについては、海王星の方が青味が深いので、向かって左側が海王星、右側が天王星でしょう。



あお『あ…すっかり暗く…』
みら『あ!ちょうど見やすい所に』
モンロー『そろそろ中秋の名月ね』
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2017年の中秋の名月は10月4日。この後のすずとの会話で、この日が上弦の月であることが分かるので、この集まりは9月28日であることが分かります。月の傾き加減などが正確なのは言うまでもありません。




すず『月の満ち欠けパンケーキです。特製生クリームで本日の月の形を再現しています』
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さて、いよいよ文化祭当日です。時間的に前後しますが日付がらみでもう1つ。すずが生徒会長のみさに焼いたパンケーキですが、ここで描かれた月の形とカレンダーを突き合わせると、文化祭開催日は10月14日(土)(月齢24)ないし15日(日)(月齢25)のいずれかかと思われます。学校のスケジュール的に考えると、土曜に開催して日曜休み……というのは大いにありそうなので、14日でしょうか?*3



モンロー『こちらは手作りの模型です。太陽系のサイズや距離の比率を合わせると教室を飛び出しちゃうのでデフォルメしてあります』
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教室に飾られた太陽系の模型です。ここでの惑星の配置ですが、2017年10月14日ごろの惑星の位置を見てみると……


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ご覧の通り、ぴたりと一致します。決して適当に模型を配置してあるわけではないのですね。モンロー先輩の指導でしょうか?



なお、ここでモンロー先輩が「デフォルメしてある」と言っていますが、それも当然で、実際の縮尺で太陽系の模型を作るとえらいことになります。


まず、各惑星の大きさ。仮に、太陽の直径を50cmとして各惑星の模型を作ると、その直径は……


惑星直径
水星1.8mm
金星4.3mm
地球4.6mm
火星2.4mm
木星51.4mm
土星43.3mm
天王星18.4mm
海王星17.7mm

と、こんな具合。木星土星ですらピンポン玉(直径40mm)より少し大きい程度で、水星~火星までの各惑星はゴマ粒並みの小ささになってしまいます。


そして、次に各惑星の軌道ですが、本作のモデルとなっている川越女子高等学校*4を中心に軌道を描いてみると……


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教室を飛び出すどころか、敷地内に収まるのでもぎりぎり火星(赤色)まで。木星の軌道(黄土色)は半径約280m、土星の軌道(茶色)は半径500mを超え、天王星の軌道(青緑色)は半径1kmを超えて川越駅まで達します。海王星(青色)に至っては半径約1.6km……。東は川越城を超え、西は西川越の駅付近まで達します。


分かりにくいかもしれないので、同スケールで新宿駅および大阪梅田を中心にした図を置いておきますが、こんな広さのところをゴマ粒~ピンポン玉程度の大きさのものが周回しているのですから、いかに太陽系が「スカスカ」かが分かるかと思います。


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幼女『その線は流れ星?』
あお『これは小惑星帯ハビタブルゾーンです』
幼女『じゃああのもこもこは雲?』
あおエッジワース・カイパーベルトです』
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幼女『うう…』
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幼女にこの説明はさすがに酷でしたね(^^; いかにも融通の利かないあおっぽい(笑)


ハビタブルゾーンとは、地球と似た生命が存在できる領域のことで、十分な大気圧がある惑星上において、その表面に液体の水が存在できる範囲を指します。太陽系のハビタブルゾーンは、前提条件や計算の方法によって範囲がまちまちなのですが、おおむね金星の軌道の外側~火星の軌道あたりまでというのが一般的です。


この模型だと、火星の内側を通っている円がハビタブルゾーンの境界線でしょうか?ただ、これだと外側の境界がやや厳しいですし、そもそも内側の境界がないので、ちょっと片手落ちのような気はします。


火星の外側の円は、言うまでもなく小惑星帯でしょう。


エッジワース・カイパーベルトは、1943年と1949年にアイルランド天文学者ケネス・エッジワースが、次いで1951年にアメリカの天文学者ジェラルド・カイパーが短周期彗星の巣として提唱したものです。


彼らは、短周期彗星の元となる小天体が、海王星以遠の領域に円盤状に分布していると考えました。当時、これはあくまで単なる仮説でしたが、約40年後の1992年8月30日、ハワイ大学のジェーン・ルーとデイビッド・ジューイットが、このエッジワース・カイパーベルトに属すると考えられる小惑星(15760)アルビオン(仮符号1992 QB1)を発見し、エッジワース・カイパーベルトの存在が証明されました。


こうした天体はその後次々と発見され、現在では3000個以上に達しています。かつては惑星と分類されていた冥王星も、現在ではエッジワース・カイパーベルトに属する天体の一員と考えられています。



伊部『へー。これが太陽系か』
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宇佐美『全部手作りなんだ~。すごいね』
みら『ありがとー!作るのすっごく楽しかったんだ』
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『これじゃ全然不十分ね』
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みら『…? ありがとうございましたー』
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さてさて、新キャラの七海 悠。太陽系の模型になにやら不満がありそうでしたが……。


よもや「スケールがおかしい」とか「オールトの雲が表現されてない」といった理不尽な難癖をつけるとも思えないので、考えられそうなツッコミどころとしては、惑星の自転軸の傾きがまったく無視されているあたりでしょうか?


この模型では、どの惑星も自転軸が公転面に対して垂直になっていますが、実際にはいくらか傾いています。特に極端なのは天王星で、自転軸の傾きは約98度……つまり、ほとんど横倒しになって太陽の周りを回っているのです。また、土星については自転軸の傾きが表現されていない限り、地球からは常に真横から見る形になってしまい、環が観察できないことになってしまいます。


いかにも真面目そうなキャラだけに、こうしたあたりが再現されていないことに不満を感じたというのはありそうです。


【追記 2020/02/11】

そういえば、「木星天王星海王星に環がない」というのも、指摘点としてはありそうです。衛星を全部再現しているわけではないこともあり、やや難癖気味ではありますが……。




※ 本ページでは比較研究目的で作中画像を使用していますが、作中画像の著作権は©Quro・芳文社/星咲高校地学部に帰属しています。また、各星図はステラナビゲータ11/株式会社アストロアーツを用いて作成しています。

*1:そこまで意図してない可能性も十分あるけど。

*2:完成形を見ると、後でちゃんと模様は描いたようです。

*3:親御さんが大勢来ているので日曜の線も捨てきれませんが。

*4:特徴ある門扉はほぼそのまま再現されています。校舎は大きく異なりますが、モデルの1つとなったと思われる「明治記念館」が学内にあります。