PHD2の日本語マニュアルを公開しています。こちらからどうぞ。

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ASI2600MC Pro試運転


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金曜の夜、薄雲がありましたが多少の星が見えていたので、自宅前でASI2600MC Proの試運転を行いました。実戦でのN.I.N.A.の使い勝手の確認も兼ねています。


本気でガッツリ撮る気もないので、鏡筒は小型軽量なミニボーグ60EDで。光害カットフィルターについては、これまで使用してきたLPS-P2-FFが使えない*1ので、別途購入したIDASのNGS1*2を光路中にセットします。


PCとASI2600MC Pro、ガイドカメラ(ASI120MM)、赤道儀をケーブルで繋いだら、まずはPHD2を起動してガイドカメラと赤道儀を接続。次いでN.I.N.A.を起ち上げてASI2600MC Proと赤道儀、PHD2を接続します*3。これによって、撮影だけでなく赤道儀のコントロール、ガイド状況の監視などもN.I.N.A.から行うことができるようになります。


センサーの温度は0℃にセットし、冷却開始。この夜の気温は16~17℃程度だったので、冷却装置も28%程度の稼働率でした。あとでバッテリー残量を確認しましたが、かなり省電力で済んだようです。



この間に、赤道儀のアライメントと望遠鏡のピント合わせを行います。ところが、ここでトラブル発生。ライブビューがうまく働かないのです。

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基本的には「撮像」タブにあるビデオカメラの絵が描かれたボタンを押せばライブビューが表示されるはずなのですが、コマが一向に更新されず、ロクに動画になりません。これではどうしようもないので、ゲインを上げ、「循環(ループ)」をオンにした上で、露出時間をうんと短くして静止画を連続的に撮影する形にしてピント合わせを行いました。


なお、初期状態では画像表示パネルのところにある「自動オートストレッチ」のスイッチ(ワンド(「魔法の杖」)が描かれたボタン)がオンになっています。状況によっては、これによって画面が真っ白になったりするので、表示がおかしい場合はオフにしてみてください。


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で、これは後で気が付いたのですが「オプション」→「撮像」→「画像オプション」で「デベイヤ画像」、「デベイヤ処理HDR」、「連結なしストレッチ」がいずれもオンになっていました。


「デベイヤ画像」は、カラーカメラからのデータをリアルタイムでカラー画像に変換し、プレビュー画面に表示する機能、「デベイヤ処理HDR」や「連結なしストレッチ」はこのカラー画像に処理を加えて見やすさを上げる処理ですが、当然のことながら、ライブビューでこれらの処理を行うのは非常に重い作業です。コマ送り状態になるのも無理のないところでしょう。特にライブビューを使う場合は、これらをオフにしておくことをお勧めしておきます。


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アライメントを済ませたら*4、撮影目標へ望遠鏡を動かします。この時、便利なのが「スカイアトラス」タブ。天体の名前や種類で目的天体を検索でき、見つかったら「導入」ボタンを押すだけで目的天体を導入してくれます。


ここでさらに「プレートソルビング」を走らせます。プレートソルビングの操作パネルは「撮像」タブの中にあります。


あらかじめプレートソルビング用のソフトを入れて設定しておくと、プレートソルビングの操作パネルから撮影した直後にプレートソルビングが走り始め、あっという間に望遠鏡の向いている向きを同定してくれます。このとき、「同期」をオンにしておくと、赤道儀のコントローラの方にもプレートソルビングの結果が直ちに反映されて便利です。この状態で、再度「スカイアトラス」タブから目的天体を選んで「導入」ボタンを押すと、目的天体がほぼ画像の中央に入ります。


最近なら当たり前の機能なのでしょうが、プレートソルビングからの流れはまさに「目から鱗」です。また、精度自体も大したもので、画像中に電線が入ってしまっても、きちんと正しい座標を返してきたのには驚きました。



さて、この日は月齢16の大きい月が空にあったので、試運転をするにしても何を撮ろうか迷ったのですが、短時間で撮れるということもあってりょうけん座の球状星団M3をターゲットにすることにしました。


撮影時のカメラのゲインは、とりあえず0に設定。というのも、このカメラの場合、Gain=0でも既に0.8e-/ADUとなっていてユニティゲインを下回っているためです。これ以上感度を上げても、表現力の面で旨味はありません。


なお、ZWOの出している資料によると、Gain=100にするとモードが切り替わり、リードノイズが大幅に下がりますが、フルウェルキャパシティも同様に下がっており、ダイナミックレンジに大きな差は生じません。飽和しやすくなるのは確かなので、特に都心のような光害地では、わざわざゲインを上げる利点はほとんどないように思います。



露出時間については、まったく初めてのカメラなので加減が分からず、とりあえず10秒露出で連写してみます。これを64枚確保してコンポジット後、出てきた結果がこちら。


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2020年5月9日 ミニボーグ60ED+レデューサー 0.85×DG(D60mm, f298mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, 0℃, Gain=0, 露出10秒×64コマ, IDAS NGS1使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

うむ。まずは期待通りの写りです……というか、写ってくれないと困ります(^^; 元画像は6248×4176ピクセルの高精細なので、実寸大で切り出してもこのとおり。


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ここまでトリミング耐性が高いと、色々と遊べそうです。


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また、撮った画像の光度分布を見ると、等高線がきれいな円を描いています*5。一眼レフと違ってミラーボックスがないので、ケラレなどもなく、実に素直な光度分布です。これならフラット補正も比較的簡単に済ませられそうです。

*1:APS-C機のEOSマウント内に設置するタイプなので。

*2:そのうち、LPS-P2との比較もやってみようと思います。

*3:PHD2はN.I.N.A.側から起動することも可能ですが、PHD2に複数のプロファイルを登録してある場合、選択することができないようなので、PHD2のみ別途起動した方が無難です。

*4:プレートソルビング前提なら、アライメントはいらなかったりするのですが。

*5:若干偏心していますが、これは光害カブリによるものです。

イメージングソフトの選定

ASI2600MC ProのようなCMOSカメラを使っていくにあたって、イメージングソフトに何を使うかは大きな問題です。


一眼レフなどと違い、CMOSカメラの場合は本体に操作部分がほとんどありません。つまり、ソフトが唯一のインターフェイスになるわけで、この使い勝手がカメラの使い勝手に直結してしまいます。できるだけ使い勝手が良く、また機能的に過不足ないものを選びたいところです。


とはいえ、CMOSカメラ用のイメージングソフトについては、今まで惑星撮影用にFireCaptureをメインにしていて、あとはSharpCapをちょっと触ったくらい。DSO*1撮影用のイメージングソフトを選ぶにしても、あまりに不案内です。そこで、Twitterで簡単なアンケートをしてみました。



圧倒的に人気だったのが「APT(Astro Photography Tool)」でした。機能が豊富な割に安価(18.70ユーロ)で、しかも課金しない状態でも大半の機能が使えるというコストパフォーマンスの良さが好まれたようです。


「MaximDL」は冷却CCDの時代からの定番で、高価ながらもその実績と機能の豊富さが支持された形でしょうか。一方、国産の「ステラショット 2」は案外票が伸びない結果になりました。初代の「ステラショット」がCMOSカメラに対応しなかったこと、比較的新しいソフトで実績に乏しいこと、セット販売されている無線制御デバイス「GearBox」を中心にバグが多発し信頼性に疑問符が付いたこと、などが嫌気された理由でしょうか。


「その他」ではASIAIR Proのようなハードのほか、「SharpCap」や「Astroart 7」、「N.I.N.A.(Nighttime Imagaing 'N' Astronomy)」、「INDI + EKos」などが挙がっていました。みなさん、案外色々な環境を試されているようです。


そこで、教えていただいたソフトを中心に、その動作や使い勝手を確認してみました。自分なりの判断にはなりますが、何かの参考になれば幸いです。

ASIStudio

https://astronomy-imaging-camera.com/software-drivers

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ZWOが自社製品用に無料で配布しているイメージングソフトです。惑星撮影用の「ASICap」、DSO撮影用の「ASIImg」、ライブスタック用の「ASILive」の3つのソフトに分かれていて、「ASIStudio」自体はその入り口にすぎません。


"We recommend customer to install this video capture software to test and get familiar with your camera."(カメラをテストして慣れるために、このビデオキャプチャソフトウェアをインストールすることをお勧めします。)と書いてある時点で分かるとおり、機能としては最低限で、あまり細かい設定はできません。ただ、逆に言うと最低限のことはこのソフトで出来るわけで、初心者には優しくできています。

ASICap

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惑星撮影用のモジュールです。一番昔からあったソフトだけに、これのみ日本語化されています。使い方は簡単で、機能が少ないこともあって、わざわざマニュアルを見るまでもない感じです。


なお、このソフトでは冷却CMOSの温度コントロールはできません。

ASIImg

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DSO撮影用のモジュールです。これも、操作パネルを一見しただけで使い方が分かる単純なソフトです。ただ、単純なだけに、ゲインの設定が「Low」、「High」の二択しかない、撮影シークエンスをセットする機能すらなくが限定的(露出秒数はドロップダウンリストで選択する形)など、かなり機能面での不足を感じます。あくまでも動作確認用と捉えた方が良さそうです。

ASILive

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最近人気の出てきた「ライブスタック」専用のモジュールです。ライブスタックというのは、撮影した各コマをリアルタイムでコンポジットしていく機能です。リアルタイムで星雲の姿を浮かび上がらせることができるので、気軽な観望や観望会での使用に向いています。


こちらも機能は極めてシンプルで、あまり細かい調整はできません(ダーク補正やフラット補正は可能)。高機能を求めるならSharpCapなどを使うべきです。とはいえ、手軽さを取るならこれはこれで「あり」かと思います。


SharpCap

https://www.sharpcap.co.uk/

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もともと惑星撮影用のソフトから発展してきた、非常に高機能のイメージングソフトです。フル機能を備えたSharpCap Proを使うには、年1600円が必要になります。ライブスタック機能が極めて強力で、愛用者も少なくありません。


ただ、このソフトは機能を後からどんどん追加してきた関係もあってか、インターフェイスがやや煩雑になってしまっている印象があります。実は惑星撮影用にSharpCapを使おうとしたこともあったのですが、どうも使い勝手になじめず、FireCaptureに流れてしまった過去があります。


用途などが変われば印象も変わるかと思ったのですが、どうも自分には合わないようです。


APT(Astro Photography Tool)

https://astrophotography.app/index.php

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アンケートで最も人気のあったイメージングソフトです。上にも書きましたが、機能が豊富な割に安価(18.70ユーロ)で、しかも課金しない状態でも大半の機能が使えます。機能面での不満はほとんどありません。


使い勝手ですが、各機能のメニューはタブで整理されていて分かりやすいです。あまり迷うことなく使える見通しの良さも好感が持てます。操作性もよく練られていて、特に"Ringy Thingy"と呼ばれるインターフェイスは、マウス操作のみで数字を入力できてなかなか便利です。


ただ、唯一弱点を挙げるとすればメニューの文字の小ささです。大画面で使う分には問題ないのですが、普段撮影に使っているLet'sNote CF-NX2(12.1インチ、1600×900ピクセル)の画面で使うと、文字はおおむね2mm以下と芥子粒のようになってしまいます。老眼の進んだこの目*2には厳しいです。


Windows 10の側でスケーリングを調整する手もありますが、これはこれで画面が狭くなり、使い勝手に影響します。


このあたりは開発元も気にしているのか、一応、「Tools」→「APT Setting」→「Advanced」に「Bigger UI Font」というチェックボックスが用意されています。これをオンにしてみると……


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確かに文字は大きくなるのですが、今度は文字がボタンに収まりきらず、かなり見苦しくなってしまいます。読めないボタンも慣れてしまえば問題ないのでしょうけど、快適さに欠けるのは否めません。


N.I.N.A.(Nighttime Imaging 'N' Astronomy)

https://nighttime-imaging.eu/

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今回、アンケートで教えていただいて初めて知ったのですが、オープンソースで開発が進められているイメージングスイートです。フリーウェアにもかかわらず、単なるキャプチャソフトにとどまらない多彩な機能を持っています。


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例えば、スカイアトラスを参照して目標天体の出没の確認や導入を行えますし、写真データを基にした構図確認も可能。もちろんプレートソルビングにも対応しています。


しかも、現在Nightly Buildの段階ではあるものの、1.10からは日本語にもほぼ完全対応しています。訳も不自然な部分はほとんどありません。APTと違って文字が見やすく、各種の表示もグラフィカル。タブによる分類で、機能の見通しがいいのも助かるところです。機能面でもAPTに全く負けていないように思えます。



使い勝手等の感じ方については個人差がありますし、好き嫌いといった個人の嗜好も反映されるので優劣は付けづらいのですが、私としてはN.I.N.A.が非常に使いやすそうに感じました。しばらくはこのソフトで運用してみようかと思います。

*1:Deep Sky Object. すなわち星雲や星団のこと。

*2:元々強度の遠視持ちなので、健康な人と比べると老眼の進行は圧倒的に早いのです。

ZWO ASI2600MC Pro簡易レビュー

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去る4月30日、前夜の撮影後に仮眠をとって起きてくると、宅急便が届いてました。この大きさはもしやっ……!!


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はい、昨年末に注文したものの、コロナ禍に巻き込まれて出荷が大幅に遅れていたZWOのASI2600MC ProとEOS-EFマウントアダプターII、そしてオマケのDuo Bandフィルター(2インチ)です。本来は1月早々に出荷予定だったのですが、大陸での新型コロナウイルスの流行にモロにぶち当たってしまい、実に4か月待ちとなってしまいました。


1月にウイルス流行&出荷遅延のニュースが流れてきた時点で、最悪GWくらいまでは出荷が伸びることを覚悟してたのですが、結果的にはまさに予想通りで、我ながらいい勘していたと言わざるをえません(^^;


さて、せっかくモノが届きましたので、実使用前ですが、ごく簡単にレビューめいたものを書いてみたいと思います。

外観&同梱品


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さて、まずはASI2600MC Pro本体の同梱物ですが、ボックス内にはカメラ本体とこれを入れるソフトケース、M48-T2変換リング、M42-M42延長筒(21mm)、M42-M48延長筒(16.5mm)、2インチキャップ、六角レンチ、PC接続用USB3.0ケーブル(2m)*1USB2.0ケーブル(0.5m)×2、クイックガイドが入っていました。どうやら欠品はなさそうです。


クイックガイドは、最低限のセットアップ手順を示しただけの本当にごく簡素なもので、あえて読まなくてもいいかなという感じです。なお、これにはカメラドライバ、ZWO製キャプチャソフトの他に、カメラ用のASCOMドライバも入れるように指示がありますが、最近はキャプチャソフト側でネイティブ対応している場合も多いので、ASCOMドライバについては必要があったら入れるくらいの感覚でいいと思います*2


ここでちょっと心配なのはUSB3.0ケーブルです。いわゆる「きしめんケーブル」で取り回しが良さそうなのはいいのですが、強い曲がり癖がついて断線が心配です。また、そもそもシールドが弱そうで、実用時のノイズ混入、あるいは逆にノイズ放出の可能性が気になります。シールドが不完全なUSB3.0の機器、ケーブルが、2.4GHz帯の無線(WiFi, Bluetooth等)と干渉しうるのは有名な話です。
www.intel.com


特に、至近で2.4GHz帯を利用する機器(ASIAIR PRO、AZ-GTi等)を使う場合は、頭に入れておいた方がいいかもしれません。もしノイズが問題になるようなら、シールドのしっかりしたケーブを用いる、フェライトコアを追加するなどの対策が必要になってきそうです。


また、2mというケーブルの長さもなかなか微妙なところ。短すぎはしないですが、決して余裕のある長さでもありません*3。規格上、ケーブルは最長3mまで長くできますが、このくらいの長さのケーブルになると固くて重く、取り回しが厄介です。カメラからのケーブルは短いものにとどめ、望遠鏡周辺に固定したハブやアクティブリピーターケーブルに繋ぎ、ここからPCへ引き回した方が使いやすいかもしれません。


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次にEOS-EFマウントアダプターII。こちらは本体のほかに、2種類のシムリングが2枚ずつ入っていました*4。このシムリングはどうやら、このアダプターに2インチフィルターを内蔵した際に生じる光路長の変化を調整するためのもののようですが、各シムリングの厚さが不明なこともあり、ちょっと面倒そうです。


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アダプターはマウント部と本体、延長筒の3つに分割できます。延長筒は取り付けると光路長を5mm延長することができ、ASI 224, 290, 385等、フランジバックが12.5mmの小型カメラに対して使用します。今回のASI2600MC Proでは不要です。


本体の内側には2インチフィルターを取り付ける溝が切られています。なお「ひょっとしたらAPS-C用のマウント内フィルター(LPS-P2-FFなど)が付いたりするのかしらん?」と思ったりもしましたが、案の定、付けるには内径が大きすぎました。ただ、なんらかのスペーサーで内径を小さくするなど工夫すれば、付けられないこともなさそうです。


マウント自体はそこそこしっかりした印象で、軽く触った感じではグラつきのようなものは感じられませんでした。


ノイズ比較


さて、冷却カメラで気になるのは、何と言っても画像のノイズだと思います。そこで、非冷却の場合と0℃まで冷却した場合について、ダークフレームのノイズを、これまで使用していたEOS KissX5 SEO-SP3と比較してみました。


露出は1コマ当たり10分とし、ASI2600MC Proはゲイン0、EOS KissX5 SEO-SP3は感度をISO100に設定しました。そして、撮影した画像を現像後、レベルを一度自動調整。次いで明暗の階調幅が揃うように白色点を動かしています。なお、以下の写真は画像中心部の900×600ピクセルの範囲を切り出しています。


まずは非冷却のASI2600MC Proから。撮影時のセンサー温度は33℃です。


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結構ノイズが出ています。この手のCMOSカメラには、デジカメと違って画像エンジンが載っていませんから、RAWの段階でノイズ除去が働かず、CMOSからの信号がそのまま出てくることになります。裏面照射型のIMX571とはいえ、素の性能はこんなものだということでしょう。


なお、ZWOは本製品で「ゼロアンプグロー」を謳っていましたが、たしかにアンプに由来する熱ノイズは一切見られませんでした。これは非常に喜ばしいことです。



次にこれを0℃まで冷却すると、こうなります。


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一気にノイズが消えました。


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これはヒストグラムを見比べても明らかで、ピークの幅が狭まると同時に、すそ野の広がりも抑えられています。このくらいノイズが減ってくれるなら、夏場も安心して撮影できそうです。



そしてEOS KissX5 SEO-SP3。撮影時のセンサー温度*5は非冷却のASI2600MC Proと同じく33℃です。


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意外なことに、ホットスポットらしき輝点はあるものの、恐ろしくノイズが目立ちません。


確かにピクセルサイズは4.3μm四方と、3.8μm四方のIMX571より大きいですが、ピクセルの面積比は1.3倍くらいですし、9年前のEOS KissX5のセンサーに対し、IMX571は最新の裏面照射型。ここまであからさまに差が出るほどの性能差があるとはとても思えません。


となると、やはり画像エンジンの仕業と考えざるをえません。内部でどんな処理をしているのかが完全なブラックボックスなので、何が起こっているかは推測するしかないのですが、暗部のトーンカーブを意図的に寝かせてノイズを目立たなくするなど、なんらかのノイズリダクション処理を噛ませている可能性は高そうに思います。その場合、天体写真において淡いガスなどの微妙な階調は失われてしまいますし、短時間露出での画質は著しく悪化することになります。このあたりは自分の感覚とも比較的一致するところで、中らずと雖も遠からず、といったところではないかと思います。


消費電力


冷却カメラに手を出すのをためらう最大の理由の1つが、消費電力だと思います。遠征地に発電機を持ち込む人などを見ていると、心配になるのも無理のないところです。


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そこで、ASI2600MC Proの消費電力がどの程度のものなのか、実際に確かめてみました。室温約25℃の条件下、センサーを0℃に冷却し、露出15分でダークフレームを撮り続けて、どのあたりでバッテリーが切れるか確認します。内蔵の結露防止ヒーターはONの状態にしました。使うバッテリーは、内部バッテリーを9Ahのもの(KungLong WP1236W)に交換したSG-1000です。


ASI2600MC Proの消費電力は、カタログ値で最大3A。おそらくはそのほとんどが冷却装置由来のものでしょう。今回、センサーを0度に冷やすために、冷却装置はおおむね60%程度のパワーで動いていたので、9Ah÷(3A×0.6)=5で、5時間も動けば上出来、実際にはヒーターやCMOS周辺の回路も電力を消費するので、4時間半くらいで力尽きるかと思っていました*6


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ところが、実際には思った以上に善戦し、バッテリーが切れたのは実に約5時間55分も経ってからのことでした。いったん低い温度に達すると、そのあとは意外と電力を消費しないものなのかもしれません。


大容量のバッテリーを新調しなければと覚悟していたのですが、これならそこまで大容量のバッテリーでなくとも運用できそうです。

*1:厳密には「USB3.0」は2019年2月に「USB3.2 Gen 1x1」に改称されているのですが、ここでは面倒なのでUSB3.0で通します。

*2:ZWOのサイトでもOptionalの扱いになっています。

*3:普段、惑星撮影で使ってるUSB3.0ケーブルは2mなので、なんとかなりそうではありますが。

*4:リングの表面処理の違いからそう判断しましたが、違うかもしれません。

*5:BackyardEOSでの表示値

*6:おまけに、今までの使用で多少なりともバッテリーは劣化しているはずですし。