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久々の木星撮影

木星が衝を11月3日に控え、観望好機となっています。「そういえば、今年はまだ木星を撮ってないな……。」と思い、昨夜、玄関先に機材を展開して撮影を行いました。


惑星撮影システムについては、先日構築しなおしたものを使用。拡大系としてはMeade 3x TeleXtenderを用いています。
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当たり前なのですが、過去のシステムと違い、光軸をきっちり合わせることができるというのは気持ちがいいです。今回は撮影開始の30分以上前から、焦点内外像を用いてじっくり時間をかけて光軸を追い込みました。完璧とは言えないまでも、かなりいい線まで合わせられたのではないかと思います。


子午線を超えると、木星が家の影から姿を現します。大赤斑は沈んでしまっていますが、木星の脇には第1衛星のイオがいて、まさにこれから木星面を横切るところでした*1




2023年11月1日23時53分56秒(日本時間)
セレストロンEdgeHD800+Meade 3x TeleXtender SXP赤道儀
L画像:ZWO ASI290MM, Gain=230, 30ms, 2000フレームをスタック
RGB画像:ZWO ASI290MC, Gain=280, 30ms, 2000フレームをスタック

イオの影が木星面に落ち始めています。ご存じの通り、イオは火山活動が活発な衛星で、その表面は硫黄分で覆われています。この硫黄由来の黄色は写真でも一目瞭然です。


イオは見る見るうちに木星に近づき、やがてその影をはっきりと木星面に落とすようになります。



2023年11月2日0時12分40秒(日本時間)
セレストロンEdgeHD800+Meade 3x TeleXtender SXP赤道儀
L画像:ZWO ASI290MM, Gain=230, 30ms, 2000フレームをスタック
RGB画像:ZWO ASI290MC, Gain=280, 30ms, 2000フレームをスタック

影は変に尾を引いたりすることもなく、しっかりとほぼ円形になっていて、光学系の光軸がほぼ合っていることが分かります。


しかし、1枚目の写真と20分ほどしか違わないにもかかわらず、木星の自転やイオの公転がハッキリ分かるのは面白いところ。これだけダイナミックな変化が捉えられるのは木星くらいでしょう。


本当はこの後も撮影を継続したかったのですが、翌日が平日なのに加え、シーイングも悪化傾向だった*2ので、このあたりで終わりとしました。久々の惑星撮影でしたが、「機材を出して良かった」と思えた夜でした。



ちなみにですが……2枚の写真とも、よく見るとイオが楕円形に写っているのが分かります。これはイオの公転速度によるものです。


イオの平均公転半径は42万1700kmなので、軌道を円と仮定するとその円周は2πr=264万9619kmとなります。一方、イオの公転周期は42時間23.6分=15万2616秒。つまり、1秒間に264万9619km÷15万2616秒≒17.4km移動することになります。


一方、木星の赤道面の直径は14万2984km。これが写真上では約560ピクセルで写っているので、1ピクセル当たりの距離は約255kmとなります。


ここで、イオが真正面にあると仮定して、その写真上での移動量を見積もってみると、撮影時間を90秒として17.4×90÷255≒6ピクセルとなります。実際、写真上のイオの像は12×18ピクセルくらいなので、おおむね計算通りと言えます。


逆に言うと、イオをほぼ正面に捉えたこのアングルでは、どうやっても「被写体ブレ」が避けがたいことになります。上の計算では、15秒くらいまでならほぼ円形に写ることになりますが、さすがにここまで短いと、ウェーブレット処理などを考えると不都合の方が大きそうです。

*1:以降の写真は、伝統的な流儀にのっとり惑星の南極が上になるようにしていますが、現在では北が上の写真も増えていて「こうするべき」といった明確な指針はないに等しい状態です。日本の「月惑星研究会」でも、画像について「南を上」とする条項は2019年から削除されています。https://alpo-j.sakura.ne.jp/Contents/Meeting/Tokyo/Meet1903.htm(5.木星南北問題 参照)

*2:1枚目と2枚目の写真を比較しても、2枚目の方が解像感が悪いです。