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準大接近後の火星

9月末~10月頭にかけて秋晴れの日があったので、このまま天気が良くなるのかと思いきや、秋雨前線は停滞するわ台風は来るわで、関東は相変わらずの悪天候が続いています。しかも、偏西風が北に偏っているせいで移動性高気圧も北に偏り、関東には右回りに北東の湿った空気が流れ込む最悪のパターン。こうなってしまうと好天はしばらく望めそうもありません。


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そこで、薄雲越しとはいえ火星が見えた月曜の夜、玄関先に望遠鏡を引っ張り出して撮影にチャレンジしてみました。


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前回は光軸ズレに由来すると思われる像の悪さに悩まされたので、今回は拡大システムに強化を加えました。具体的には、スライド機構を含んでいるミニボーグ鏡筒DX-SD【6011】の部分を鏡筒バンド&アリガタで補強してみました。重量は増しますが、これならスライド部分でのガタは排除できるはずです。


光軸を慎重に合わせたのちに撮影を開始しますが、この日は上記の通り薄雲越しの撮影になったため、火星の手前を雲の濃い部分が通過するたびに像の解像度や明るさが激しく変化します。またシーイングも悪く、撮影の条件としては最悪でした。おまけに、まだまだ終電前の時間のため、数十m離れた位置を数分おきに走る電車の振動にも悩まされました。


それでも、比較的マシな写りのショットを選んで処理した結果がこちら。


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2020年10月13日0時18分41秒(日本時間)
セレストロンEdgeHD800+Meade 3x TeleXtender(D203mm, f6096mm) SXP赤道儀
L画像:ZWO ASI290MM, Gain=250, 30ms, 1500フレームをスタック
RGB画像:ZWO ASI290MC, Gain=250, 30ms, 1500フレームをスタック
OPTOLONG NightSky H-Alphaフィルター(L画像)およびOPTOLONG UV/IRカットフィルター(RGB画像)使用


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光軸を慎重に合わせたこともあってか、薄雲で邪魔された割には、オーロラ湾周辺を中心にディテールも比較的よく出てくれました。日時的には準大接近のタイミングを過ぎたとはいえ、視直径は22秒以上あり、まだまだかなりの大きさです。


もっとも光軸調整については、EdgeHD800のミラークラッチを締め込むとわずかにズレるのも観測されていて、突き詰めるとなかなか厄介そうです。クラッチを締めないと、今度は鏡筒の傾きが変わるとともに光軸がズレそうですし、なかなか悩ましいところです。


惜しいのはやはり薄雲の存在で、フレーム数が稼げなかったのに加え、火星からの光が雲の水滴によって虹色に分光し、これが縁の部分に同心円状に乗ってしまいました。画像処理でなるべく目立たないようにはしていますが……。


ちなみに、今回の処理ではRegistax6でのウェーブレット処理に加え、L画像についてステライメージを用いて「最大エントロピー法」による画像復元を行っています。惑星写真で有名な熊森氏が用いている手法で、注意して使わないと偽模様が出現しかねませんが、パラメータをうまく調整して使えばなかなか効果的です。


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画像処理の効果
(1) スタッキングのみ
(2) Registax6によるウェーブレット処理
(3) (2)+最大エントロピー法による画像復元

トライバーティノフマスクの効果

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先にcockatooさんから譲っていただいたトライバーティノフマスク、今回早速試してみましたが、結論から言うと今回は失敗でした。


まず、このトライバーティノフマスクを使うとどのような干渉像が出るかですが、Maskulatorでシミュレートしてみるとこんな感じ。


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3本セットの光条が3対出ていて、光軸が合っていればこれらがきっちり対称に現れます。一方、光軸がズレていると、3本セット内での光条の対称が崩れます。この光条の位置は副鏡の光軸調整ネジの位置に対応しているので、対称が崩れているセットの側にあるネジを調整すれば、簡単かつ精密に光軸を合わせられるというわけです。詳しくは以下の記事を参照ください。

シュミカセ光軸合わせの新兵器・トライバーティノフマスク | 天リフOriginal


そこで、マスクを鏡筒にセットしてその像を見てみると……


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…………うん?光条どこ?


これ、結論としては簡単で、カメラの設定に対して光条が暗すぎ、写っていないのです。上の画像では、ペガスス座α星マルカブ(2.49等)を対象に、Gainを最大まで上げたうえでシャッター速度を50msとしていますが、これではまるで不足ということです。試しに、Maskulatorで光源の明るさをぐっと落としてみると……


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まさに動画とそっくりのパターンが現れます。つまり、見えているのは回折パターンのごく中心部だけで、残念ながら見えているのがこれだけでは、光軸調整はかなり困難です。


この光学系で、このトライバーティノフマスクを用いて光軸調整を行おうとするなら、少なくとも露出時間を秒単位まで伸ばす必要がありそうです。もっとも、光条が写るほど露出を伸ばしたところで、光条が視野内に収まるかどうかは別問題ですが……(^^;