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【追記あり】ひまわり8号からの画像

先日、こんなツイートを見かけました。



この両者の違いですが、簡単に言ってしまえば「利用している波長の違い」です。


天体写真でナローバンド撮影に親しんでいる方なら分かるように、写真は撮影に使う波長によって写るものがまったく変わってきます。現在、衛星写真として提供されているのは気象衛星ひまわり8号」によるものですが、この衛星は以下の16個の波長域で観測を行っています。




バンド1~3は青、緑、赤の可視画像……いわゆる私たちが目で捉えているのと同じもので、地球に向けて普通のカメラで三色分解撮影したものとほぼ同じと思ってよいです。ただ、その特性上、このバンドは昼間にしか使えません。夜は太陽光が地上に当たらないため、真っ暗になってしまうのです。可視光に波長が近いバンド4~6も同様です。


一方、バンド7より長い波長については、夜間でも使用可能です。これは、バンド1~6では主に太陽光の「反射」を見ていたのに対し、バンド7~16は熱を持つ物体からの「放射」、あるいは放射源からの「吸収」*1を見ているためです。


赤外線画像が示すもの


あらゆる物質は電磁波を出しますが、理想的な物質(黒体)を考えた場合、そのエネルギー(波長と強度)は物質の温度に応じて決まります(プランクの法則)。つまり逆に言えば、決まった波長における放射強度が測定できれば、物体の温度を推測できるということになります。


ここで、地球の大気(対流圏)の温度分布を考えると、一般に地上付近が最も暖かく、上空に行くほど温度が下がっていきます。つまり、上空の雲ほど温度が低いため、放射される電磁波強度は低くなります。ここで電磁波強度の低いところほど白く、高いところほど黒く表示すれば、雲の分布を反映した画像になります。



夜間画像として提供されることの多いバンド13の画像はまさにこれで、Yahoo!の衛星画像もこのバンド13の画像を使用しているものと思われます。
weather.yahoo.co.jp


ただ、バンド13の画像には1つ大きな弱点があります。低いところにある雲(下層雲)が写りにくいのです。


バンド13の画像はあくまでも雲の温度を可視化したもの。下層雲は地表に近く温度が高いため、晴れた地表面・海面との温度差が小さく、非常に見えにくくなってしまいます。



これをカバーするのが、夜間の*2バンド7の画像です。


バンド7も、雲の温度を反映するのはバンド13と同じですが、下層雲については、下層雲を形成する水がバンド7の波長の赤外線を散乱してしまうため、センサーに届く赤外線量が減り、結果的に温度が低く計測されます。そのため、バンド13に比べて下層雲がよりよく写ります。逆に、上層の薄い雲については、バンド7はバンド13よりも透過率が高いため、下層からの放射が突き抜け、写りが悪くなります。*3


SCWの衛星画像は、昼間は可視画像、夜間はおそらくバンド7と13の画像を組み合わせることで、下層雲も含めて視認できるようにしているものと思われます。
supercweather.com


天体観測時に使いやすい衛星画像サイト


さて、天文用途でも何かと重宝するひまわり画像ですが、SCWの衛星画像には1つ大きな問題があります。それは、夜間の場合に背景が市街光を入れた写真になっていることで、これだと市街地は雲があろうがなかろうが真っ白に写ってしまい、全く役に立ちません。


ここが例えば「陸地の輪郭のみ」とかを選べるようになっていたら、かなり使いやすいのですが……。


【追記 2022.8.15】
本件につき、SCW公式からTwitter上で言及がありました。

↑ ここまで


一方、気象庁のウェブサイトでは「赤外画像」としておそらくバンド13の画像が見られますが、細かいバンドの指定はできません。
www.jma.go.jp



気象衛星センターではバンド3, 7, 8, 13の画像などが確認できますが、こちらはこちらで画像の拡大ができず、使い勝手に難があります。
www.data.jma.go.jp


そこでお勧めしたいのが「ひまわり8号リアルタイムWeb」。すでに使っている方も多いかと思いますが、「24時間地球」のページでバンド1~16のすべてのバンドについて画像を確認することができます。AndroidiPhoneともにアプリもあるので、出先で確認するにも便利かと思います*4
himawari.asia
play.google.com

ひまわりリアルタイム

ひまわりリアルタイム

  • 太陽放射コンソーシアム
  • 天気
  • 無料
apps.apple.com


もっとも、厳密なことを言えば「ひまわり8号リアルタイムWeb」も、各バンドの画像についてレベル調整の具合が違っているように見え*5、100%素直には受け取りづらい部分があります。


とはいえ、利便性が高いのは確か。自分は今のところ、「ひまわり8号リアルタイムWeb」のバンド7の画像を主、バンド13の画像を従として、観測時の雲行きを確認&予想しています。

*1:以後の話で出てくるバンド7やバンド13ではほとんど関係しませんが、地上からの放射を背景として、バンド8~10は水蒸気による吸収を、バンド11はSO2、バンド12はオゾンによる吸収をそれぞれ見ています。

*2:この波長域は太陽からの反射光の影響も受けるため、昼と夜とでは見え方および意味合いが変わってきます。

*3:逆にバンド13では、下層からの放射が遮られるため、雲の温度がそのまま反映されて普通に写ります。

*4:ただし、アプリのレビューを見る限り、iPhone用のものは動きがかなり怪しい or まともに動かない可能性があるようです。

*5:気象衛星センターの画像と比較すると、雲の明るさや見え具合が大きく違う。特にバンド7。