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SDレデューサーHDキット ファーストインプレッション

7月14日に発売になったビクセン「SDレデューサーHDキット」を早速入手しました。届いたばかりの上、天気が悪いので星像の確認はもう少し先になりそうですが、とりあえず入手時点での簡易レビューをお届けします。

外観

SDレデューサーHDキットには

  • レデューサーHD
  • SDフラットナーHD
  • スペーサーリングSD81
  • EXチューブ66

の4つのパーツが同梱されています。これらの組み合わせ方ですが、対物レンズ側から

SD81S(含 ED81S, ED81SII)の場合

  • フラットナー:SDフラットナーHD+スペーサーリングSD81+EXチューブ66
  • レデューサー:SDフラットナーHD+スペーサーリングSD81+レデューサーHD

その他のED鏡筒、SD鏡筒の場合

  • フラットナー:SDフラットナーHD+EXチューブ66
  • レデューサー:SDフラットナーHD+レデューサーHD

AX103S、VC200Lの場合*1

  • レデューサー:レデューサーHD

という具合になります。

慣れればどうということはありませんが、向きを含め、パーツの組み合わせが少しややこしいのが欠点と言えば欠点かもしれません。


パーツはいずれも落ち着いたつや消し黒で、製品名に加え、「MADE IN JAPAN」の文字、シリアルナンバーがレーザー刻印(?)されています。このあたりはHRアイピースをはじめ、最近のビクセンの上位製品に共通する仕上げで、高級感があります。シリアルナンバーが明確なのも、何かあった場合のトレーサビリティを考えると好感が持てるところです。


延長チューブをはじめ、パーツの内側には迷光防止のための細かい溝が多数刻まれています。つや消しもまずまず悪くない感じです。


レンズにはVSD100F3.8やHRアイピース、コレクターPHで使われている「ASコーティング」が全面に施されています。1面あたりの透過率99.9%以上を謳う高性能コーティングですが、従来製品(レデューサーED(F7.7用))と比べてみると、たしかにレンズ面での反射がまるで違います。これだけでも性能に期待が持てるというものです。

また、各パーツの先端には52mmのカメラ用フィルター(φ52mm, P0.75mm)が装着できるようになっています。便利ですが、天体撮影や観望でしばしば使われる2インチフィルター(φ48mm, P0.75mm)はステップダウンリングを介さないと装着できません。ケラレなどが発生する可能性があるので、もし2インチフィルターを使おうとする場合は要確認です。

周辺減光

従来品の「レデューサーED(F7.7用)」で不満だったのは、星像の悪さに加えて周辺減光の大きさでした。このあたりがどのくらい改善されているのか、普段フラットフレームを作成している環境を使って確認してみました。


セッティングですが、鏡筒はED103S、カメラは未改造のEOS Kiss X5を用いています。感度はISO100固定で、光学系ごとにシャッター速度を変えてELシートを撮影し、各フレームがおおよそ同程度の明るさになるように調節しました。ピントはそれぞれの光学系で無限遠に合わせてあります。

また、カメラアダプターは直焦点の場合以外、「直焦ワイドアダプター60DX EOS用」を用いています(あとで通常の「直焦ワイドアダプター60」との比較も行います)。直焦点ではこの記事の末尾に示すような、ボーグのパーツを利用した構成を使用しています。本当なら純正パーツでの組み合わせを用いるべきなのでしょうが、自分が普段用いている構成ということでこれを採用しています。35mm判フルサイズだとフリップミラーでのケラレが気になるところですが、APS-Cなら大きな影響はないはずです。

これで各組み合わせごとに8枚ずつ撮影し、ステライメージ7.1eでモノクロ画像として現像後、コンポジットしました。

得られた画像の輝度分布は等光度曲線および3D表示で示すとともに、中央・四隅・四辺の100ピクセル四方の輝度の平均を、中央を100%とした相対値で表しています。なお、この数字については、現像時の輝度の割り当てなどで容易に変わってしまうため、あくまでもお互いを比較するためだけの値であるということに注意してください。周辺光量の絶対値を示すものではありません。*2



まずは補正レンズなし、素の状態での直焦点での輝度分布です。思ったよりは平坦ですが、おそらくカメラのミラーボックスの影響で上下辺の輝度分布が乱れています。このあたりが一眼レフで撮影する場合の厄介なところです。



次にSDフラットナーHD装着時。違いが見えづらいですが、数字を見るとフラットナーなしの場合に比べて周辺光量が増えているのが分かります。焦点距離の伸びも1.02倍に抑えられていますし、星像も改善されているはずなので、撮影時に常用してもデメリットはほとんどないでしょう。


次はいよいよレデューサー使用時の比較です。まずは従来品のレデューサーED(F7.7用)使用時から。


一見して周辺減光の大きさが目立ちます。特にミラーボックスによるケラレは大きく、なにも強調処理をしていないこの画像でも1割ほど輝度が落ち込んでいます。実際の天体写真で、星雲などを浮き上がらせるために強調処理を行えば破綻は必至でしょう。ここまで周辺減光やケラレが大きいと、フラット補正でもとても補正しきれません。実質、トリミング必須となって、せっかく0.67倍にまで焦点距離が短くなってもその写野の広さを生かせません。



一方、こちらがレデューサーHD使用時。縮小率が0.79倍と控えめなので、周辺減光が穏やかなのは当たり前と言えば当たり前なのですが、ミラーボックスによるケラレが大幅に軽減されているのは嬉しいところです*3。このくらいなら補正は十分可能でしょう。

なお、SDレデューサーHDキットを旧来のED鏡筒(ED81S、ED81SII、ED103S、ED115S)に使用した場合、ドローチューブ内にある絞りの位置、形状の関係で、35mm判フルサイズのカメラでは周辺減光が大きく出るとアナウンスされており、それに伴い改修サービスが案内されています。しかし上の結果を見る限り、APS-Cまでのカメラであればほとんど影響はなさそうです。

直焦ワイドアダプター60と直焦ワイドアダプター60DX

今回、「直焦ワイドアダプター60DX」を前もって入手していたため、ケラレを恐れてこれを上記のテストに使用しましたが、廉価な従来品の「直焦ワイドアダプター60」をレデューサーHDと組み合わせた場合、どうなるでしょうか?


で、上が「直焦ワイドアダプター60」、下が「直焦ワイドアダプター60DX」使用時の輝度分布ですが、曲面の形を見ると分かる通り、両者にほとんど違いはありません*4。心配していたケラレも、少なくともAPS-Cの範囲では見られません。35mm判フルサイズのカメラや重量級のカメラを使用しない限り、とりあえずは「直焦ワイドアダプター60」で大丈夫と言えそうです。

*1:これらは光学系にフラットナーが内蔵されているため、使用するのはレデューサーのみとなります。

*2:一貫して画像の左側が明るく、右側が暗くなっているあたり、カメラのマウントに対してセンサーのスケアリングが微妙に狂っていそうな感じなので、それも含めて「参考値」ということで。

*3:もっともこれについては、レデューサーの性能の優劣というより、光束の太さとカメラの構造との兼ね合いという側面が大きいと思います。

*4:DXを使った方が微妙に平坦な感じもしないでもないですが、差は非常に小さいです。