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秋の難物とノイズと

先週後半は元・台風18号が日本に接近して、関東も大荒れ。金曜朝には雨も降っていてあまり期待していなかったのですが、夕方には雲1つない快晴になりました。おあつらえ向きに9時半には月も沈むので、急いで家族の晩飯を用意してからいつもの公園に出撃してきました。


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この夜狙うのは、ケフェウス座~カシオペヤ座に広がる「クエスチョンマーク星雲」。全天で最も北側に位置する大型の散光星雲で、NGC7822、Ced214*1(Sh2-171)、Sh2-170など複数の星雲の複合体です。


サイズだけなら、以前撮影したケフェウス座のIC1396にも匹敵しようかという大きさですが、問題はその淡さ。ただでさえ、北に渋谷、新宿を控えたこの場所では北天は鬼門です。IC1396を撮った際には、CLS-CCDフィルターを用いたにも関わらず、現場では星雲をほとんど確認できませんでした。


今回は、さらに透過帯域の狭いNebulaBooster NB1フィルターを用意しましたが、どうでしょうか……?


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撮って出しの画像を確認してみると、予想以上にハッキリと星雲の姿を確認できます。これだけ見えていてくれれば、あとはどうにでもなりそうです。


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夜半過ぎからは、鏡筒をミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55からED103S+SDフラットナーHD+レデューサーHDに交換して、プレアデス星団ことM45を狙います。同時にカメラも天文改造のものから、赤ハロが比較的目立たない未改造機に交換しています。


M45は3年ほど前に一度撮ったきり。当時は撮影方法が今と少し違いますし、そもそもの撮影条件も大気の透明度が悪くてイマイチだった記憶があります。今ならM45周辺の反射星雲はもう少しちゃんと写せそうですし、あわよくば分子雲も……という欲も出てきます。


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撮って出しだと、かろうじて星がにじんだようにしか見えませんが、このあたりは想定の範囲内です。


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むしろ気になるのは、星像に生えた「ひげ」。レンズの錫箔が原因で発生する回折像で、ビクセンの屈折鏡筒の泣き所なのですが、やはりそれなりに目立ちます。星そのものが主役となる散開星団を狙う場合は、明るさが多少犠牲になるとはいえ、錫箔を隠すマスクの利用を積極的に考えた方がいいかもしれません(もう一つの問題、背景に散らばるごま塩状のノイズについては後述)。


途中、薄雲に妨害されたりもしましたが、天文薄明開始の頃までには既定の枚数を撮り終え、撤収しました。




仮眠をとったのち、画像処理を進めていきますが、改めて驚いたのはED103S+SDフラットナーHD+レデューサーHDの周辺減光の少なさ。フラット補正も非常に楽で、期待が持てそうです。


ともかく、あれこれこねくり回して出てきた結果がこちら。



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2019年10月4日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D55mm, f200mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出900秒×8コマ, IDAS NebulaBooster NB1使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

まずはクエスチョンマーク星雲です。NGC7822~Ced214(Sh2-171)が描く「つ」の部分と、「●」状のSh2-170とで、文字通りクエスチョンマークの形が浮かび上がっています。


NB1フィルターの効果はCLSフィルターと比べても絶大で、激烈な光害にもかかわらず、淡い星雲を容易に写し取ることができました。反射星雲の存在を気にしなくていい被写体であれば、常用してよさそうです。



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2019年10月5日 ED103S+SDフラットナーHD+レデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO100, 露出900秒×8コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

次いでM45です。オリオン大星雲周辺に続き「分子雲が写るかも……」と期待したのですが、さすがにそう甘くはなく(^^; それでもM45を取り巻く反射星雲は、光害にも負けずよく写ってくれました。前回はだいぶ「引き」で撮ったので微細構造が不明瞭でしたが、今回はガスの絡み合っている様子がよく分かります。




ところで、今回撮影していて気になったのが、ノーマル機のノイズの多さ。上で示した等倍切り出し画像*2にも見られるように、SEO-SP3改造機と比べてもやたらと輝点ノイズが多いのです。


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ステライメージで現像してもご覧の通り。


そこで試しに、ノーマル機とSEO-SP3改造機とで、同条件(センサー温度25℃, ISO100, 900秒)でダークフレームを撮影し、ステライメージで現像してみたところ……


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一目瞭然ですね(滝汗


ダークフレームの減算で、ある程度軽減はできるのですが、ここまでノイズが酷いと画像へのダメージが無視できません。これでは分子雲云々どころではありません。


今までこのカメラで長時間撮影というのはあまりやったことがなかったので、これが個体差なのか、経年劣化の類なのか*3、判断できる材料が手元にないのが残念ですが、気をつけておく必要はありそうです。


幸い、未改造機なので、キヤノンのサービスセンターに持ち込むことも可能そうではありますが……さて、どうしたものか。*4

*1:"Ced"は"Cederblad Catalog"の略で、1946年にSven Cederbladが論文で発表したものです。同カタログには、反射星雲を中心に215個の星雲が収められています。

*2:キヤノンのDigital Photo Professional 4で現像

*3:どちらも中古品(SEO-SP3は中古品を入手して改造)ですが、ノーマル機の方は状態があまり良くなかったので、そのあたりが影響している可能性は否定できません。

*4:ちなみに、ネットを検索すると、オカルト的というか都市伝説的なホットピクセル対処法として「暗黒条件下で『手作業でクリーニング』を実行し、30秒ほど放置」というのが出てきますが、少なくともKissX5では輝点ノイズも明確なホットピクセルもまったく変化は見られず、効果は一切ありませんでした。