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春の残り物

真夏日寸前まで行った土曜の夜、いつもの公園に出撃してきました。

気圧配置を見る限りシーイングが良くなりそうな感じがしたので、持ち出す鏡筒をEdgeHD800にして前半は銀河の撮り残しを、月出後は今シーズン初の土星を狙おうかとも思ったのですが、地上の風が夕暮れ近くになってもそこそこ強かったので断念。代わりにED103Sで球状星団等を狙うことにしました。


最近、公園で機材を展開し始めると子供たちやその保護者さんたちに声をかけられることが多いのですが、この日もご多分に漏れず……というか、今までにない人数が集まってきました。子供たち含め、10人前後はいたでしょうか。せっかくの機会ですので、ここで撮った写真を見せたり機材の説明をしたり。日没後まで残っていてくれた親子連れには、ミニボーグで木星を見せることができました。ガリレオ衛星と縞模様がハッキリ見えて、驚いてくれたようです。

こちらとしても、これで1人でも星に興味を持つ人が増えてくれたら、嬉しいことこの上ないです。

さて、完全に日が沈んだら撮影の時間。まずは、撮る機会がなかったM97&M108のペアから。M97は単独では撮ったことがあるのですが、有名なこのペアでは撮ったことがありませんでした。先日のタットル・ジャコビニ・クレサーク彗星が接近した時に撮れたら、本当は一番よかったのですけど……。


ところが、この日はとにかくガイドが絶不調を極めました。ガイドを始めるとちょっとの揺れで過敏に反応してオーバーシュートしまくるわ、ガイドカメラからの画像転送がおかしくて頻繁に星を見失うわ……。ここまで調子が悪かったのはちょっと記憶にありません。

で、あれやこれや設定を見直したりしていたところ、ガイドカメラをASCOM互換カメラとして認識させる設定になっていたのを発見。従来通りPHD2内蔵機能で制御するようにしたところ、ガイドがピタッと落ち着きました。要するに「ZWO謹製のASCOMドライバがクソ」という結論になりそうです*1

ちょうどPHD2 v2.6.3のマニュアル翻訳のために画面キャプチャなどを取る必要があり、あれこれ設定をいじくりまわしてたのですが、それが裏目に出たようです。設定戻したつもりだったんですが……(^^;


さて、前座のつもりのM97&M108ですっかり時間を食ってしまい、本命の球状星団は時間的にせいぜい撮れて1個というところだったので、大昔にピントの怪しい状態で撮ったきりだったM3を次のターゲットに定めます。

ところがここでも失態。架台をASCOMで制御している場合、PHD2では望遠鏡の向きを変えても再キャリブレーションの必要がないのですが、今回の場合、極近くから30度ほども南への移動になります。極近くというのは、仕組み上キャリブレーションの精度が出づらいもの。そこから南へ動かせば……誤差多めのキャリブレーションデータでガイドすることになり、当然ガイド精度は期待できないものになります*2

ちゃんといつも通り、その場でキャリブレーションを取り直せばよかったのですが、前半の失敗でげんなりしてたこと、そのトラブルが解決して気が緩んだこと、時間が詰まってて焦ったこと*3などもあり、つい手順を省いた結果……だと思うのですが、こちらは撮ったコマが流れてほぼ全滅。撮ったその場で確認すればまだ防げたはずですが、どうもひとたび調子が狂うと色々と抜けてしまうようです。湿度が高くて集中力がなくなっていたのもマズイ点でした。

物理的な事故につながらなかっただけマシですが、こういう夜は無理せずやめてしまうのも選択肢の1つですね。続けるなら相当慎重にいかないと……。要反省です。


というわけで、結果だけから見るとほとんど最悪だったのですが、とりあえずM97&M108だけはこの通り。



2017年5月20日 ED103S+マルチフラットナー1.08×DG(D103mm, f859mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用, ISO100, 露出900秒×8コマ
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

最低限、なんとかなったようです。これで「坊主」だったらしばらく立ち直れないところでした。


M97、通称「ふくろう星雲」は距離2600光年の所にある惑星状星雲。惑星状星雲は単位面積当たりの明るさが大きくて見やすいものが多いのですが、このM97はかなり淡くて見づらい対象です。

一方のM108は距離4500万光年の所にある渦巻銀河。星形成が活発に行われているいわゆる「スターバースト銀河」で、写真だとちょうどM82のような見た目です。こちらも非常に淡い天体で、M97ともども、撮った直後はかろうじて存在が確認できるかどうかという程度の写りでした。やはり渋谷、新宿のある北方面の空は光害が厳しくてなかなか大変です。


ところで、上に書いたようにM97は銀河系内にあって距離2600光年、M108は距離4500万光年、さらにM108の真西、写真の縁ちかくに小さく見えるNGC3594は2億8800万光年ものかなたにある天体です。つまり、この写真には10万倍も距離の違う天体が写っているわけで、その奥行きを考えると宇宙の広さが実感されます。

*1:個人の感想です。

*2:PHD2のマニュアルでは、動きを大きくとれる天の赤道付近でキャリブレーションを行い、そこから目標へ移動することを推奨しています。

*3:キャリブレーションを取り直したところでせいぜい数分しかかからないのですが、その判断ができてない時点で既に……。