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まつりのあと

CP+のあった週末はちょうど新月期でした。CP+出撃のタイミングと睡眠時間、天気の様子をにらみながら撮影の機会をうかがっていたのですが、GPVの予報では土曜の夜半ごろから雲が取れる予想になっていました。天気図でも移動性高気圧の圏内で、風も割と穏やかそう。

そこで、CP+のレポートを書き終わった夜半前、いつもの公園に「系外銀河砲」EdgeHD800を携えて出撃してきました。

撮影の準備をしていると、おそらく公園に隣接している設備の警備員と思しき、制服姿の人が近づいてきました。実はこの方、先日「しし座のトリオ」や「回転花火銀河」を撮っていた時にも巡回していた人で、天文にもそこそこ詳しい様子。このときは事情説明がてら、機材やこちらが以前撮った写真を肴に、5分ほどちょっとした天文談議に花を咲かせたのでした。

今回は「おっ、今日もやってますね♪」という挨拶から始まるや、目ざとく鏡筒が前回と異なる(ED103S→EdgeHD800)ことに気づくなど、相変わらず「ただもの」ではないことをうかがわせます。セレストロンの社名もご存知でしたし、おそらく元・天文少年だったのではないかと……(^^; さらにこの日は、同僚の警備員も巻き込んで写真を見せながらの「事情説明」。短い時間でしたが、天文趣味普及に一役買えたかと。「不審者リスト」から確実に外れたであろうことも朗報です(^^;;;


さて、この日の第一ターゲットは「黒眼銀河」ことM64。かみのけ座にある大型の渦巻銀河です。以前ガイドシステムを新調した際に、試運転がてらテキトーに撮影したことはありますが、本格的に狙うのは初めて。以前撮った感じでは、特徴である「黒眼」は容易に移りますが周縁部は存外淡く、捉えにくそうな印象がありました。今回はどうでしょうか?



2017年2月26日 EdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出900秒×8コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
セレストロン オフアキシスガイダー+Lodestar+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

この夜はガイドの調子がどうも悪く、赤経側がオーバーシュートしがち。結果として東西方向にわずかに流れてしまいましたが、とりあえず主要な部分は捉えることができました。外周にはさらに淡いハロが広がっていますが、フラット補正やノイズ処理等を行っていくと埋もれてしまう程度。空の明るいこの場所でそこまできちんと出そうと思えば、少なくとももう倍は露出が必要なんじゃないかと思います。

一方で、天頂付近に昇る上に真冬に比べるとシーイングがマシだったおかげか、「黒眼」にあたる暗黒帯の微細構造や、時計回りに渦を巻いている様子がある程度見て取れます。「黒眼」以外はのっぺりした印象がある銀河ですが、じっくり撮ってみると案外興味深いものです。


ちなみに同夜、Twitterで状況を発信しながら撮影していたら、相互フォロー&はてなブログユーザーのrnaさんも偶然同時刻に同対象を街なかから撮影していることが判明しました。「天体撮影あるある」ですが、こういうのがリアルタイムで分かるというのは面白い時代です。あの夜、いったい何本の鏡筒が黒眼銀河に向いていたんでしょうか?

黒眼銀河を撮り終わったら、次は前々回に取り損ねたおとめ座の「ソンブレロ銀河」ことM104を狙います。こちらも以前、ED103Sで撮ったことのある対象。とはいえ、系外銀河の常で見かけの大きさが小さいため、それらしく見るにはトリミングが必須でした。なので、以前から長焦点鏡で狙ってみたかったのです。

途中、薄雲に邪魔されたりしましたが、なんとか天文薄明開始前までに予定枚数を確保することができました。



2017年2月26日 EdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出900秒×8コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
セレストロン オフアキシスガイダー+Lodestar+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

明るく、集光のしっかりした銀河なので、撮るだけなら都心からでも楽々です。この銀河は実に均整の取れた形で、何度見ても惚れ惚れします。うまくいけば暗黒帯の微細構造の片鱗くらいは写るかと期待しましたが、さすがにそこまでは無理でした。



それでも元の画像をよく見ると、暗黒帯の場所によってわずかに明暗のムラが見られました。ハッブル宇宙望遠鏡(HST)の撮影した画像と見比べると、たしかに暗黒帯の明暗を反映しているようなので、さらに露出時間を延ばす*1、画像復元をかける、CMOSカメラでスタッキング&ウェーブレット処理を行う、といった方法を使えば、もう少し微細構造をハッキリさせられるかもしれません。

もちろん、口径が大きくないとそもそも解像しないわけですが、それ以前にやっぱりシーイングですね。高度が比較的低いので、気流の乱れの影響を受けやすいのが難点。東南アジアのような低緯度地域なら、高度が高くなる上に気流も安定しているので、もっと明瞭に写るのでしょうけど(^^;

*1:HSTの写真を見ると分かりますが、銀河はまだまだ外側に広がっています。その意味でも、露出はもっとかけてもよさそうです。もっとも、それだと中心部は飛んでしまうので、理想的には多段階露光すべきですが……この小さい対象相手にそこまでやるか?という議論は残ります。