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3か月ぶりの出撃

今年の関東地方は異常といっていいほど天気が悪く、秋に入っても曇りや雨ばかり。まったく出撃できませんでした。調べてみると、最後に写真を撮ったのが7月29日の夜。一応、8月6日にもわずかな晴れ間に望みを託して強行出撃しているのですが、増え続ける雲に阻まれ撤退を余儀なくされています。

そんなこんなでフラストレーションが溜まっていたのですが、11月になってようやく秋晴れが訪れるようになってきました。そこで「文化の日」の11月3日夜、いつもの公園に出撃しました。翌日は平日で仕事ですが、1日だけ我慢すれば週末ですので、極端な夜更かしさえしなければなんとかなるでしょう。


とはいえ、撮影にあまり長時間かけるわけにもいきません。比較的てっとり早く撮れる対象ということで、散開星団を狙ってみることにしました。いろいろ考えた結果、カシオペヤ座にあるM52を撮ってみることに。



M52は、メシエ天体としてはおおぐま座の銀河M81&M82に次いで天の北極に近い位置にあります。北側の空は新宿・渋谷方面からの光害がきつくて敬遠しがちでしたし、中途半端な時間を生かすにはちょうどいいでしょう。

なお、M52の近くには「バブル星雲」または「しゃぼん玉星雲」の愛称で知られるNGC7635という散光星雲があり、35mmフルサイズ版で1500mmくらいまで(APS-Cなら1000mmくらいまで)の焦点距離ならM52と一緒の画面に収めることができます。淡い星雲ですが、ついでにこちらも写ってくれれば御の字です*1


この日の月没は19時18分なので、機材のセッティング終了後、月が沈むまでの間は月を撮って遊びます。



ISO100, 1/15秒

月齢3.6で高度が低い上、デジカメでのワンショットですから大した画質にはなりませんが、普段わざわざ三日月を撮る機会もあまりありませんから、暇つぶしの割にはいい経験になりました。



ISO100, 10秒

地球照もバッチリ。当たり前のことですが、満月のときに見えるのと同じ地形が見えることに改めて感心してしまいます。ちなみに、月のすぐ左下に星が見えますが、7.8等のこの星(GSC6241.704)が、ちょうど食が終わって出てきたばかりの所だったようです。



そうこうしているうちに月も沈んだので、いよいよ本命の撮影開始です。この日の透明度はまずまずだったとは思いますが、真冬ほどのスッキリした感じではありません。時間帯が比較的早いことも加わり、光害でカシオペヤ座すらかき消されそうです。

それでもISO400まで感度を下げ、1枚あたりの露出時間を稼ぎます。切りのいいところで16枚は確保したかったのですが、最後の方は雲に邪魔されて、結局確保できたのは14枚。コンポジット時のS/N比は16枚合成のときと比べて5%ほど悪くなる計算ですが、実質的な影響はほぼないでしょう。



「撮って出し」の写真ではM52はもちろん、バブル星雲もその中心部が見えています。これなら少しはやる気が出ようというものです。

というわけで、出てきたのがこちら。



2016年11月3日 ED103S(D103mm, f795mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO400, 露出480秒×14コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
ミニボーグ60ED(D60mm, f350mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

カシオペヤ座には数多くの散開星団がありますが、その中で最大のものが写真左上のM52。星の密集度が高いこともあって、望遠鏡で見ると散開星団というよりは球状星団っぽく見えます。

そして右下が「バブル星雲」ことNGC7635。その名の通り、中心部に泡のような構造を持つ星雲です。主にHα線で輝いているため眼視での確認は困難ですが、写真ではその特徴的な構造がよくわかります。

この「泡」を形作っているのは、泡の中に見える8.7等の星です。その正体は高温の大質量星で、質量は太陽の約40倍、温度は37500度、明るさに至っては太陽の約40万倍もあります。この星が引き起こす激しい恒星風が星間ガスにぶつかり、泡構造を形成したものと考えられています。


さて、この写真ですが、「撮って出し」の状態ですでに星雲中心部が見えていましたので、処理も比較的楽……と思われたのですが、あにはからんや。星雲自体はあぶりだせるものの、北天のひどい光害のせいでフラット補正がなかなか決まりません。

結局、ライトフレーム、フラットフレームともに現像後に三色分解し、ステライメージでR, G, Bの各プレーンに対してガンマを調整しつつフラット補正を実行。補正後のプレーンをRGB合成して戻し、各コマをコンポジット後、残った光害カブリを補正するという、かなりの手間が必要になりました。最近やっている常套手段ではあるのですが、なにしろ画像処理も丸3か月ぶりでしたので、方法を忘れてしまっていてかなり苦労させられました。

また、M52周辺は至る所に淡い散光星雲が広がっていて、背景色の偏りがカブリのせいなのか、本当に星雲でそういう色になっているのか判断がつきません。とりあえずB, Gプレーンは可能な限り均し、Rプレーンは「そういうもの」として受け入れる方向で処理を行いました。他の人が同領域を撮影したものと見比べる限り、大きな間違いはなさそうな気がします。

*1:これをターゲットに決めた時点で、当初の「てっとり早く撮れる」という趣旨はすっ飛んでいたり。