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(いまさら)カシオペヤ座新星


この夏は全国的に梅雨のような天気がずっと続いています。おそらく「例年になく不順な夏」として記憶されることになるのでしょうが、こちらも梅雨明け直後の先月19日以降、まともな撮影がほとんどできていません。前線はまだまだ列島上空に居座りそうな予報……だったのですが、水曜夜の東京は、部分的に太平洋高気圧が張り出して久しぶりに晴れの予報。月は夜半過ぎには沈みますし、天文薄明開始まで2時間ほどは取れそうです。


風は少々強かったのですが、この夜を逃すと次のチャンスがいつになるか分かりませんでしたので、平日夜ですが無理していつもの公園に出撃してきました。


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この日のターゲットはカシオペヤ座の散開星団M52および「バブル星雲」ことNGC7635。一応、2016年に撮ったことがある対象ですが、当時とは機材も撮影方法も違いますし、どんな写りになるのか興味のあるところではあります。
hpn.hatenablog.com


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また、旧聞ですが今年の3月10日、中村祐二氏がこの領域に新星(カシオペヤ座新星, V1405 Cas)を発見し、5月中旬には5等台にまで達しています。その後は減光と増光を繰り返し、7月末には6等台まで再増光しています。


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AAVSO(アメリカ変光星観測者協会)に報告されているデータによれば、現在は8等前後の明るさを維持しているようです。2016年の画像と比較すれば、新星爆発を起こした星を特定できそうです。



撮影自体はほぼいつも通り。なお、今回は前回となるべく同条件にすることを意図して、フィルターとして通常の光害カットフィルターであるLPS-D1を用いています*1。また、NB1に比べると透過波長域が広いので、新星の明るさもある程度もっともらしく見積もれそうです。


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撮って出しはこんな感じ。全体に暗いのはストレッチの類を全く施していないためで、星雲など全く写っていないかのように見えますが……


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軽くストレッチをかけると確かに星雲が写っているのが分かります。


この夜は風こそやや強いものの、散々雨が降った後のせいか比較的大気の透明度が良く、この時期にしてはいい空。とはいえ、大気の状態が不安定なのは確かなようで、天文薄明が近づいてくると一気に雲が広がり、諦めて自宅に撤収してきたころには通り雨まで降ってくる始末。結局、15分露出のコマを6枚しか確保できませんでしたが……まぁ、なんとかなるでしょう。


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ところで撮影中、PCやスマホを見ている視野の端で何かが光っている感じがしていたのですが、目を上げてみると南西の空遠くで盛んに雷が光っていました。


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東京電力の「雨量・雷観測情報」を見てみると、同じ時間に御前崎付近で落雷が多数発生していた模様。御前崎までは直線距離で170km以上ありますが、積乱雲の高度を考えると十分に見える距離*2。とはいえ、まさかそんな遠くのものまで見えるとは思いませんでした。


撮影した画像は、いつものように「RGB分割フラット補正」したのちコンポジット。ある程度レベル調整等を施したのち、StarNet++で星と背景を分け、背景はSilver Efex Pro 2の「高ストラクチャ(強)」で処理して再合成して……こう!


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2021年8月19日 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, 0℃, Gain=100, 露出900秒×6コマ, IDAS LPS-D1使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0cほかで画像処理

わずか6コマからでっちあげたにもかかわらず、都心でこのくらいまで写ってくれれば、とりあえずの結果としては十分じゃないでしょうか。こうしてみると、このあたりはごく淡い散光星雲が至る所に広がっていて「何もない」ところがほとんど見当たらない感じです。


写真左上のM52は、カシオペヤ座にある数多くの散開星団の中で最大のもの。天の川の微光星に埋もれるように存在していて、それなりに見栄えがします。


そして右下が「バブル星雲」ことNGC7635。その名の通り、中心部に泡のような構造を持つ星雲です。この「泡」を形作っているのは、泡の中に見える8.7等の星です。その正体は高温の大質量星で、質量は太陽の約40倍、温度は37500度、明るさに至っては太陽の約40万倍もあります。この星が引き起こす超音速の恒星風*3が星間ガスにぶつかり、泡構造を形成したものと考えられています。


注目のカシオペヤ座新星(V1405 Cas)は、M52の真下、バブル星雲の左側にある明るいオレンジ色の星です。


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星の色が違う上に光害カットフィルター通しているのでザックリとですが、周囲の星と比べるとV1405 Casの明るさは7.8等前後といったところでしょうか?


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写り具合はじめ諸々違うので比べるのも難ですが、2016年撮影のものと見比べると、確かに新星であることが分かります。


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この新星の位置を2016年撮影の写真で確認してみると、該当位置に暗い星が見つかります。調べてみると、この星はCzeV3217という、約15等の変光星であるようです*4。この星は接触連星である「おおぐま座W型変光星」と呼ばれるタイプで、この連星の一方にガスが過剰に降り積もり、新星爆発を起こしたのでしょう。

*1:前回はLPS-P2を使用。特性はほぼ同じです。

*2:水平線までの距離はおおよそ√2Rhで表されます(R:地球の半径, h:標高)。仮に雷の発生高度を3000mとすると、地球の半径を6370kmとして水平線までの距離は195kmとなり、170km離れた東京からでも十分見えることになります。

*3:秒速1800〜2500kmと言われています。

*4:星図と比較しても、写真のこの星で間違いないようです。

低品質YouTube動画の憂鬱

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TwitterのTL上(天文関係にめちゃくちゃ偏ってますが)で、とある動画が悪い意味で話題になっていました。


↓これです。

www.youtube.com


うっかり再生すると、再生数上昇の片棒を担いでしまうことになるのでお勧めしませんが……とにかくこれが酷いのです。


動画の主はGENKI LABOの市岡元気氏。動画界隈は詳しくないのでアレですが、主に科学ネタを扱っているようで、チャンネル登録者数は36.9万人と、そこそこ大手かと思います。


動画の内容としては、講師としてビクセン取締役の福島福三氏を招き、初心者向け望遠鏡の選び方を聞くというものなのですが……とにかくこれがミスリードの連発で本当に酷いのです。


問題点を切り分けると、

  • 動画主によるもの
  • 福島氏の発言によるもの

の大きく2つに大別されます。


動画主によるもの


まずいものとして真っ先に目につくのが、この動画のサムネイルです。



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動画のタイトルは「実は都会の方が星がよく見える?99%の人が知らない初心者向け望遠鏡の選び方!元気先生初めて望遠鏡を買ってみた!」で、実は都会の方が天体観測に有利……という驚き(これについては後述します)を前面に押し出しているのですが、そのことを主張したいがあまり、田舎ではまともに星雲が見えないかのようなサムネイルになってしまっています。イメージ画像にしても、あまりにも悪質です。


動画主である市岡元気氏は、おそらく最低限の科学的素養はあるものと思いますが、少なくとも天文に関しては素人同然なのは動画を見ても明らかです。実際に都会と田舎とで星を見比べたわけでもないでしょうに、ああまであからさまな印象操作は問題です。


また、後述の福島氏の発言部分についてですが、小刻みな切り貼りが極めて多く、氏が本当にそう話したのかどうか疑わしくなるほど。フェイク動画を疑われても仕方がないレベルです。



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さらには上のように、氏が話した内容とまったく異なる趣旨の字幕が付いている個所(後述の引用部分の最後の段落に相当)すらあり、かなり悪質です。


YouTuberにとってみれば、どんな良質な動画を作ろうとも再生数を稼げなければ意味がありませんので、誇張をするインセンティブはどうしても働きがちなのですが、上で挙げたような点についてはさすがに倫理的にアウトだと思います。



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他にも、ベテルギウスとオリオン大星雲(M42)を混同するなど、信じられないような低レベルのミスも散見され、総じて非常に低品質と言わざるを得ません。


福島氏の発言によるもの


この動画で一番罪深いと思うのは、講師役を務めるビクセン取締役の福島福三氏の発言です。実際、この動画では10分ほどの動画中、7分ほどが福島氏と元気氏とのやり取りに費やされていて、福島氏の発言が動画の中核を占めているのは明らかです。


そして……これがもう、お話にならないレベルで酷いのです。例えば、4分20秒付近からの下り。

あと、実は住んでいるところ/は結構聞かれます。「私の/家は/都会なんですが……」/という話をよく聞くんですが、実はこれも皆さんがすごく勘違いしてまして、/天体望遠鏡を/購入されて星を見たいなと思ってる場合は、私は都会ほどお勧めしてます。/


簡単に説明します。天体望遠鏡ってですね、/倍率をかけて/見ますので、大体見るものが今みたいに限られてます。/あるポイントだけを/見るので、実は、/今皆さんが見たいBest 5って、/都内から十分、間違いなく見えます。/これ山に行くと、逆に星がいっぱいありすぎちゃって、分かんなくなっちゃったりもします。/


それとは逆に、望遠鏡の特性ってのがありまして、/覗くとですね、分かるんですけど、100倍とかの倍率をかけますとですね、/気流ってのが起きます。/上空で/風がめちゃめちゃ吹いてます。/空気が揺れてるんですね。/で、山ほどその気流が起きます。/望遠鏡だと、倍率が100倍になるので、/実は揺れも100倍になるんですね。/


天の川とか、星空を見たいんだったら山に行っていただくんですが、/実はお家のベランダの方がよく見えるっていう、そういったギャップが/ありますので、/都会だからとかっていうのは、/望遠鏡に関しては/ほとんど影響ない。


動画のタイトルにもなっている核心部分です。前記の通り、発言中を含めかなりの頻度で切り貼りがされている(文中の「/」は編集の切れ目)ので、ご当人が本当にこういう趣旨で話したのかどうか定かではない部分もあるのですが、これを見る限り、

  • 望遠鏡で星が見える/見えない
  • 天体を見つけやすい/見つけにくい
  • 気流の状態がいい/悪い

という別種の問題3点を意図的に混同させ「都会ほど望遠鏡がお勧め」という解答を強引に導いているようにしか聞こえません。



まず前提として、上記発言中で「今皆さんが見たいBest 5って、都内から十分、間違いなく見えます」と言ってるBest 5は「月、土星木星、火星、星雲・星団」の5つ。これを受けての望遠鏡談義なのですが……


天体の見つけやすさについては、惑星に対しては、まぁ、その通り*1。 月、惑星の観望に重要な気流の状態についても、全体的な傾向としては正しいでしょう*2 *3。気流の状態は日による変化も大きく、住居の近くで観測できるなら好条件の日を逃さず観測できるメリットもあります。


ただ、Best 5中の星雲・星団に関しては「断じてNo!」。「都会ほどお勧め」なんてことは絶対にありません。例えば動画の中で例に上がっているアンドロメダ銀河などは、東京都心から口径10cmの望遠鏡で眺めるとこんなイメージ(実際には、これでもまだ見えすぎなくらい)。


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光害の影響により、見えるのは本当に銀河の中心部だけで、それも「そらし目」をしながらでようやくギリギリといったところです。逆に、空の暗いところで大口径の望遠鏡を使えば、比べ物にならないほど良く見えるはずです。



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このあたりは当然、氏も分かっているはずですが、にもかかわらず天体望遠鏡を購入されて星を見たいなと思ってる場合は、私は都会ほどお勧めしてます」という雑な結論になぜ至ってしまうのか、まったくもって理解できません。


こちらも都心で天体写真を撮ったり、観望を楽しんだりしている手前、都会で望遠鏡を使うことについて否定するつもりは全くありませんが、望遠鏡を使えば都会でも星がバリバリ見えるかのようなこの結論は、あまりに酷いミスリーディングだと思います。



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他にも、反射望遠鏡の説明のところで「鏡を歪曲させて……」*4とか「ハッル望遠鏡もこのタイプ……」*5など、およそ光学機器メーカーの役員とは思えないような怪しい発言が散見され、信頼性の低下に一役買っています。


ビクセンの責任


さてこの動画、なんと驚くべきことに「協力:ヴィクセン」原文ママ)とクレジットされています。つまり、「この動画内容についてビクセンが了解している」とも受け取られかねないわけですが……本当にそれでいいのでしょうか?


もし動画をチェックしていてこの内容なら、初心者に対するビクセンの姿勢に大いに疑問を感じますし、逆にチェックしていないなら、取締役まで出しておいてノーチェックという無責任ぶりに呆れるしかありません。


メーカーにとって、本来初心者は将来の大事なお客様です。なればこそ、買い物で後悔させてしまってはいけません。こんなインチキ臭い動画で初心者を焚き付けて一時的に売り上げを出しても、中・長期的に見ればガッカリする人を増やすだけの焼き畑農業的なやり口でしかありません。人口が多い都会で望遠鏡が売れればさぞや小銭が稼げるでしょうが……「自然科学応援企業」、「星を見せる会社」を標榜する企業としては、あまりに姑息ではないでしょうか。

www.vixen.co.jp


「星を見る、楽しむ」という原点に立ち返るなら、現在の技術を生かして現在なりの星の楽しみ方を提案するのが本来あるべき方向性でしょう。しかしながら「貧すれば鈍する」。傍から今の同社を見る限り、今まで培ってきた「技術」や「信用」という遺産を切り売りして糊口をしのぐのに汲々としていて、進取の気風が完全に失われている感じなのが悲しいところです。


【追記】
ビクセンの社長から当該動画について、監修にはかかわっていないこと、内容にミスリードがあることの言及およびお詫びがありました。

監修が入っていないのはクレジットから想像がつきますし、先方がどこまで誠実なのかも分からないので同情の余地はあるのですが……少なくとも外見上は、取締役自らが明らかに誤ったメッセージを発信する形になってしまっているのは事実。信用が毀損しきってしまう前に、何らかの手段を取ることが必要になるかもしれません。

*1:とはいえ、観望好機なら猛烈に明るいので、他の星がたくさん見えてても、位置を間違えることはあまりないと思うけど。

*2:もちろん各々の場所の地理にもよります。

*3:場所や季節によっては、クーラーの排気や家屋からの熱放射により局所的に気流が悪くなることはあります。

*4:もちろん鏡を歪曲させて作っているわけがありません。研磨という言葉を使わないにしても、「凹面鏡を使っている」とか、単に「鏡を使っている」とか、もっと適切な言い方はあったでしょう。

*5:字幕だけでなく、実際に発言してます。もちろん「ハッル(Hubble)宇宙望遠鏡」が正解。

梅雨明け!

【追記 2021/7/21】
画像にもう一手、処理を加えてみました。記事末尾をご覧ください。


6月14日に梅雨入りしてから約1か月、関東地方は7月16日に梅雨明けとなりました。今年の梅雨はかなり本格的で、期間中は星などほとんど見えなかったのですが、梅雨明け後初の土曜日、17日の夜はWindyによれば快晴の予報。月は夜半前に沈みますし、天文薄明開始は2時55分なのでそこそこ撮影時間は取れそうです。そこで、晩御飯終了後、いつもの公園に出撃してきました。


撮影候補は、北アメリカ星雲&ペリカン星雲、はくちょう座γ星サドル付近、らせん状星雲といったあたり。一応、雲が出ていた場合に被写体を切り替えられるよう、鏡筒はミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55とED103S+SDフラットナーHDの両方を持参しました。しかし、公園についてみると雲ひとつない快晴。そこで、今まで撮ったことのない対象ということで、はくちょう座γ星サドル付近の散光星雲を狙ってみることにしました。


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機材を広げて撮影態勢に移ったのが23時過ぎ。この時間帯だとまだ西の空に月が残っているので、Hαのナローバンド撮影から先に始めました。相手は純然たる散光星雲なので、NebulaBooster NB1フィルターで撮影したカラー画像にHαナローバンド画像をブレンドする計画です。


この夜は緩い南風がありながらも、温度、湿度ともそれほど高くなく実に快適。大気の透明度もこの季節にしては高く、「いい写真が撮れるぞ、これは……」と期待していたのですが……


多摩地区にお住いの星屑 BBさんから不穏なツイートが。


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西の地平線近くを確認してみると、たしかに雲が沸いています。


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しかし一方で、ひまわり8号の赤外線画像では何も見えず。意外と薄いんでしょうか……?


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ところが、0時半を過ぎるとこちらでも雲が沸き始めてきました。南風に乗って、ちぎれ雲が南から北へと高速で動いてきます。雲自体の厚さはそれほどでもないし、動きも速いので極端に大きな支障にはなりませんが……。


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どうにかHα画像こそ予定の8コマを撮り終えましたが、雲はますます多く、厚くなるばかり。カラー画像は撮影できていないですが、この夜は諦めるしかないでしょう。


撤収することにして、身の回りの小物から片づけていたのですが……あれ?雲量減ってる……?


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1時半くらいになるとハッキリと雲が取れてきて、そのうち元通りの快晴に。慌ててフィルターをNB1に交換し、撮影再開です。とはいえ、撮り始めたのが1時45分ごろ。天文薄明開始が2時55分なので、1コマ15分とすると5コマ確保できるかどうかといったところです。まぁ、今回のターゲットはほぼ真っ赤な散光星雲ばかりなので、カラー情報といっても大したものは要らないでしょう。


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ところが、撮影再開して1時間も経たないうちに、再び雲が。今度は雲量も多いし、取れるには時間がかかりそうです。もうすでに天文薄明開始まで30分を切っていたこともあり、やむをえずここで撮影終了となりました。確保できたカラー画像はわずか3コマ。果たしてこれで作品になるでしょうか……?


リザルト

まずは、一番心配なカラー画像から。撮って出しはこんな感じ。


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さすがはNB1フィルター。撮って出しの段階で散光星雲の姿が見えています。これだけ写っていれば上出来です。確保できたコマ数は少ないですが、星雲はHα画像に任せるとして、こちらはあまり強調するつもりはないので何とかなるでしょう。


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次いでHα画像ですが……こちらはさすがの写り。ナローバンドだけに光害によるカブリもほとんど見られません。結構淡いところまで写っていそうで、処理が楽しみです。



カラー画像の方は、いつものように三色分解フラット補正&カブリ除去を行いますが、この時点ではあえて三色合成せずにR, G, B各画像のままとします。一方のHα画像の方も、Rチャンネルのみ抜き出しフラット補正&カブリ除去。その後、単純にHα画像のRチャンネルとカラー画像のG, B画像とを合成し、処理してみた結果……


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……うん、悪くはないんですが、星の数が明らかに少なくて、ものすごく「ナローバンドくさい」です。天の川に近い場所なので、本当なら微光星がもっとたくさんあるはず。さすがに少々不自然な感じがします。写真中央付近にある、黄色超巨星であるはずのサドルの色も気に入りません。


そこで、Hα画像については、Rチャンネルのみ抜き出しフラット補正&カブリ除去を行った後、先にレベル調整やデジタル現像を行って星雲を強調。一方、カラー画像側のG, B画像についても、フラット補正&カブリ除去後、Hα画像と同程度にレベル調整、デジタル現像を施します。


これらを合成したのち、マスク処理による星雲強調や星の白飛びの抑制、星雲のシャープネス処理、色調整などを行って、出てきた結果がこちら!


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2020年8月19日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D55mm, f200mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, 0℃
カラー画像:Gain100, 900秒×3, IDAS NebulaBooster NB1フィルター使用
Hα画像:Gain400, 600秒×8, Astronomik Hα 6nmフィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0cほかで画像処理

うむ、ずいぶんそれっぽくなりました。サドルの東側には星雲の濃い領域があり、暗黒星雲が複雑に入り組んでいます。この領域は、蝶が羽を広げたようなその形から「バタフライ星雲」と呼ばれています。また、サドルの西側には微光星に埋もれるように水素のフィラメントが漂い、非常に美しいです。


惜しむらくは、こんなに淡いところまで写ると思っていなかったため、構図が少し東側に寄ってしまったことでしょうか。カメラをもう少しだけ西(右側)に振った方がバランスが良くなった気がします。


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こちらは天体名を記載したもの。なお、Bで始まるのは、暗黒星雲についてまとめられた「バーナードカタログ」のナンバーです。*1


左下にはメシエ天体であるM29、右下にはクレセント星雲(三日月星雲)ことNGC6888が写り込んでいます。NGC6888は3年前に単独で撮影したことがありますが、当時はデジカメを使用していた上、フィルターもOPTOLONGのCLS-CCDと、ナローバンド系のフィルターに比べると透過波長幅の広いものだったので、あまり写りは良くありませんでした。今回は、楕円形に広がるガスが内部構造含めよく分かります。


それにしても、東京都心でこれだけ写ってくれると本当に痛快です。緊急事態宣言で遠征が難しくなっていますが、街なかでじっくり腰を据えて撮影に取り組んでみるのも悪くないと思います。



【追記 2021/7/21】

前記画像にもう少し手を加えてみました。


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前記画像を三色分解後、Nik CollectionのSilverEfex Pro2で「高ストラクチャ(強)」をそれぞれ適用し、再合成します。とはいえ、そのままだとシャープネスが効きすぎて目に優しくないので、星像を調整したり、輝星の周りに発生しがちな黒縁を抑制しています。


ガスの流れや微光星がよりハッキリして、見栄えがするようになったかと思いますが、どうでしょうか?