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暗いベテルギウス

ベテルギウスが暗くなってる!」


そんな話がここ最近、TwitterのTLをにぎわせています。ベテルギウスは元々変光星で、天文年鑑によれば0.0~1.3等の間で変光しますが、これを大きく下回っているのではないかとのこと。報告の中には1等星を下回ったなどというのまであります。そこで論より証拠。昨夜、ささっと冬の大三角周辺を撮影してみました。


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2019年12月24日0時12分 K-5IIs+DA 17-70mmF4AL[IF] SDM
F8, ISO800, 露出60秒, プロソフトンA (W)使用
アストロトレーサーによる簡易追尾

レベル補正を行っただけの、ほぼ撮って出し画像です*1。暗くなる前との比較写真がないので分かりづらいですが、確かにだいぶ暗くなっている気がします。眼で見ても、冬の大三角がまるで目立ちません。


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星の色合いが違うので単純な比較は難しいのですが、星図と見比べると三ツ星やベラトリクス、カストル、エルナトなどといい勝負。さすがにアルヘナやミルザムよりは明るそうですが、この感じだと1.5~1.6等くらいまでには暗くなっていそうです*2


これがどれだけ暗いかですが、これについて興味深いスレッドがありました。




詳しくは元のスレッドを確認してほしいのですが、ツイ主によれば、アメリカの変光星観測者の団体American Association of Variable Star Observers(AAVSO)に報告されている過去50年分のデータを探すと、明るさが今回なみ、もしくはそれ以下に低下したケースは1985年11月ごろをはじめ5回ほどあるとのこと。


ただ、そうした値を報告しているのは特定のグループに集中しており、彼らのデータは、他者のデータと比較して明らかに下振れしていたそうです。そこでこうしたデータ*3を「外れ値」として除き、また10個以下のデータから算出される平均値を除いて10日間ごとの平均光度をプロットしたところ、上記tweetの図にあるように、今回の光度低下は過去50年間で例がないほど大きなものだということが明らかになったということです。


さすがに今すぐ超新星爆発が起こるといったような激変はないと思いますが、珍しい現象には違いないので、記念写真の1つも撮っておくといいかもしれません。

*1:こうやって見ると、改めて光害酷い……orz

*2:本当なら、せめてステライメージの「光度比較」でも使ってある程度具体的な光度を出したいところですが……星の色が違いすぎて、それはそれで参考値にしかならない気も。

*3:具体的には、当該期間においてそのグループの平均観測値が全体の平均から0.3以上離れているもの

決戦・ボリソフ彗星

先日、彗星の移動量を計算間違いして惨敗に終わったボリソフ彗星ですが、さっそく再チャレンジしてきました。


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機材は前回と同じくED103S+SDフラットナーHD。PHD2でメトカーフガイドを行い、長時間露出で彗星を狙います。今回は、移動量の計算をきちんと行い、単位の換算もバッチリです。


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ところが、1コマ目を撮影した結果を確認すると、星の流れる方向がおかしいことに気づきました。左下に向かって流れなければならないところ、左上に流れています。これまたなんということはない、赤緯の移動量にマイナス符号をつけ忘れたというオチでした。なんでもそうですが、現場でパラメータを入力する場合は十分に気を付けないといけませんね。


ともあれ、天文薄明が始まる5時過ぎまでの1時間強、撮影を行いましたが……星の流れる方向こそ事前のシミュレーション通りなものの、PCの画面上では彗星の姿は全く見えず、本当に写っているのかどうか心配になります。


帰宅後、普段の星雲の処理と同様、フラット補正等を行って彗星の炙り出しを試みますが……


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……んん?彗星どこ??


ぶっちゃけ、全く分かりません。そこで、ステラナビゲータでのシミュレーション結果と突き合わせてみます。


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……。
…………。
………………。
……………………これか!


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2019年12月8日 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO100, 露出600秒×8コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるメトカーフガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

彗星の明るさは15等台とのことでしたが、写真では同程度明るさの恒星がしっかり尾を引いて写っているのに対し、静止しているはずの彗星は非常にかすかな光のシミにすぎません。過去、この場所で17等台の系外銀河を捉えたことがあるので甘く見ていましたが、高度の低さなども相まって相当写りにくいようです。彗星はこの後、急速に南に低くなっていくので、もしこれから撮影にチャレンジしようという方がいれば、相応の覚悟が必要になってくるかと思います。


それにしても、はるかかなたの恒星界からやってきた天体を、わずか口径10cm程度の望遠鏡で(しかも東京都心から)観測できるというのは、なんとも言えないロマンを感じます。

成功と失敗と

火曜日は久々に真冬らしい快晴。平日ですが、仕事をゴニョゴニョして月没後を狙って出撃してきました。


この日の最大の狙いは恒星間彗星として注目を浴びているボリソフ彗星。12/7の近日点通過後は南に急速に高度を下げていくので、おそらくラストチャンスに近いかと。これをPHD2の彗星追尾機能を用いて捉える予定です。予想光度は15等台ですが、過去にこの場所から17等台の系外銀河を捉えたこともあるのでチャンスはあるでしょう。


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ボリソフ彗星が昇ってくるまでの間、ミニボーグ60ED+レデューサー0.85×DG+NebulaBooster NB1で、いっかくじゅう座の散光星雲「ばら星雲」を狙うことに。2015年2月2016年12月と過去2回撮っている対象ですが、NB1フィルターの投入でどう変わるでしょうか……?


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ISO100、15分露出の撮って出しだとこんな感じ。フィルターはさすがの威力で、この時点でかなりハッキリと星雲を視認できます。これならあとの処理も簡単そうです。


8コマ撮影し、これをコンポジットして処理した結果がこちら。


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2019年12月4日 ミニボーグ60ED+レデューサー 0.85×DG(D60mm, f298mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出900秒×8コマ, IDAS NebulaBooster NB1使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

NB1フィルターを用いて散光星雲を撮影した場合、えてして赤一辺倒の単調な色合いになりがちなのですが、今回の「ばら星雲」は明るい対象だけに、もう少し複雑な色が出た感じです。*1


シャープネスの向上&淡い部分を持ち上げるため、今回はRチャンネルにSilver Efex Pro 2の高ストラクチャ(強)を適用していますが、そのままだとドギツイ感じだったので、さらに元画像とブレンドしています。クリスマスツリー星団方面にまで続くガスも表現できた一方、眼に痛い感じはだいぶ軽減できたのではないかと思います。

メトカーフガイドの罠

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ばら星雲の撮影が終わった後、3時ごろから鏡筒をED103Sに載せ替えてボリソフ彗星の撮影に移ります。


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今回は、冒頭にも書いた通りPHD2の彗星追尾機能を用いて撮影を行います。いわゆる「メトカーフガイド」に相当する方法で、あらかじめ彗星の移動量を計算しておいた上でPHD2にその値を入力しておくと、自動的にオフセットしながらガイドしてくれるという便利機能です。ボリソフ彗星はかなり暗く、単なる恒星時追尾や、短時間露出画像を事後に重ねる「メトカーフコンポジット」だと捉えるのが難しそうという感触があったので、この方法を取っています。


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ステラナビゲータで1時間当たりの彗星の移動量を確認してみると、赤経側は4.1~4.2秒、赤緯側は114~115秒であることが分かります。そこで、PHD2のボックスにそれぞれ4.15、-114.5と数字を入れ、追尾を開始します。


ガイドは順調で、撮影自体もトラブルなく。で、帰宅後ウキウキ気分でコンポジットしてみたのですが……


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んん?シミュレーションと比べて星の流れる方向がおかしくないですかね……??



……はい、賢明なみなさんはもうお分かりですね(^^; 答えは単純。彗星の移動量の計算を間違っていたのですorz


間違っていたのは赤経側。ぼーっとしていたせいか、赤経側の移動量を「1時間当たり4.1~4.2秒」としてしまっていたのですが、赤経の「秒」は、秒は秒でも「秒角」ではないので、換算が必要だったのです。*2


正しく計算すると、赤経の場合、360度=21600分角=1296000秒角を24h=1440m=86400sで表すので、赤経の1秒は1296000÷86400=15秒角に相当します。つまり、PHD2のボックスには4.15×15=62.25と入れなければならなかったわけです。


……って、紛らわしいんじゃあぁぁ!(# TДT)ノノ┻┻;:'、・゙


単位が違うのに呼び方が同じっていうのは、本当に混乱の元ですね。勉強代としては高くつきましたが、今後は気を付けたいと思います。

*1:本当は、中心付近には青みがかった反射星雲の成分もあるはずなのですが、波長的にフィルターでカットされる上に、そもそも都心からだと光害に埋もれて捉えるのは極めて困難です。

*2:入力した赤緯側補正値と赤経側補正値の比が極端に大きかったので、本来はこの時点で気づくべき。