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レナード彗星(C/2021 A1)

今年の新年早々、レモン山サーベイで発見されたレナード彗星(C/2021 A1)が順調に明るくなってきています。COBS(Comet Observation Database)のデータによれば7等台は確実なところ。


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上の図*1は午前5時における各日の彗星の位置ですが、彗星は明るくなりながら急速に高度を下げていきます。12日ごろには4等級を切るかどうかというところまで明るくなりますが、さすがに高度が低すぎ。そのあとは夕方の西空に回りますが、天文薄明終了時の高度が10度以下とこちらも非常に低く、現実的には今週末あたりが観望・撮影の好機でしょう。


一応、今週末は天気が良さそうなのでそれまで待ってもいいのですが、万が一、雲がわいたりすると二度と見られない可能性もありますので、平日明け方ですが、撮影を強行してきました。


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鏡筒はミニボーグ60ED+レデューサー0.85×DG(焦点距離298mm)。これに光害カットフィルターのLPS-D1を組み合わせます。直前まで、CometBPを入手して組み合わせようか迷ったのですが、同フィルターは連続光で輝くダストの尾にはほぼ無力なので、これはやめました。


追尾は、PHD2の彗星追尾機能を使います。事前に彗星の移動量を調べる手間はありますが、効果は確かなので利用してみるとよいでしょう。


撮影中は、10×42の双眼鏡で彗星の視認を試みますが、東京都心の低空ではなかなか分かりません。かろうじて「これ……かな……?」という光のシミが見えたような気がしますが、確信は持てません。かなり難易度は高いです。


撮影におおよそ1時間半を費やし、出てきた結果がこちら。


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2021年12月2日 ミニボーグ60ED+レデューサー0.85×DG(D60mm, f298mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -10℃
Gain=100, 600秒×8, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0dほかで画像処理、一部トリミング

決して大きくはありませんが、ダストの尾もしっかり出ていて、なかなか立派な姿です。この彗星は双曲線軌道を描いていて、おそらく初めて太陽に接近する彗星です。この手の彗星はダストの尾が案外発達しないことも多いのですが、うれしい誤算と言えるでしょう。


ただ、少し気になる点も。


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上は彗星の画像のBチャンネルとRチャンネル。Bチャンネルは主にイオン成分が、Rチャンネルは主にダスト成分が写っているのですが、これを見ると特にRチャンネルにおいて、核がやや伸びているように見えます。また、Bチャンネルの方ではイオン成分が横に広がって、逆三角形というか、シュモクザメの頭のように。こうしたこともあり「レナード彗星は崩壊しつつあるのではないか?」といった噂がSNS上などで囁かれています。たしかに、写真を見る限りは否定しきれない感じです。


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もっとも、COBSのデータを見てみると、光度の伸び自体は極めて順調で、崩壊の兆しは全く見られません。光度の見積もりには主観が入り込みがちとはいえ、過去のアトラス彗星(C/2019 Y4)の例を引くまでもなく、本格的に崩壊したとなれば光度は急速に停滞、低下していくはずです。
hpn.hatenablog.com


希望的観測込みですが、ここまでの推移を見る限り、核が割れていたとしても限定的なもので、少なくとも12月上旬の間は持つのではないかという気がします。

*1:ステラナビゲータ11を用いて作成