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コンデジ更新

今月頭ごろ、近所の家電量販店に行った時のこと。普段は覗かないデジカメ売り場に足を運んだところ、キヤノンのハイエンドコンパクトPowerShot G7 X MarkIIが約8万円で販売されていました。


同機種は1インチセンサーを搭載した高級機で、発売は2016年4月のこと。2019年にPowerShot G7 X MarkIIIが登場した後も併売が続いていましたが、今年に入って生産・販売が終了となっていました。
asobinet.com


実は、これまで普段使いしていたPowerShot S120(2013年9月発売)は酷使でだいぶ傷んできています(塗装の剥げ、鏡胴部の打痕、擦り傷 etc.)。この買い替えをしばらく前から考えてはいたのですが、PowerShot G9 XやG9 X MarkIIはタッチパネル中心の操作系に不満、G7 XやG7 X MarkII、同MarkIIIはサイズの大きさがちょっと気になる……と、決め手に欠ける状態が続いていたのです。


しかし、G7 X MarkIIがいよいよ販売終了となると気になってきます。販売終了後の相場は明らかな上昇傾向で、中古価格も釣られて上がってきているようです。加えて、「コンパクトデジカメ」というジャンル自体が絶滅寸前で、今後さらに魅力的な選択肢が現れることは期待しづらい状況……。


……一瞬の気絶の後、気づくと手元にはPowerShot G7 X MarkIIがありました。あれぇ……?





前後のサイズ感はS120と同程度(S120:100.2×59mm G7 X MarkII:105.5×60.9mm)。




しかし、厚みはチルト式モニターのせいもあって、さすがにG7 X MarkIIの方が上(S120:29mm G7 X MarkII:42.2mm)。重さもS120の217gに対して319g(いずれもバッテリーパック・メモリーカード含む)と1.5倍ほど重くなっています。


その代わり、操作系はボタンやダイヤルを中心としたもので、タッチ中心のG9 X系のような違和感はありません。なお、メニュー体系はEOSのそれに近いものになり、見通しが良くなりました。


肝心の撮像素子&映像エンジンはS120の「1/1.7型裏面照射型1210万画素CMOS, DIGIC6」から「1.0型裏面照射型2010万画素CMOS, DIGIC7」に進化。レンズはS120の「35mmフィルム換算24~120mm(F1.8~5.7)」に対し、「35mmフィルム換算24~100mm(F1.8~2.8)」となっていて、テレ端がやや短いものの明るさでは上回っています。



F4.5, 1/1250秒, ISO125, ピクチャースタイル:ニュートラ


F5.6, 1/1250秒, ISO125, ピクチャースタイル:ニュートラ


画質についてはさすがに上々で、ややホワイトバランスの反応が敏感なきらいがあるものの、大きな不満はありません(リンク先にて「オリジナルサイズを表示」をクリックすることで縮小なしの画像が見られます)。


そして気になる高感度特性ですが……S120と比較するとご覧の通り。



G7 X MarkII


S120



G7 X MarkII


S120

S120ではISO3200でディテールがやや怪しくなり、ISO6400以上はブログサイズでも「緊急用」の雰囲気が強くなってきますが、G7 X MarkIIでは限界がちょうどほぼ一段分上がった印象です。ISO12800でも、目的次第で十分使い物になるでしょう。



しかし……コンデジは今後どうなってしまうのでしょう?


最近ではスマホのカメラ性能がさらに大きく上がり、夜間の撮影さえ難なくこなす機種も増えました。しかしながら、スマホの画像センサーは1/2.55型や1/3.4型など小型でありながら画素数の多いものが多いです。一般的に、小センサーかつ画素数が多いと画素当たりの受光面積が小さくなり、ノイズ量が増えるなど画質が低下します。また、そもそもレンズが小口径なので、解像度的にもおのずと限界があります。


スマホの場合、こうした画質低下や解像度の不足をソフトウェアで補っている*1わけですが、遠目で見たときは問題がなくても、よく見ると解像感が場所によってバラバラだったり、細部が溶けてしまっていたりと不自然なケースが少なくありません。


その意味で、一眼ほど大げさではなく、スマホほど表現が不自然ではないコンデジは貴重ではあるのですが……やっぱり手軽さや使い勝手の面で、市場から駆逐されてしまうのでしょうか……?(されてしまうんだろうなぁ……)

*1:AIの一般化で、この傾向はさらに強まると思います。

「春の銀河祭り」開幕

プレイヤーA 「俺のターン!『平日の眠気』と『片頭痛』の2体を生贄に『撮影データ』を攻撃表示で召喚!
さらにトラップカード『這い寄る年波』を発動!カードの効果により、プレイヤーにダイレクトアタック!!」*1


プレイヤーB 「ぐわぁぁぁっ!!」

……というわけで(?)、先の三連休最終日、色々と犠牲にしつついつもの公園に強行出撃してきました。*2


公園に到着したのは、ちょうど夕暮れ時。夕焼けと三日月の取り合わせがとてもきれいです。こればかりは街なかだろうが何だろうが関係ありませんね。


日没後、月没までは1時間ほどあるので、その間は「散開星団祭り」。最初のターゲットはいっかくじゅう座のM50です。派手な散光星雲が多い冬の星座にあってついつい忘れてしまいがちな対象です(^^;


そしてとも座のM93。こちらはかなり南に低いです。南中時でも地上高度が30度ほどしかありませんが、撮影時の高度はわずか20度程度。撮りやすい散開星団とはいえ、どこまでそれらしく写ってくれるでしょうか……?


そして月没後はいよいよ今夜の本命、「春の銀河祭り」開幕ということで、おおぐま座のM81 & M82へ。800mm前後の焦点距離でちょうどいい対象ということで、同じおおぐま座のM97 & M108も考えたのですが、より見栄えのするこちらを選びました。


比較的光害が酷い夜半まではL-Ultimateを用いてM81内の散光星雲およびM82のスーパーウインド狙い。


光害が落ち着いた夜半過ぎからは、フィルターをLPS-D1に切り替えて銀河本体を狙います。




(丸のあたりがM81 & M82)


もっとも、夜半過ぎに光害が落ち着くといっても、例によってご覧の通りの明るさなのですが……(^^;


ちなみに、この周辺にはIntegrated Flux Nebula(IFN)と呼ばれるごく淡い分子雲が取り巻いているのですが、さすがに都心から捉えるのは一晩やそこいらではとても無理でしょう。*3
en.wikipedia.org



リザルト


というわけで、まずは散開星団の結果から。



2024年2月12日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
Gain100, 60秒×24, ケンコー・トキナー PRO1D プロソフトン クリア(W), ZWO UV/IRカットフィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsight、ステライメージVer.9.0nほかで画像処理

いっかくじゅう座の散開星団M50です。地球から3000光年ほど離れた位置にある星団で、年齢はおよそ1億4000万年。これといった大きな特徴はありませんが、中央やや下の赤色巨星と青い星々との取り合わせがなかなかきれいです。惜しむらくは、周囲にエース級の散光星雲がひしめいていて、被写体としてつい忘れられがちな点でしょうか(^^;




2024年2月12日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
Gain100, 60秒×24, ケンコー・トキナー PRO1D プロソフトン クリア(W), ZWO UV/IRカットフィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsight、ステライメージVer.9.0nほかで画像処理

次いで、とも座の散開星団M93。撮影時の高度がかなり低かったのできれいに撮れるかどうか少々心配でしたが、どうにかなりました。この天体は、シャルル・メシエが自身で発見、カタログに追加した最後の天体の1つです。




かなり南に低く、東京でも南中時の高度は約30度。メシエがいたパリでの高度は、上の星図のようにわずか18度ほどしかなく、よくぞ見つけたものだと思います。


星が三角形状に強く密集していて、高度の低さも相まって、小口径の望遠鏡で見ると彗星のように見えるかもしれません。「彗星と紛らわしい天体をリストアップする」というメシエカタログの当初の趣旨を考えれば、「らしい」天体と言えるかもしれません。


なお、これらの写真は例によって、フィルターとして「プロソフトンクリア」をかませて撮っています。さすがに焦点距離811mm@APS-Cともなれば効果がかなり強いですが、作品として台無しになるほどでもなく、雰囲気良く仕上がったかと思います。



そして、本命のM81 & M82です。


L-UltimateとLPS-D1で撮影したフレームを、ASIFitsViewerでそれぞれ強調表示した結果がこちら。



目論見通り、L-Ultimateの方はちゃんとHαが強調されています。そして、過去に何度も書いていますが、連続スペクトルで輝く銀河本体の写りはあまり良くありません。初心者の方がしばしば「光害カット」の目的で、この手の「デュアルナローバンドフィルター」を用いているのを見聞きしますが、天体の種類によってはこのように逆効果になる場合も多々あるので、十分注意が必要です。


ともあれ、これらをそれぞれ処理、合成して……はい、ドンッ!



2024年2月12日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
カラー画像:Gain100, 300秒×60, IDAS LPS-D1フィルター使用
ナローバンド画像:Gain350, 300秒×32, Optolong L-Ultimateフィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsight、ステライメージVer.9.0nほかで画像処理

特に光害の酷い北天*4でこの写りなら、まずまず上出来でしょうか。


両者は地球から約1200万光年の距離にあり、銀河系が属する「局所銀河群」のメンバーを除けば最も近い距離にある系外銀河です。2つの銀河は、見かけではなく実際に近い距離(約15万光年)にあり、過去には接近遭遇を経験しています。その影響でM82内部では爆発的な星の誕生と活発な超新星爆発が引き起こされ、また銀河中心部からは電離した水素ガスが噴き出しています(スーパーウインド)。


ちなみにM82、一般的には「不規則銀河」に分類されがちですが、最近の近赤外撮影で腕の存在が確認できたらしく、実は渦巻銀河を横から眺めた形なのだそうです。



それぞれのアップはこちら。




L-Ultimateのおかげで、M81の腕にある散光星雲(いわゆる「赤ポチ」)やM82中心部からのスーパーウインドがハッキリ見えています。ここまで写るのなら、個別にアップで撮影しても面白そうです。




なお、M81の左側にはごく淡い光のシミがあるのが分かりますが、これはHolmberg IXUGC 5336)という不規則矮小銀河で、M81の衛星銀河です。かなり淡いので、写っていてビックリです。
en.wikipedia.org

*1:遊戯王」をそんなに読み込んでるわけじゃないので雰囲気だけ

*2:翌日以降、きっちりかっちり「生贄」の効果が表れたのは言うまでもありません。

*3:画質度外視でアホみたいに強調すると、背景にわずかなムラがあるようにも思えるのですが、さすがに自信がありません。

*4:渋谷、新宿がこの方向にあります。

蛇妖星雲

先日から書いていた先週金曜の夜の話は、ようやくこれでひと段落付きそう。今回はこの夜の「本命」についてです。


先述したとおり、この日はSQMの計測と「ブラックミスト プロテクター」の試写を先行して行い、「本命」の撮影は20時ごろからとなりました。


狙うはふたご座とこいぬ座の境界付近にある惑星状星雲、「メデューサ星雲」*1ことAbell 21です。




聞けば「表面輝度が非常に低い」とのことでしたが、Digital Sky Surveyの画像を見る限り、少なくともHαの領域は比較的明るくて写りやすそう(写真左上の円内)。とはいえ、別の狙いもあるので、ここはL-Ultimateを用いてガツンと長時間露出をかますことにします。


子午線を超えて2時ごろまで撮影した後は、恒星の色を捉えるためにフィルターを光害カットフィルターであるLPS-D1に交換し、小1時間ほど撮影。3時以降はSN 2024gyの撮影に移るため、ここで終了となりました。


リザルト


撮影した結果ですが、L-Ultimateでの撮って出し&レベル調整後の画像は御覧の通り。




さすがに写りはいいですね。1コマでも十分に存在が分かります。そしてLPS-D1で撮ったものも……




レベル調整をすると容易に星雲が浮かび上がってきます。姿を捉えるだけなら、この星雲はかなり撮りやすい部類ですね。「表面輝度が低い」と言いながら、下手なICナンバーの散光星雲よりもよほど写りやすい印象です。


ところで……写真の隅の方が欠けたように黒くなってますが、どうやらこれ、過去にASI2600MC Proで問題になった「熱伝導パッドからのオイルブリード」のようです。以前、自分で掃除してきれいになったのですが、また分解清掃しないとダメそうです。面倒な……orz



さて、画像処理の方ですが、LPS-D1の方はBXTによるデコンボリューション、および色彩強調後にStarnet2を用いて星だけの画像を抽出。一方のL-Ultimateの方は、南中の前後に分けてコンポジット、カブリ除去処理をした*2のちに統合。BXTによるデコンボリューション、NeatImageによるノイズ除去*3、NikCollectionのSilverEfexによる強調などを噛ませたうえ、Starnet2で恒星を除去して、前述のLPS-D1による恒星画像と結合します。最後に微調整を行って……はい、ドンッ!




2024年1月12日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD+レデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
カラー画像:Gain100, 300秒×6, IDAS LPS-D1フィルター使用
ナローバンド画像:Gain350, 300秒×66, Optolong L-Ultimateフィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0n、PixInsightほかで画像処理

メデューサ星雲」ことAbell 21です。地球からの距離は約1500光年。


チェコ天文学者ルボシュ・ペレク(Luboš Perek, 1919~2020)とルボシュ・コホーテク(Luboš Kohoutek, 1935~2023)*4がまとめた惑星状星雲のカタログにおいて「PK 205+14.1」*5、銀河系内のHII領域を収載したシャープレスカタログにおいて「Sh2-274」としても登録されています。


発見したのはアメリカのジョージ・エイベルで、1955年のこと。肉眼では見えづらいこともあってか、NGCやICからは漏れています。惑星状星雲にしては大きめのサイズと、その網目状の構造のためか、かつては超新星残骸かと思われていましたが、1970年代になって、ガスの拡散速度が秒速約50kmと超新星残骸にしては遅いことなどから、惑星状星雲だと考えられるようになりました。


メデューサ星雲」という愛称は、網目のようになった赤いHα領域が、髪の毛が蛇になっているギリシャ神話の怪物メデューサの頭を連想させるから、ということから付けられています。しかし見た目的には、自分はどうしても「バラ鞭」*6の方を思い浮かべてしまいます(^^;


Hαの赤とOIIIの青緑との取り合わせは、ちょうど亜鈴状星雲 M27とよく似ています。そして注目は、明るい星雲本体の右上(北西)に円形に広がる淡いHα & OIII領域。これを捉えたくて長時間露出をしたようなものです。これはメデューサ星雲本体と同様、中心星から流れ出したガスが輝いているものでしょう。


メデューサ星雲の立体構造を考えてみると、基本的な形はほぼ球形のところ、その側面の一部が破れるような形で淡いガスが泡のように広がっているのではないかという気がします*7。こうした構造を想像しながら惑星状星雲を眺めるのも楽しいものです。

*1:ちなみにタイトルはこれの中国語表記。なんかカッコいいですw

*2:高度の高いところを通過する天体の場合、南中前後で地上からの光害カブリの向きが変わるので、こうしないとカブリ除去処理が猛烈に面倒になります。

*3:今回、Denoise AIは効果が強烈すぎて、かえって不自然でした。適材適所です。

*4:「天文史上最悪の期待はずれの1つ」こと 誤報テク コホーテク彗星(C/1973 E1)の発見者である、あのコホーテク氏です。

*5:ちなみに、PKの後ろの数字は「銀経、銀緯」を表していて、実際この星雲は銀経205゚08'20"、銀緯 +14゚14'29"に存在しています。

*6:分からない人はググってください(一応センシティブ案件w

*7:あくまで見た目の話で、成因は別問題。実際には、例えばまずこの方向から中心星の質量流出が始まって、のちに星雲本体を形成するような大規模な質量放出が起こったのかもしれません。