PHD2の日本語マニュアルを公開しています。こちらからどうぞ。

個人サイト「Starry Urban Sky」もよろしく。

レナード彗星(C/2021 A1)と球状星団M3

現在見頃を迎えているレナード彗星(C/2021 A1)ですが、ちょうど12月3日~4日にかけて、りょうけん座の球状星団M3の近くを通過することに。予報では、3日の明け方は天気が今一つの感じだったので、4日の明け方を狙って3日の金曜夜にいつもの公園に出撃してきました。


3日の夜に何を撮っていたかは、また稿を改めるとして……


f:id:hp2:20211204034919j:plain

日が変わって3時過ぎから、彗星の撮影準備に入ります。鏡筒は前回同様、ミニボーグ60ED+レデューサー0.85×DG(焦点距離298mm)。これなら、縦位置でも横位置でも、彗星とM3を同時に収められます。


せっかくの他天体との接近なので、最初の数コマは恒星追尾で星団の流れを防ぎ、後半は彗星追尾で彗星の描写をしっかりと。最終的には、これらを合成してみてもいいでしょう。撮影は彗星の高度が30度を超えた4時前から始め、天文薄明終了の5時過ぎに終了。おおむね予定通りです。


ところが、帰宅後にデータをチェックしてみると、彗星追尾をした方の画像において追尾に失敗していることが判明。事前にステラナビゲータで彗星の移動速度を計算し、PHD2にそのパラメータを入力して追尾させていたのですが……どうもパラメータの入力をミスったようです。残念ですが仕方ありません。*1


やむを得ず、恒星追尾の画像だけを使って処理して……出てきた結果がこちら。


f:id:hp2:20211204192955j:plain:w900
2021年12月4日 ミニボーグ60ED+レデューサー0.85×DG(D60mm, f298mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -10℃
Gain=100, 90秒×8, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0dほかで画像処理、一部トリミング

この夜は風がなかった分、PM2.5などが滞留していたようで、空が割と霞んでいたのですが、短い露出時間にもかかわらず、尾が結構しっかりと写ってくれました。


幸か不幸か、球状星団と彗星がそこそこ離れていたので処理を個別に行うことができ、球状星団の粒状感もそれなりに生かすことができました。このあたりは、ASI2600MC Proのダイナミックレンジの広さにも救われた印象です。


しかし……後から考えてみると、可能であればダストの尾のみ近赤外で撮ってみてもよかったかもしれません。それなら光害に悩まされることも少なかったはず。ただ、その場合は、ASI2600MC Proの保護ウィンドウがIRカットフィルターになっている点がネックに……。本当に悩ましいところです。保護ウィンドウの交換サービスとか、やってくれないかな……( ̄w ̄;ゞ

*1:実はM3、これを撮ろうとすると、なぜか毎度機器トラブルに見舞われたり雲の襲来を受けたりと「呪われた対象」ではあるので、「またか……orz」という感じではあります。

レナード彗星(C/2021 A1)

今年の新年早々、レモン山サーベイで発見されたレナード彗星(C/2021 A1)が順調に明るくなってきています。COBS(Comet Observation Database)のデータによれば7等台は確実なところ。


f:id:hp2:20211202190230j:plain

上の図*1は午前5時における各日の彗星の位置ですが、彗星は明るくなりながら急速に高度を下げていきます。12日ごろには4等級を切るかどうかというところまで明るくなりますが、さすがに高度が低すぎ。そのあとは夕方の西空に回りますが、天文薄明終了時の高度が10度以下とこちらも非常に低く、現実的には今週末あたりが観望・撮影の好機でしょう。


一応、今週末は天気が良さそうなのでそれまで待ってもいいのですが、万が一、雲がわいたりすると二度と見られない可能性もありますので、平日明け方ですが、撮影を強行してきました。


f:id:hp2:20211202035958j:plain

鏡筒はミニボーグ60ED+レデューサー0.85×DG(焦点距離298mm)。これに光害カットフィルターのLPS-D1を組み合わせます。直前まで、CometBPを入手して組み合わせようか迷ったのですが、同フィルターは連続光で輝くダストの尾にはほぼ無力なので、これはやめました。


追尾は、PHD2の彗星追尾機能を使います。事前に彗星の移動量を調べる手間はありますが、効果は確かなので利用してみるとよいでしょう。


撮影中は、10×42の双眼鏡で彗星の視認を試みますが、東京都心の低空ではなかなか分かりません。かろうじて「これ……かな……?」という光のシミが見えたような気がしますが、確信は持てません。かなり難易度は高いです。


撮影におおよそ1時間半を費やし、出てきた結果がこちら。


f:id:hp2:20211202164823j:plain
2021年12月2日 ミニボーグ60ED+レデューサー0.85×DG(D60mm, f298mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -10℃
Gain=100, 600秒×8, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0dほかで画像処理、一部トリミング

決して大きくはありませんが、ダストの尾もしっかり出ていて、なかなか立派な姿です。この彗星は双曲線軌道を描いていて、おそらく初めて太陽に接近する彗星です。この手の彗星はダストの尾が案外発達しないことも多いのですが、うれしい誤算と言えるでしょう。


ただ、少し気になる点も。


f:id:hp2:20211202190609j:plain

上は彗星の画像のBチャンネルとRチャンネル。Bチャンネルは主にイオン成分が、Rチャンネルは主にダスト成分が写っているのですが、これを見ると特にRチャンネルにおいて、核がやや伸びているように見えます。また、Bチャンネルの方ではイオン成分が横に広がって、逆三角形というか、シュモクザメの頭のように。こうしたこともあり「レナード彗星は崩壊しつつあるのではないか?」といった噂がSNS上などで囁かれています。たしかに、写真を見る限りは否定しきれない感じです。


f:id:hp2:20211202190636p:plain

もっとも、COBSのデータを見てみると、光度の伸び自体は極めて順調で、崩壊の兆しは全く見られません。光度の見積もりには主観が入り込みがちとはいえ、過去のアトラス彗星(C/2019 Y4)の例を引くまでもなく、本格的に崩壊したとなれば光度は急速に停滞、低下していくはずです。
hpn.hatenablog.com


希望的観測込みですが、ここまでの推移を見る限り、核が割れていたとしても限定的なもので、少なくとも12月上旬の間は持つのではないかという気がします。

*1:ステラナビゲータ11を用いて作成

ショックコード交換


普段の天体撮影時、野外で当然椅子に座るわけですが、この椅子として使用しているのが、軽さ・コンパクトさと座り心地を両立させたことで一躍名を馳せた「Helinoxチェア」です。私が使っているのは「Helinoxチェア エリート」(販売終了品)というモデルになります。


f:id:hp2:20211125235152j:plain

この椅子、収納状態だと幅35cm、太さ10cmほど。重量は900g台と非常にコンパクトです。


f:id:hp2:20211125235347j:plain

収納袋の中にはポールと座面シートが入っています。ポールはちょうどテントのポールと同じような感じで、中にショックコード(ゴム紐)が通してあります。


f:id:hp2:20211125235400j:plain
f:id:hp2:20211125235409j:plain

このポールを組み立てて座面シートを張ると、立派な大きさの椅子になるという寸法です。


軽量かつコンパクトなこの椅子、2014年夏に購入したものですが、7年もたってさすがにショックコードがデロンデロンに伸びきってしまいました。テンションがかからないため、椅子を少しでも持ち上げると足のパイプが簡単に抜けてしまう始末。さすがに不便極まります。



そこで、ショックコードを自分で交換してみることにしました。方法自体は「ヘリノックスチェア ショックコード」あたりで検索するとぞろぞろ出てきますので、それらの情報を参考にします。


まず、必要なコードの長さですが、各部位の長さを測るとおおよそこんな感じ。


f:id:hp2:20211125235443j:plain

トータルで(78cm + 50cm)×2+30cm = 286cm……おおよそ3mもあれば足りそうです。とはいえ、自分の不器用さ加減には自信がありますし、余裕があって困ることはないので長めに買っておきましょう。


ショックコードの太さはおよそ4mmほど……ということで、Amazonでこちらを2つ購入。

これなら失敗しても余裕がありますし、余ったら余ったで次回以降に有効に使えそうな気がします。*1


さて、実際の交換作業ですが、やること自体は簡単です。


f:id:hp2:20211125235711j:plain

各パイプの末端には留め具があって、これを引っ張り出すとショックコードが見えてきます。コードは結び目が作られた状態で留め具にはまっているだけ。


この留め具を外し、結び目を切り取ってコードをパイプから抜き取り、新品のコードに入れ替えます。新品の状態でのコードの長さはもはや分からないので、今回は各部位の長さと同じ長さにコードを切り取って使用しました。結び目が作られる分、適当に短くなっていい感じのテンションがかかりそうな気がします(^^;


f:id:hp2:20211125235730j:plain
f:id:hp2:20211125235739j:plain

なお、新品のコードを通す際ですが、写真のように先端にテープかなにかを巻いておくと、細い部分も通しやすくなって楽に作業ができます。最後にパイプからコードの端を出す際は、普通は長さ的にコードの端が出てこないはずなので、あらかじめコードの端に紐か何かを結び付けておいて、それを引っ張り出すようにするとスムーズです。


結局、それほどかからずにコードの交換は終了。ヘリノックスチェアは構造上、ゴムを伸ばした状態で保管することになるので果たしてどのくらい持つのか分かりませんが、最初から入っていたコードよりは頑丈そうなので、かなりの年数耐えてくれそうな気がします。


最近はヘリノックスチェアの構造を真似た、廉価な「似非ノックス」とでもいうべきチェアも多いですが、それらも同様の方法で補修できるはずです。

*1:今回は4mmの太さのものを使いましたが、細いところにコードを通す工程があるので、3mmくらいのものの方が作業の難易度は低いかもしれません。強度は若干落ちるかもしれませんが、実害が出るほどではないと思います。