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光害カットフィルターの比較

昨夜は梅雨時らしからぬカラッとした快晴。夏至直前で夜が短い上、平日でしたが、月の出までの時間を使って2つほど実験をしてみました。まず今夜は、光害カットフィルターの比較からです。




先日、冷却カメラを買った際、実は併せて光害カットフィルターも購入していました。IDASの「Night Glow Suppression filter NGS1」です。


曰く、「人工光害と共に自然発光する大気光(夜天光)も抑制する」との触れ込みで、透過特性はこんな感じ*1


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白色LEDの明かりをある程度カットしつつ、カラーバランスも極力配慮したような特性になっています。一方で、水銀由来の輝線はある程度通してしまうようで、このあたりがどう出るか気になるところです。


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今回はこのNGS1と、これまで使ってきたLPS-P2、Nebula Booster NB1との比較をしてみたいと思います。参考までに、LPS-P2とNB1の透過特性はそれぞれ以下の通りです。


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LPS-P2は伝統的な光害カットフィルターで、水銀由来の輝線は徹底的にカットしていますが、一方で白色LEDに対しては全くの無力です。


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NB1の方は、光害カットフィルターというよりはナローバンドフィルターからの派生といった感じで、Hβ、OIII、Hα以外の光は極力カットするようになっています。


これらを装着し、ミニボーグ60ED+マルチフラットナー1.08×DGで撮影を行います。使用カメラはEOS KissX5 SEO-SP3で、ISO100、300秒露出でM8(干潟星雲)~M20(三裂星雲)付近を狙っています。



さて、それでは早速結果です。まずはWBを太陽光に固定した状態での「撮って出し」から(Canon Digital Photo Professional 4で現像)。


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色の転び方がずいぶん違います。まずフィルターなしの場合ですが、当然のことながら最も背景が明るく、星雲の姿が光害に飲み込まれかかっています。背景が赤っぽいのは、いわゆる天文改造を行ったカメラ(EOS KissX5 SEO-SP3)で撮影しているためです。


これにLPS-P2をかけると、背景レベルがグッと落ちて、星雲がかなりはっきり見えるようになってきます。


一方のNGS1ですが、こちらは背景がかなり強烈に緑に転んでいます。水銀灯や蛍光灯による光害があると緑やシアンに転びがちなようですが、むしろそれよりもフィルターの透過光自体がそもそも緑色に見えるのが直接影響していそうな気がします。星雲の見え方自体は、LPS-P2と比べて、特筆するほどの大きな違いはなさそうです。


NB1については、さすがはナローバンドフィルターの係累。光害カットの効果は劇的で、背景レベルの低さは圧倒的です。



次に、WBを合わせた上での結果です(Canon Digital Photo Professional 4で現像)。


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WBを合わせると、背景の明るさの差が一目瞭然です。ここ(東京都世田谷区)の撮影環境では、フィルターなし>NGS1>LPS-P2≫NB1という結果でした。


NGS1は、LPS-P2より透過する波長域が狭く、その分背景も暗くなりそうなものですが、これが明るくなっているということは、水銀灯や蛍光灯由来の光害が想像以上に多い……と言いたいところですが、ここは慎重な判断が必要です。というのも、上の写真では星雲の写りもNGS1の方がLPS-P2より良く、単に画像全体の明度がNGS1>LPS-P2となっている可能性が否定しきれないためです。これだけでは何とも言えません。



そこで、もう少しハッキリと各画像のポテンシャルを見るために、ステライメージで処理したものを見てみます。手順としては、ステライメージでWBを合わせて現像したのち、M20付近を基準として「オートストレッチ」を行って背景色を合わせ、「レベル調整」で各画像での星雲の表現や背景の明るさがなるべく同程度になるよう調整しています。


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こうしてみると、LPS-P2とNGS1は星雲の写りに大きな差はないものの、NGS1の方には光害由来なのか、緑色のカブリがより多く残っており、効果としてはビミョーなところです*2。とはいえ、実際に調整してみるとLPS-P2とNSG1との差は案外わずかで、気にするほどでもないかなという感じもします。


ただ、NGS1は黄色付近の光を比較的多くカットしているため、星雲の色がやや単調になりがちなのは惜しいところです。上の写真ではあまり目立ちませんが、M8付近を強調するとNGS1の方は明らかに赤が勝ってしまい、ちょっと面白みに欠けます。冬場に「燃える木星雲」(NGC2024)などを撮るとハッキリするかもしれません。


なお、M20北側にある青い反射星雲に着目すると、NB1ではこれが全く写っていないことが分かります、これは反射星雲が輝線で輝いているわけではないためで、NB1に代表されるナローバンド系の光害カットフィルター(Sightron Quad BP, STC Astro-Duoなど)の弱点の1つです。同じく、NB1では写っている星の数も明らかに少なく*3、この手のフィルターが連続スペクトルで輝く天体の撮影に向いていないことを如実に示しています。


というわけで、少なくともウチの場合、NGS1の効果はLPS-P2と比較してビミョーと言わざるをえません*4 *5。まぁ、大差がないのでいいと言えばいいのですが、φ48mmまたは52mmのLPS-P2ないしLPS-D1を買いなおすかどうか*6悩ましいところですね……orz

*1:以下、透過特性のグラフは公開資料を基に、当方で書き起こしたものです。無断転載は一切お断りします。

*2:周辺減光や撮像素子上のゴミがそのままなのは、フラットを撮影してないので勘弁してください。

*3:おまけに、星の色が白、青緑、赤の3色のいずれかになってしまう。

*4:もう少しハッキリした結論が出ることを期待したのですが、良くも悪くも差は小さく、まさに「ビミョー」としか言いようがありません。

*5:おそらく「白色LED対応」を謳ったLPS-D2も、ある程度水銀の輝線を通してしまう以上、同様でしょう

*6:手持ちのLPS-P2-FF(キヤノンAPS-C用)はASI2600MC Proのマウントに取り付けできないので。アダプタを特注するのも手ですが、LPS-P2-FFはマウント内壁に突っ張って固定されるという構造上、サイズがわずかでも違うと取り付けできなくなりそうなのがイヤな感じです。

ZWO製冷却カメラに便利な小物


先日、ウチにこんなものが届きました。


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アカツキ製作所の「平クロス型アイベル水平器」(PTh-40)です。900円前後だったでしょうか。
www.kod-level.co.jp


で、さっそく作業。室内に転がってた安い充電専用USBケーブルを切断して……

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ででん!!((c) あぷらなーと)


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はい、USBプラグと水平器がくっつきました。これをどう使うかというと……


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こう使います。ASI2600MC Proの空いているUSB端子に差し込み、カメラの水平・垂直を取るのです。


これまで使っていた一眼レフの場合、ホットシューに水平器を付けることで水平・垂直を取れましたが*1、ZWOのCMOSカメラはどれも円筒形で、水平・垂直を決めるのが容易ではありません。しかし、こうやって水平器を取り付ければ、カメラの傾きを直せる=CMOSの傾きを直せるというわけです。同社の冷却カメラなどには同じ手が使えるはずです。*2



ところで、カメラの傾きを直すと何が嬉しいかですが、天体写真における構図の傾きを簡単に直すことができます。


あくまで「原則として」ですが、星雲・星団の写真は、特段の作画上の意図がない限り、天の北極の方向を画面の上方向に合わせるのが基本です。問題はこれをどうやって合わるかですが、撮影して試行錯誤しながら合わせるよりは、撮影の前……望遠鏡のセッティングの段階でカメラの向きを決めてしまった方が厳密に向きを合わせることができます。


例えば、屈折望遠鏡のように接眼部と視線方向が同じ方向を向いている望遠鏡の場合、望遠鏡をセッティングし、鏡筒が真北を向いている状態(カタログでよく見かけるあの姿)でカメラを装着します。このとき、水平器でキッチリ水平を取ると、カメラの写野は下図のようになるはずです。

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これを、赤緯軸、赤経軸に沿って被写体に動かしていくと……


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北を上にした縦構図になるのが分かるでしょうか?



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同様に、カメラを垂直にセットすると……


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今度は北を上にした横構図になります。


分かっている人にとっては分かり切った話ですが、ちょっとした道具さえあれば事前のセッティングの段階で構図の傾きを直せますので、便利かと思います。

*1:今時のカメラなら、電子水準器が内蔵されているものがほとんどですね。

*2:ちなみに、これを使うのは電源接続前で、電源やUSB3.0ケーブルを繋ぐ際には外します。一応、電流は流れないはずですが、何かの拍子にショートされたりすると困るので。

ASI2600MC Proの感度


CMOSカメラは通常のデジカメと同様、感度を自由に変えることができます。この感度を示す数字が「Gain」(ゲイン)と呼ばれるもので、数字が大きくなるほど感度が高くなります。


ただ、このゲイン、数字はあくまで機種ごとの相対値で、実際の感度がどの程度なのかは分かりません。ここがカメラの感度を表すISOとは決定的に異なるところです。


まぁ、実際の感度が分からなかったとしても、ZWOが推奨しているのはゲインが0または100*1なので、実用上はそれに従えばいいだけなのですが、気持ち悪いのは確かです。そこで、今まで使っていたEOS KissX5と簡易比較してみることにしました。



もっとも、一口に比較と言っても、どうやって比べるかが案外面倒です。デジカメ同士なら普通に出てきた絵を比べればいいだけですが、CMOSカメラの場合、画像データはFITS形式で吐き出されます。これをステライメージなどで現像すれば一般的な画像になるのですが、現像の仕方によってはレベル調整などが思わぬ形で入り込み、結果が影響されてしまう可能性があります。


そこで今回は、あえて現像を行わずに、デジカメ、CMOSカメラともに現像前のモノクロのRAWファイルのままで明暗を比較してみることにしました。方法として本当にこれで正しいのかちょっと不安になりますが、おそらく極端に間違ってはいないのじゃないかと思います。


具体的には、ISO100に設定したEOS KissX5を用いて様々な秒数で撮影を行い、これをゲイン0またはゲイン100に設定したASI2600MC Proの撮影結果と比較します*2


早速ですが、結果はこうなりました。


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通り過ぎる自動車や電車のせいで、部分的に妙に明るくなったコマもありますが、おおよそは傾向がつかめるでしょうか(ピントや構図のズレはご容赦)。


これを見ると、ASI2600MC Proのゲイン0は、おおむねKissX5のISO100と同程度の感度とみてよさそうです。一方、ゲイン100の画像を見ると、例えば露出20秒の画像の明るさは、KissX5の露出60秒の画像とほぼ同程度に見えます。ここから、ゲイン100はKissX5のISO300程度と推察されます。「だから何?」という話ではあるのですが、精神衛生上、多少安心できるかと思います。


ASI2600MC Proは素子上にカラーフィルターを挟んでいることもあり、驚くほどの高感度というわけではありませんが、3.76μm四方の極小画素にもかかわらず、画素サイズ4.3μm四方のKissX5の向こうを張れるあたり、さすがは裏面照射型(&年月の推移)というべきでしょうか。


なお、デジカメの感度に慣れている人からすると、こんな「低感度」で撮れるのか?と思うかもしれませんが、デジカメでもISO100でバッチリ撮れるのは、このブログでもこれまで散々示してきた通り。また、画像エンジンがノイズリダクションなど余計なことをしないので、おそらく暗い部分の階調も失われることなく得られるはずで、短時間露出の場合も有利なはずです。

*1:このゲインの時に、ダイナミックレンジが最も大きくなります。

*2:ゲインの設定値をもっと増やせば相関が書けそうだけど、面倒なので今回はパス。