最近、新聞などでも取り上げられていますが*1、現在、夕方の西空ではレモン彗星(C/2025 A6)が明るくなっています。

この彗星は2025年1月3日に、地球近傍天体 (NEO) の捜索を行っているレモン山サーベイによって発見されたものです。発見当初は、明るくなってもせいぜい10等程度と思われていたのですが、8月中旬に急増光し、現在はおおむね4等程度で見えているようです。
ただ、この秋の東京はとにかく天気が悪く、9月中旬以降なかなかまともに晴れてくれません。10月17日は貴重なチャンスでしたが、スケジュール的に借用中のフィルターのテストがかぶっていた上、彗星の位置と普段使っている公園のロケーションとの折り合いが悪く、観測・撮影は断念。その後はまた雨、曇り続きで、たまに晴れても夕方になると曇ったり、西空に雲が立ち上がっていたりで、まったくチャンスに恵まれません。
が、30日は運よく快晴。この機を逃してはならぬと、日没のタイミングでいつもの公園に出撃してきました。

機材は、赤道儀化AZ-GTiと「BORG55FL+レデューサー7880セット」という軽量装備。

なので、機材の運搬もいつもの手押し台車は使わず、その昔、PCケースを買った際にアキバにて500円(!)で購入したカートで。三脚&ハーフピラーについては別途ケースに入れて担いでいきます。リュックには架台本体や冷却カメラ、ノートPCなどがみっしり詰まっていて、まぁまぁクソ重いのですが、背負わずに転がしていける分、ずいぶん楽でした。

やがて日が落ちて、いよいよ撮影開始です。フレームに入った彗星は、思った以上にハッキリ分かりました。撮影については、PHD2の方で「彗星追尾」を有効に。基本的にはちゃんと計算通りに追尾してくれたようですが、なにしろ簡易的な装備なので精度的にはもうひとつ。おまけに時々ガイドがひどく暴れたりもしましたが、結果的にはそれほど致命的なことにはなりませんでした。
しかし……写真では思いのほかあっさり確認できた彗星ですが、眼視となるとまったくの別問題。望遠鏡の向いている先を10×42の双眼鏡で覗いてみますが、かろうじて「あれ……かな?」という程度のごく淡い光のシミが、見えるような見えないような……。こればかりは、東京都心からではどうにもなりません。むしろこうなってみると、尾を引いている姿がハッキリ分かった昨年の紫金山-アトラス彗星(C/2023 A3)が如何にすごかったかよく分かるというものです。
なお、撮影に際して、フィルターは最初のうちUV-IRカットフィルターのみを用いました。これは普段DSOの撮影に用いているLPS-D1が、彗星のイオンの尾が発する輝線の一部をカットしてしまうためです。レモン彗星(C/2025 A6)はどうやらイオンの尾が発達しているようなので、もったいないなと……。まぁ、都心からイオンの尾が果たしてまともに写るか?という根本的な問題はあるのですが(笑)
そして後半は、ダストの尾をしっかり捉える意味もあって、サイトロンのIR 640 PRO IIフィルターで撮影……だったのですが、こちらは結論から言うと失敗。以前、紫金山-アトラス彗星(C/2023 A3)ではいい結果が出ていたのですが、今回は彗星の高度が低くなりすぎ、いかに赤外線といえども背景のムラが補正しきれないほど酷くなってしまったのです。多少の状況の悪さくらいは貫通してくれるかと期待したのですが、やはり無理なものは無理という、至極当たり前の結論でし
リザルト
というわけで撮影結果です。まずはホワイトバランスを取っただけの文字通りの「撮って出し」の1コマ。

右下の明るいのが彗星。天文薄明がほぼ終了したころの撮影ですが、薄明の残照に地上からの光害も相まって、なかなかひどい写りです。本当にこれがまともな写真になるのか、さすがに自分でも疑いたくなるレベルです(^^;
撮影した写真はダーク引き&フラット補正の後、彗星核基準で位置合わせしてスタッキング。これに対しGCやGraXpertで入念にカブリ取りを行い……はい、ドンッ!

2025年10月17日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D55mm, f200mm) 赤道儀化AZ-GTiマウント
ZWO ASI2600MC Pro, -10℃
Gain100, 30秒×32, ZWO UV-IRカットフィルター使用
32mm F4ガイドスコープ+ASI290MM+PHD2によるオートガイド
PixInsightほかで画像処理
カブリ取りの副作用で相応に荒れていますが、長く伸びたイオンの尾が想像以上によく写ってくれました。尾の中の濃淡も案外よく分かりますし、東京都心のあのひどい状況下で、ここまで写ってくれれば上出来でしょう。
しかし、こうして事実上のノーフィルターでイオンの尾が写っているのを見ると、サイトロンのCometBPフィルター、多少は効果があるかもしれませんね。いつも、明るめの彗星が来るたびに買おうかどうしようか迷った挙句、いつもそのまま忘れてしまうのですが……(^^;
*1:とはいえ、毎度のことながら「千年に1度の天体ショー」といった煽り方にはうんざりします。長周期彗星で1000年や1万年の周期はザラで、珍しくも何ともありません。