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VSD90SSレビュー(眼視編)

ひとまず実写もしたし……ということで、一昨日はVSD90SSを眼視目的で引っ張り出してみました。


当たり前ですが、VSD90SSは基本的に写真向きの鏡筒で、眼視目的に使うような鏡筒ではありません。とはいえカタログ上は、ストレール比で比較すると同社の2枚玉EDアポクロマート「SD81S II」の95.7%を上回り、「AX103S」に次いで社内2番目(96.7%)の数値を叩きだすという高性能ぶり。ご先祖たるペンタックスの100EDUFからビクセンのVSD100F3.8に至るまで、眼視性能は二の次だった系譜からは一線を画します。


普段、光害激しい街なかで活動していることもあり、自分はほとんど眼視はしない*1のですが、こう言われると興味が湧くもの。折よく月が出ていたので「お月見」としゃれこみます。


持ち出した架台は、みんな大好きAZ-GTi。最大搭載可能重量は約5kgとされていますが、VSD90SSは鏡筒バンドを含めてちょうど5kgほど。取り付けてみると、アリミゾ自体が重さでやや外側に傾いているような気がしますが……まぁ、多分大丈夫でしょう(ぉぃ


なお、システム全体の安定感を保つため、アイベルの「カウンターウエイトシャフト」とビクセンの「バランスウェイトWT 1kg」とを取り付けています。おそらく、ないよりはずいぶんマシでしょう。


が、実はここで1つ大きなミスが。写真をよく見てもらうと分かるのですが……「M84延長筒」がつけっぱなしです。



ビクセン ウェブサイトより)

公開されているチャートをよく見ると、天頂プリズムやフリップミラーを使う場合はこの延長筒を外すことになっています。このことにに気付かず*2、天頂プリズムやフリップミラー、アイピースをあれこれ交換しては「ピント出ないな……」と苦戦してたのは内緒です(笑)


諦めて機材を一度片付けたのですが……本レビュー企画の眼視担当(?)のmituさんから「M84延長筒外し忘れてない?」という指摘を受けてミスが発覚。再度、機材を組みなおして室内から月を観望してみました。


この写真でセットしてあるのは、手元のアイピースの中で最も焦点距離が長いNLV 40mm。VSD90SSと組み合わせると495÷40=約12.4倍となります。


実のところ、VSD90SSの「有効最低倍率」*3は90÷7=約12.9倍で、それすら下回っているので設定としては不適切なのですが、ちょうど大口径双眼鏡を覗いているような雰囲気で、たっぷりの光量と豊富な色合いに圧倒されます。


ここから順次倍率を上げていきますが、好印象は変わらず。色収差の類は一切ありませんし、いかにもアポクロマート屈折らしい、コントラストが高く色ノリの良い*4映像を堪能できます。シャープネスも期待通りの高さで、クレータのエッジなどに鋭さを感じます。


こうしたところは、より大口径のMAK127SPより明らかに勝っている感じ。一般に反射/カタディオプトリック系は中央遮蔽がある分、コントラストの面で不利ですが、その差が顕著に出てしまっている気がします。


ここでさらに調子に乗って、 新兵器 旧兵器(笑)を投入!


高橋製作所の「HI-Or 2.8mm」です。自分が天文趣味にはまった中高生の頃に買ったもので、当時のものらしくツァイスサイズ(24.5mmスリーブ)のアイピースです。レンズは豆粒のように小さく、視野も現代の基準から見れば狭め(見かけ視界:40度)。アイレリーフも短い*5ので決して覗きやすくはないのですが、高橋製作所だけにモノはさすがにしっかりしています。


これで覗くと、狭い視野ながらもかなりの迫力。そしてシャープさはいささかも損なわれていません。眼視経験は極めて乏しい自分ですが、この鏡筒、見え味としてはトップクラスと評していいでしょう。


ちなみに、ここで鏡筒を載せているのはミザールテックのK型経緯台。積載重量過多気*6の上、カウンターウェイトを追加するなどの改造は行っていないので仰角が上がるとバランスが崩れて危ないのですが、このくらいの角度なら大丈夫でした。


このあと、土星の高度が上がるのを待って機材を屋外に再展開。


同じくHI-Or 2.8mmで土星を覗いてみると、狭い視野ながらも土星とその衛星たちがハッキリと。色ノリはやはり良く、シャープネスも良さげです。今シーズンは環がほとんど水平なのと、自分の視力があまり良くないのもあってカッシーニの空隙はあまりよく分かりませんでしたが、ポテンシャルは高そうです。



ただ……惑星を十二分に楽しむには、いささか倍率不足なのは否めません。HI-Or 2.8mmを使ってさえ、倍率は495÷2.8=約177倍……口径(mm)の約2倍で、いわゆる適正倍率でしかありません。ポテンシャルは高そうなので、本当はもっと過剰倍率気味に高倍率をかけてみたいのですが……。


こうなると、以前も愚痴ったことがありますが、同社の超短焦点アイピース「HRシリーズ」の生産終了・終売(2020年ごろ)が本当に惜しまれます。以前、CP+で伺った話では「欲しいマニアには行きわたって売れ行きが鈍くなった」と判断されての終売ということでしたが、どうにも判断を早まった気がしてなりません。


生産終了には売れ行きの他にも、材料調達や製造上の問題など色々と裏事情があったのかもしれませんが、せっかくの高性能鏡筒なので高倍率を確保する手段は欲しいところ。HRシリーズのリバイバルのほか、それこそ高橋製作所のオルソバローオルソエクステンダーのようなものがあっても良さそうです。特にオルソエクステンダー様のものがあれば、撮影の面でも対象がぐっと広がりそうです*7

*1:視力があまりよくないのもあります。

*2:「42T延長筒」を外すのには気づいていました。むしろ、そっちに意識を持っていかれたのかも。

*3:天体望遠鏡で集められた光は最終的にアイピース内で丸い像を作ります。この像の直径を「ひとみ径」といい、この「ひとみ径」が人間の瞳の最大径(約7mm)を上回らないような倍率のことを「有効最低倍率」といいます。「ひとみ径」は「口径÷倍率」で求められるので、「口径(mm)÷7」が有効最低倍率となります。これを下回ると、望遠鏡の集めた光の一部が目に入らず無駄になってしまい性能をフルに生かせません。。

*4:月の「海」の色合いの違いが一目で明らかに分かるほど。

*5:それでもこのクラスのものとしては長い方です。アッベオルソ7mmにスマイスレンズを付けたものと聞いたことがあるので、そのおかげでしょう。

*6:もっとも、正確な積載可能重量はメーカーからも公開されていません。

*7:一方で「トリミング耐性が高いからイラネ」というのも、まったくその通りだと思います(^^;