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国内で簡単に入手できる望遠鏡一覧(口径6cm以下~10cmクラス編)

今を去ること7年半前、EdgeHD800を購入する際に口径20cmクラスの望遠鏡について、横並びにまとめて比較・検討したことがありました。
hpn.hatenablog.com


この記事、いまだにそれなりのアクセスがあって、「望遠鏡のスペックを一覧にする」ということに需要があるのが分かります。ちょうどGW中で暇なので、2021年5月現在、国内で比較的簡単に手に入る鏡筒について簡単にまとめてみました。


今回は口径6cm以下から口径10cmクラスまでのまとめです。


~6cmクラス


私が子供のころ(3~40年前)は、入門用の望遠鏡と言えば口径6cmというのがお約束でしたが、製造技術が向上して口径8cmあたりが入門用の定番となった現在、このクラスの望遠鏡は「撮影目的」が主戦場になった感があります。


加えてここ数年、中華系企業が品質面でも長足の進歩を遂げ、魅力的な製品をどんどん投入してきています。これまで光学系に関しては「日本のお家芸」的な所があったと思うのですが、現在の勢力図はどんな感じでしょうか。


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まずは国内メーカーの製品の一覧です。なお、グレーの欄は、補正レンズ系を使用した際のスペックを示しています。また実売価格は、協栄産業やシュミット、ジズコなどでの販売価格を基本にしています。


ちなみにイメージサークルについてですが、各メーカーの公表値を示していて、29mm以上でAPS-C、43mm以上で35mm判フルサイズの領域をほぼカバーすると考えてよいです。このイメージサークルを公表している製品については、基本的に撮影目的での使用を前提に考えていると思ってよいでしょう。*1


面白いことに、トミーテックのBORG36EDを除き、ほぼすべてがフローライトを用いた鏡筒になっています。一般にフローライトは色収差補正に絶大な威力を発揮しますが、とにかく高価なのが難点。高性能ぶりのアピール&少しでも利幅を稼ぐためにこうした製品構成になっているのかとも勘ぐりたくなりますが、結果として、補正レンズを含めて10万円を大きく超えるような高価格帯に貼りついてしまっています。個人的には、裾野を広げる意味でも、もう少し手に取りやすい価格帯の鏡筒があっても良さそうに思います。


この中で目を引くのは、高橋製作所の「FS-60CB+レデューサーC0.72×」(口径60mm、焦点距離255mm(F4.2))、トミーテックの「BORG55FL+レデューサー7880セット」(口径55mm、焦点距離200mm(F3.6))、ビクセンの「FL55SS+レデューサーHD」(口径55mm、焦点距離237mm(F4.3))という、似通ったスペックの鏡筒です。「焦点距離200mm前後、F4付近」というのが一種のスイートスポットなのでしょう。


一方、高橋製作所のFS-60QやFOA-60、FOA-60Qは思い切って眼視目的に全振りした鏡筒で、メーカーから提供されているスポットダイアグラムを見る限り、極めて高い性能を実現しています。とはいえ「6cm」という口径に限界があるのも厳然とした事実で、いずれにせよかなりニッチなニーズに向けた鏡筒と言えます。


トミーテックのBORG36EDは、このクラスの国産鏡筒として唯一のEDアポクロマートですが、元々は鏡筒径45mmの「コ・ボーグ」として展開していたものを鏡筒径60mmの「ミニボーグ」の規格に落とし込みなおしたもの。ボーグならではの拡張性の面では有利ですが、デザインが正直美しくなく、物欲を刺激しないというか、イマイチ魅力に欠けるのが惜しいところです。



次は海外製品です。


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この中で最も異質なのは、Sky-WatcherのEVO GUIDE50EDです。本来ガイドスコープとして販売されているものなので、ここで「望遠鏡」として取り上げるのもどうかと思ったのですが、光学系としてEDガラス(しかも、フローライトに匹敵する特性を持つと言われるS-FPL53)を採用した本格派で、それにも関わらず税込24200円と、比べるもののない安さです。焦点距離も短く、電視観望など小フォーマットのCMOSカメラと組み合わせるような用途では、入門用として最適と言っていいと思います。


笠井トレーディングとOrion Telescopes & Binocularsの製品は中国メーカーのOEM品で、他社からも同等の鏡筒が出ていたりします。これらやTeleVueの製品は、F値を見ても分かる通り、やや眼視に振った設計になっています。


一方、William OpticsやSharpstar、Askar*2の製品は写真用途を狙っているのが明確です。F値は5以下とおおむね明るく、イメージサークルも35mm判をカバーできるものが多いです……というか、イメージサークルのサイズを公表している時点で、ほぼ写真撮影前提ですね(^^;


最近登場したこれらの鏡筒ですが、光学系はいずれもレンズ間に大きな空隙を設けて設計自由度を上げたものばかりです。こうした設計は高性能を狙えるものの、実際の製造時に光学エレメントの芯出しなどに問題を抱えることが多く、従来は避けられがちだったところ。しかしこれを量産に持ってこれたということは、それだけ中国企業の製造・検品能力が上がったということを示しています。


また、レデューサーやフラットナーなどの補正光学系についていえば、以前の中国企業の鏡筒は2インチ差し込み型の汎用品を使うケースが多かったのですが、これらの写真用鏡筒に関してはねじ込み式の専用品が用意されています。この形の方が性能を出しやすいのは明らかで、こんなところからも本気度が伺えます。


加えて、価格はいずれも10万円以下と国産鏡筒に比べて圧倒的に安価です。


私が「BORG55FL+レデューサー7880セット」を買った2017年頃には、焦点距離200mm前後の撮影用鏡筒となると他にほぼ選択肢がなかった*3ので自動的にこれになりましたが、今なら上記の撮影用鏡筒に走りそうな気がします。特にAskarの2本は、スペックや仕様を見ても完全に「ミニボーグ殺し」で、「本家」のトミーテックに元気がない今、市場を一気に持って行ってしまうかもしれません。


なお、Askarの2本については、口径こそ小さいものの、焦点距離が短くかつ補正レンズもセットになっているという点で、小フォーマットのCMOSカメラと組み合わせての電視観望にも最適でしょう。


8cmクラス


現在において入門用に相当する口径の望遠鏡です。また、サイズや重量が控えめなため小型の架台でも運用しやすく、気軽に運用できるクラスでもあります。その人気のためか、口径 ~6cmクラスと比べて一気に種類が増えています。


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まず国内メーカーの製品ですが、光学系で分けると6機種となります。


この中でビクセンはラインナップの幅が最も広く、アクロマートのA81M、安価なEDアポクロマートであるED80Sf、同社SDアポクロマートのメインストリームであるSD81Sと、バランスが取れています。価格も比較的手を出しやすいレンジに収まっていて、いい意味で「無難 of 無難」といった雰囲気です。


なお、ラインナップのうち、ED80SfだけはSky-WatcherのBKED80 OTAWのOEM品となっています。仕様が他のビクセン鏡筒と異なるので同社のオプションが使えないことがありますし、また接眼部がクレイフォード式*4で強度に劣るため、重いカメラを取り付けたりするのには向いていません。納期を含めた入手性を別にすれば、標準で微動装置がついている分、BKED80 OTAWを買った方が良さそうに思います。



高橋製作所のラインナップは、大きく分けると汎用性のあるFC-76Dと写真用鏡筒のFSQ-85EDPの2種類。このうちFC-76Dは眼視により重きを置いたFC-76DCUと、接眼部強化により大型オプションの装着に対応したFC-76DSの2つに分かれます。どちらも同社製品の中では比較的手を出しやすい価格です。


FSQ-85EDPは、性能に定評のあるFSQ-106EDPの弟分といった存在で、天体写真に本格的に取り組もうとする人向けの構成になっています。ただ、イメージサークルはFSQ-106EDPよりずっと小さいので、35mm判以下のフォーマットで運用した方が快適そうに思います(イメージサークル自体は35mm判をカバーします)。



トミーテックはBORG72FLをラインナップ。「天体望遠鏡」としてのセットが用意されていないあたり、同社が写真撮影を強く意識しているのが分かります。F値が比較的明るく、軽量で取り回しも楽ですが、フローライトを採用している分、絶対的な価格としては決して安くはありません。性能自体はいいので、「組み立て式望遠鏡」としてのボーグに魅力を感じるかどうかがカギになります。



次は海外製品です。


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まず笠井トレーディングの製品ですが、これらはいずれも中国企業OEM製品で、他社製品でもしばしば見かける鏡筒です。他社同等品を含めて各所での評価を見る限り、性能は決して悪くなく、特に眼視性能については十分満足のいくもののようです*5。ただし、「『既に数台の望遠鏡を所有し、ある程度の知識と経験を有する天文愛好家』=『マニア』の方々のご購入を前提として開発・選定した」という同社のスタンスを考えると、全くの初心者にはお勧めしづらい部分があります*6。ある程度経験のある方が、買い替え、買い足しをする場合に候補に挙がってくる感じでしょうか。


SVBONYは、格安天文機材で最近存在感を急速に高めているブランドで、望遠鏡についても他社に比べて安価な値付けが目立ちます。鏡筒の供給元はおそらく笠井などと大同小異だと思いますが、SV503シリーズはピント調節機構がラック&ピニオンだったり、70ED用のフラットナー*7がねじ込み対応だったりと、少なくともカタログ上では想像以上にしっかりしている印象です。使われているEDレンズがS-FPL51ですし*8、補正光学系も簡素な構成なので性能に過度の期待は禁物ですが、ライトな使い方なら必要十分な感じがします。ただし、説明書類にあまり期待ができないのは海外製品の常で、検品等についても上記の笠井取り扱いのものと共通する部分があります。初心者にはそのあたりの敷居が高いでしょうか。


Explore ScientificとTeleVueは両社とも広角アイピースに強みを持つメーカーで、望遠鏡も眼視性能に重きを置いています。ただ、決して安くはないですね(^^;


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アメリカのOrion Telescopes & Binocularsは、数多くの天体望遠鏡等を扱っていますが、そのほぼすべてが中国企業OEM製品です。コストパフォーマンスは比較的良好ですが、古くからの製品だと作りが値段相応に粗かったり、接眼部が強度不足だったりと、問題があるものも少なくありません。その中でちょっと異質なのが「EON 85mm ED-X2 F6.6」。ちょっと調べてみるとすぐ分かるのですが、台湾Long Perng社「S560G-A 85mm triplet f/6.6 refractor」OEM品で、以前「天リフ」で詳細なレビューが上げられた「Founder Optics FOT85」のほぼ同等品なのです。
reflexions.jp


フォトビジュアル望遠鏡として見た場合の性能は優秀で、価格こそそれなりにするものの、もっと注目されていい鏡筒のように思います。



Sky-Watcherは、安価なアクロマートから本格的な写真用鏡筒まで幅広い品揃え。中でもSTARQUEST80は、等倍ファインダー、アイピース2本、天頂ミラーも含めて12000円という驚きの価格です。F値の明るいアクロマートなので色収差はそれなりにあるはずですが、トイグレードの怪しい望遠鏡に比べたらはるかにまともですし、初心者が「お試し」感覚で購入しても大きく後悔することはないでしょう。


BKED80 OTAWとEVOSTAR72EDIIは写真撮影にも対応した2枚玉EDアポクロマート鏡筒で、製品としてはEVOSTARの方が新しいものになります。コストパフォーマンスは例によって良好で、特にEVOSTARについては、4万円台でこのクラスのEDアポクロマートが手に入ると思えば破格と言っていいでしょう。ただし、これらの接眼部はすべて安価なクレイフォード式で、強度や精度に過度の期待は禁物です。


ガチな撮影を目指すならESPRIT 80ED。エアスペースタイプ3枚玉EDアポクロマートにフラットナーを追加した光学系で、回転装置を組み込んだ鏡筒の構造といいFSQのパクリ「プアマンズFSQ」といって差し支えないようなものになっています*9。FSQと違ってレデューサーのような補正光学系が純正品で用意されていないこと、そしてイメージサークルが狭いのが難点ですが、後者についてはAPS-C以下のサイズのセンサーなら何の問題もないと思います。



そして、ガチな撮影という意味で、Sky-Watcher以上に存在感を発揮しているのがやはりSharpstarとAskar。これだけの品質、明るさのものをこの価格で提供できるというのは、まさに驚異以外の何物でもありません。特にAskarのFRA400は、標準でフラットナーを内蔵し、35mm判フルサイズをカバー。さらにレデューサーを併用すれば、F3.9まで明るくなるという高性能ぶりで、マニアも十分に満足できるものになっていると思います。



10cmクラス


屈折望遠鏡としてはサイズ、価格、性能のバランスが良く、人気のあるクラスです。また、小口径のマクストフカセグレンもこのレンジに入ってきます。


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まず国内メーカーですが、ビクセンアクロマートのA105MII、SDアポクロマートのSD103S、写真性能を追求したAX103Sの3機種構成となっています。


A105MIIについては、アクロマートでF値を大きくせざるをえない関係上、かなり長大な鏡筒になっています。鏡筒長が1mを超えると手軽な感じではなくなってきますし、価格もそこそこして、ちょっと立ち位置の難しい鏡筒です。もし自分なら、この金額を出すなら口径を落としてED屈折か、反射/カタディオプトリック系に行くと思います。


SD103Sは自分も使っています*10が、眼視、撮影共に無難にこなす万能機。補正レンズ類も優秀です。泣き所は同社SDシリーズに共通の「光路に飛び出している錫箔」で、これが撮影時の星像に悪影響を及ぼします。これさえなければ諸手を上げてお勧めできるので、惜しいところです。詳しくは以下のレビューをご参照ください。
urbansky.sakura.ne.jp


AX103Sは3枚玉SDアポクロマートにフラットナーを組み合わせた光学系で、結像性能は非常に優秀です。ただ、写真用を謳っている割にはF値が暗く、ピント微動装置が標準装備でないなど、価格も含めて考えると若干のちぐはぐさは否めません。ただ、ピント微動装置が標準装備でないのは国産鏡筒に多い仕様ですし*11F値が暗い点についても、優秀なレデューサーHDが登場した今ではあまり問題にならないかもしれません。



高橋製作所は眼視を重視したFC-100DC、フォトビジュアルを意識した接眼部強化型のFC-100DF、結像性能をさらに向上させたFC-100DZ、そして写真派の定番であるFSQ-106EDPという製品構成です。FC-100Dシリーズの製品はいずれも優秀な性能で、価格も同社の製品としては比較的抑えめです。ただ、鏡筒バンドすら別売りだったり、補正レンズ類が全体的に高めだったりと、他のタカハシ製品同様、最終的には意外と出費がかさむ可能性があるのには要注意です。


FSQ-106EDPは写真派にとって定番中の定番だったFSQ-106EDのマイナーチェンジ版で、接眼部が使いやすくブラッシュアップされたもの。その代わりFSQ-106EDは受注終了となりました。実質的な値上げとも言えるでしょうか……。光学系は従来のままで、その高性能ぶりは万人の認めるところです。温度変化によりピント位置がずれやすいという弱点はあるものの、レデューサー使用でF3という明るさも唯一無二で、「いつかはFSQ」と思っている人も少なくないはずです。とはいえ、誰もが「本体のみで税込60万円超」という金額を気軽にポンッと出せるわけもなく、一生モノとはいえ、そこが泣き所ではあります。



トミーテックは90FLと107FLの2本立て。「90FL+レデューサー7872セット」以外は熱による膨張・収縮が少ないカーボン鏡筒がおごられており、光学性能も優秀です。ただ、その分割高になっている感じは否めません。2019年中に発売予定だった107FL用レデューサー「EDレデューサー0.7×DCQC」が大幅に遅れているのも気になるところで、昨今のトミーテック自体の元気のなさも含め、不安を感じないというと嘘になります。


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海外製品については8cmクラスの鏡筒と同シリーズのものが多く、その意味で特筆するものは少ない感じです。それにしても、相変わらずAskarの製品は出色のデキです。同社の他の製品同様、アストロカメラとして捉えるべき製品ですが、66mmものイメージサークルを確保してこの価格というのは破壊的と言っていいと思います。また、小フォーマットでの使用が前提なら、ESPRIT 100EDも悪くない選択肢だと思います。なお、レデューサーについて純正品はありませんが、例えばStarizonaからはESPRITシリーズでの使用を想定して開発されたApex ED 0.65x Reducer Flattenerが出ているので、こうしたものを利用すると良いと思います(イメージサークル30mm)。


一方、「眼視」という目線で見てみると、写真の場合と同様、3枚玉アポクロマートなどの方が性能的に有利なのは確か。しかし、レンズ枚数が多いと温度順応に時間がかかる場合があり、手軽な観望には向かない面があります。むしろコストを抑えた2枚玉EDアポクロマートの方が安定した性能を発揮させやすいですし、眼視の場合は主に視野中心部しか使いませんから、イメージサークル内の像の均質性を追及しても仕方ありません。その観点から言えば、最近の中華鏡筒は「レンズが多い方がエライ」的なインフレが起こりつつあるような気もしています。海外市場の特性なのかもしれませんが、「ドライバいっぱい載せれば高級なんだろ」と言わんばかりのイヤホンの恐竜的進化とも通じる部分がありそうです。


なお、節冒頭で触れた口径9~10cmのマクストフカセグレンですが、これらはいずれもSky-Watcherブランドを展開する南通斯密特森光電科技有限公司(Nantong Schmidt Opto-Electrical Technology)のOEM製品です。非常に歴史の長い鏡筒で、製造技術としては枯れきっているため、性能は安定しています。焦点距離が長くて高倍率を出しやすいので、月・惑星の観望に好適で、都心のような所でも楽しむ余地が大きいです。ただし、倍率が高くなりやすい分、架台はしっかりしたものを使いたいところ。あまりにやわい架台だと、振動ばかりが目立って不快です。

*1:公表していないからといって、撮影用途を想定していないわけでもないあたりがややこしいところですが(例:ボーグの各製品)

*2:Sharpstar、Askarともに嘉興鋭星光学儀器有限公司のブランド

*3:FL55SSは未発表、FS-60CBは補正光学系や鏡筒バンド、ピント微動装置等を含めるとそこそこ高額になるので。

*4:ドローチューブ側のレールとピントノブ側のローラーとの摩擦でドローチューブを前後させる方式。ギアでドローチューブを前後させるラック&ピニオン式と比べると、ギアの噛み合い具合によるバックラッシュがない、安価で製造できるといった利点がある一方、摩擦だけでドローチューブを支える構造のため、接眼部に重たい部品、カメラ等を装着するとスリップしてしまうという弱点があります。

*5:写真性能については、フラットナーやレデューサーが2インチ差し込み式の汎用品である以上、おのずと限界があるかと思います

*6:同シリーズの別鏡筒ですが、このような例もあります。https://tenmontyu2.exblog.jp/26922250/ 大手メーカーと違って検品にどうしても漏れが発生するため、こうしたことはたまに発生するのですが、不良品を不良品と見抜けるくらいの経験は必要です。また、説明書類も最低限です。

*7:というより、焦点距離が0.8倍になるあたり、レデューサーというべきでしょう。

*8:安価なEDアポクロマートによく使われている硝材で、フローライトやS-FPL53に比べると、対物レンズに使用した時の色消し性能は一般にやや落ちます。

*9:ファインダー台座ごとくるくる回ってしまう回転機構まで真似しなくてもとは思いますが。

*10:正確には「『デジタル対応SD改造サービス』を行ったED103S」。ED103SのドローチューブをSD103Sと同じものに交換したもので、ED103SとSD103Sの違いはドローチューブ内の絞りの位置だけなので、実質的にSD103Sと同じです。

*11:今時どうかとは思うのだけど。

望遠域で使えるソフトフィルター

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昨日のエントリーの系外銀河を撮影している裏で、実はもう一つ実験をやっていました。ソフトフィルターの比較です。


先日プレセぺ星団 M44を撮影した際、レンズの結像性能が「良すぎて」星がほぼ完全な点像になってしまい、すさまじく地味になってしまったことがありました。
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こういう場合、星野写真や星景写真ではソフトフィルターを用いて輝星ににじみを生じさせ、星の存在感を強調&星の白飛びを防ぐという手段を使うのが普通です。実際、広角レンズでの撮影では非常に効果的に働きます。
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ところが、ソフトフィルターの効果はレンズの焦点距離が長くなるほど大きくなるため、数百mmもの焦点距離になると効果が強すぎて不自然さの方が大きくなります。以前、ミニボーグ60ED+マルチフラットナー1.08×DG(焦点距離378mm)+EOS KissX5の組み合わせに対し、上のおうし座の写真でも使用した「PRO1D プロソフトン[A](W)」フィルターを用いてM44を撮ったところ、まるで反射星雲がまとわりついたかのような描写になり、閉口した覚えがあります。
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そこで今回、ケンコー・トキナーから発売されている「PRO1D プロソフトン クリア(W)」を入手して、望遠域での効果を試してみることにしました。


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このソフトフィルターは、同社のソフトフィルターの中では「ブラックミスト No.5」に次いで効果の弱いもので、「プロソフトン(A)」の約半分の効果を謳っています。これだけ効果が弱ければ、望遠域でもある程度使えるかもしれません。


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比較対象は、同じケンコー・トキナー「PRO1D プロソフトン[A](W)」*1。上でも使いましたが、星野・星景写真用として定評のあるものです。これらと「ソフトフィルターなし」の場合とでM44を撮り比べ、その効果を比較します。鏡筒はミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D55mm, f200mm)を用いました。


ISO100で60秒×8コマをそれぞれ確保し、フラット補正、カブリ補正を行った後、ほぼ同様のレベル調整を行って出てきた結果がこちらになります。


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(↑クリックで拡大します)

まず「ソフトフィルターなし」のものですが、例によって猛烈に地味です。M44を中心に、星座絵で「カニの甲羅」を形作る星が台形に囲んでいるのですが、明るい星も暗い星も同じように点像なので、星座の星が埋もれてしまいメリハリがありません。おまけに星の色もほぼ飛んでしまっているため、白い点々が散らばっているだけの地味な絵になってしまっています。


一方、右の「PRO1D プロソフトン[A](W)」を使ったものでは、星が大きくにじんでいます。一見派手ですが、星団内の7等近い暗い星まで大きくにじんでいるため、光芒が星団を取り巻いてまるで反射星雲のよう。上でも書きましたが、これはさすがに「やりすぎ」です。また、強いソフト効果の影響で、微光星がとろけて数が減ってしまっているのも気になるところ。絵全体としてはちょっと寂しい印象も受けます。


「PRO1D プロソフトン クリア(W)」の結果は、「ソフトフィルターなし」と「PRO1D プロソフトン[A](W)」のまさに中間といった感じ。光芒の大きさは小さいものの星の色もしっかり出ていて、それでいて星団内の星はにじみがかなり抑えられています。光芒がハッキリ出るのは5~6等台くらいまでのようで、しかも光芒自体が比較的おとなしいですから、小さい星座や散開星団を撮るのにはかなり使いやすそうです。



……というわけで、少なくとも35mm判換算300mmくらいまでなら、「PRO1D プロソフトン クリア(W)」はかなり有効に使えそうです。

*1:67mm径なのは、PENTAX-DA 17-70mmF4AL[IF] SDMに合わせた結果。今回は変換アダプターを介してBORG55FLに装着しています。

春の銀河祭り&都心の天の川チャレンジ


この週末は、実にほぼ1か月ぶりの好天。Windyの予報でも曇る心配はほぼなさそうだったので、日没後からいつもの公園に出撃してきました。

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……って、晴れる予報じゃなかったんかい!orz


到着して空を見上げてみると、このあたり一帯だけ雲が被っています。それでも20時ごろにはどうにか雲が取れてくれたので、機材を展開して撮影開始です。


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この日の主砲はED103S+レデューサーHD(焦点距離624mm)。これにIRパスフィルターとASI290MM/MCを組み合わせ、視直径の小さな系外銀河を狙います。35mm判換算で3900~4680mmに相当する焦点距離なので、画素数はともかく、構図だけならそれなりの迫力で写せるはずです。


「春の銀河祭り」とはいえ、おとめ座を中心に対象は非常に多く、何をターゲットにするかはずいぶん迷ったのですが、今まで撮っていない対象ということで、メシエ天体の中でイマイチ存在感の薄いM61、そして2つの銀河が衝突している姿が有名なNGC4567-8を狙うことにします*1


撮影は先のM51の場合と同様、モノクロカメラで近赤外画像を、カラーカメラでRGB画像を得て、LRGB合成をする方針で。まずは近赤外の「撮って出し」ですが、Gain=110の5分露出の結果がこれ。


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背景の明るさの違いは、おそらく天体の高度&時間帯によるもの。光害の影響を受けづらい近赤外とはいえ、まったくの影響ゼロとはいかないようです。とはいえ、この時点でフェイスオンのM61の腕が見えるというのは、なかなか大したものです。


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同じくこちらはカラーの「撮って出し」。UV/IRカットフィルターのみの状態で、Gain=110の3分露出です。こちらだと、この時点ではいずれも銀河中心部くらいしか見えません。なお、光害カットフィルターを使わなかったのは、自然な色情報が欲しかったため。決してフィルターの付け外しが面倒だったとかそういう理由では……ゲフンゲフン


これらを全て各8枚ずつ撮影したのち、処理して出てきた結果がこちら。


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2021年4月11日 ビクセンED103S+レデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
L画像:ZWO ASI290MM, Gain=110, 露出600秒×8コマ, OPTOLONG Night Sky H-alphaフィルター使用
RGB画像:ZWO ASI290MC, Gain=110, 露出180秒×8コマ, OPTOLONG UV/IRカットフィルター使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0bほかで画像処理

まずはM61から。この銀河はおとめ座の「銀河密集地帯」からは南に少し離れた位置にありますが、おとめ座銀河団の一員です。実際のサイズは私たちの銀河系と同程度と言われています。立派な渦巻きを持つ見事な銀河なのですが、上記の位置の問題に加え、明るさが9.7等とやや暗いこともあり、どうにも存在感の薄い可哀想な子です。


このくらいクローズアップすると、腕が見事で興味深いです。巻き方がちょっとうみへび座のM83に似ている気もします。



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2021年4月11日 ビクセンED103S+レデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
L画像:ZWO ASI290MM, Gain=110, 露出600秒×8コマ, OPTOLONG Night Sky H-alphaフィルター使用
RGB画像:ZWO ASI290MC, Gain=110, 露出180秒×8コマ, OPTOLONG UV/IRカットフィルター使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0bほかで画像処理

そしてNGC4567-8。2つの銀河のうち、上がNGC4567、下がNGC4568です。今まさに2つの銀河が衝突し始めた姿で、写真で見ると、NGC4567の方がやや青味がかっているのが分かります。どちらも約12等とかなり暗い銀河ですが、激しい光害の中、よく写ってくれました。さすがは近赤外というところでしょうか。


ただ一方で、暗黒帯はやや不鮮明です。一般に赤外域での撮影の場合、暗黒帯は透けて写ってしまいます。これは、暗黒帯による減光の影響が短い波長の光ほど大きいためで、近赤外撮影の泣き所でもあります。もっとも今回の場合は、極端にクローズアップしたことでシーイングや微細なガイドズレの影響が出た可能性もあり、何とも言えないところです。


ちなみにこの銀河、"The Butterfly Galaxies"(ちょう銀河)という愛称がありますが、もう一つ有名な愛称として"The Siamese Twins"(シャム双生児)というのがあり、こちらの方が有名かもしれません。ただ、これはいわゆる結合双生児を指す俗称で、用語として不適切ということから、2020年8月、NASAはこの呼び名を使用しないと決定しています。




さて、これを撮った後、お遊びとして「東京都心から天の川が撮れるか?」にチャレンジしてみました。


以前から、試してみたいテーマではあったのですが、先日、けむけむさんが自宅から天の川の撮影に成功されているのを見て、尻に火が付いた形。この夜は透明度がイマイチでしたが、時間があるので試してみた次第です。


使う機器は、ここ最近のお手軽撮影でおなじみの構成で、EOS KissX5 SEO-SP3にシグマの格安レンズ18-50mm F3.5-5.6 DCの組み合わせ(焦点距離28mm、F4.5に設定)。ボディ内には光害カットフィルターLPS-P2-FFを内蔵し、追尾には赤道儀化AZ-GTiを用いています。


この構成で、とりあえず240秒露出で8枚確保しました。1枚の「撮って出し」はこちら。


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画角に地上の強烈なLED照明からの光芒が入って、かなりうっとうしいです。かろうじてさそり座と南斗六星、M8が確認できますが、当然天の川は影も形も見えません。


しかし、8枚コンポジットしたのち、DynamicBackgroundEstimationでざっくり背景を引いて強調してみると……


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見える!見えるぞっ……!!


40~50m先の真正面にLED照明がある上、フラット補正なしのこんな雑なやり方でも、案外ガッツリ天の川が浮かび上がってきて驚きです。考えてみれば、天の川が肉眼で見えるものである以上、トータルとして6等以上の明るさはあるわけで、写っても不思議はないわけですが……それでも、街の光を超えて星の光が地上に確かに届いているのだなぁと感じられて、ちょっとした感動です。


照明さえ直射しなければもう少しマシな画像になったと思うので、次は正面に強烈な照明がない場所でチャレンジしてみようかと思います。案外まともな絵が撮れるかもしれません。

*1:どうでもいいけど、NGC4567ってすごく覚えやすい……(笑)