PHD2の日本語マニュアルを公開しています。こちらからどうぞ。

個人サイト「Starry Urban Sky」もよろしく。

ブログ移転のお知らせ

2005年以来、趣旨を変えつつ「はてなダイアリー」にて続けてきた当ブログ「星のつぶやき」ですが、このたび「はてなブログ」の方に移転することになりました。新しいURLは
https://hpn.hatenablog.com/
になります。

旧URLでも、基本的にはリダイレクトされるのでアクセスは可能なはずですが、ブックマークなどに登録されている方はなるべく早めに変更していただくようお願いいたします。


はてなダイアリー」の方は新規ユーザー受付がすでに停止しており、SSL対応も進まないことが予想されるので、Chrome 68がSSL非対応のページに警告を出すようになった機に合わせて移転した次第。移転自体は以前から考えていて、本家サイトと同じく「さくら」のご厄介になることも考えたのですが、過去12年以上、3000個近いエントリーの移転に嫌気がさして「はてなブログ」を利用することにしました。

デザインも、意図的に以前のものと近くしたので違和感は少ないはず。文章ばかり長くて読みづらいブログですが、今後ともよろしくお願いいたします。


 # あー、そういえばヘッダの絵もいい加減新しくしないと。
 # ずいぶん長いことまともに描いてないけど、描けるかね……?(^^;

ビクセンFL55SS発売

https://www.vixen.co.jp/post/180723a-2/

昨日、ビクセンからフローライト採用のフォトビジュアル鏡筒「FL55SS」の発売が発表になりました。実際の発売は27日(金)から。専用フラットナー、レデューサーも同時発売です。

この鏡筒は今年のCP+でも展示されていたので、実際にご覧になった方も多いかと思います。口径55mm、焦点距離300mm(F5.5)のフォトビジュアル機で、ビクセンとしては実に30年ぶりのフローライト鏡筒です。定価は税別10万8000円。実売価格は10万円を切ってくるでしょうから、価格的にはBORG55FL天体鏡筒セット【6155】(直販価格9万100円)とほぼ同じくらいでしょうか。とはいえ、この鏡筒を眼視で使おうという人はあまりいないはずで、フラットナーやレデューサーとセットで購入するケースがほとんどかと思います。


専用フラットナー「フラットナーHD for FL55SS」は焦点距離が1.04倍に伸びますが、フルサイズ版での周辺光量が96%に達するという性能で、APS-C機ならフラット補正はほぼ必要ないかもしれません。スポットダイヤグラムや実写画像を見る限り、周辺の星像も優秀でなかなかの高性能です。

専用レデューサー「レデューサーHDキット for FL55SS」の方は上記フラットナーと同時に使用する形になっていて、ちょうど汎用の「SDレデューサーHDキット」と同じ方式です。焦点距離を0.79倍に短縮し、焦点距離237mm(F4.3)の明るい鏡筒となります。フルサイズ版での周辺光量は86%と十分に高く、星像の良さも考えあわせると、こちらもかなりの高性能と言って差し支えないかと思います。


ただ、性能の高さはそのまま価格に跳ね返ってきていて、「フラットナーHD for FL55SS」が税別36000円、「レデューサーHDキット for FL55SS」に至っては税別86000円とかなりの高額商品になっています。汎用の「SDフラットナーHDキット」(税別27000円)や「SDレデューサーHDキット」(税別56000円)と比べても高くなっていますが、このあたりは純粋に見込み出荷数の差が反映されているのではないかと思います。性能を考えればやむを得ない値段だとは思いますが、CP+の時点でレデューサーの予価が6万円前後と言っていたことも合わせ、議論を呼びそうな値付けではあります。

しかし一方で、このクラスは各社のカメラレンズに加え、FS-60CB(高橋製作所)やBORG55FL(トミーテック)などライバルも多く、中途半端なものを出しても勝算は薄いでしょうから、この判断は「アリ」だろうと思います。

ほめられない部分も

明確に「写真用」と言ってしまって良さそうなFL55SSですが、それだけに気になるところも。


最も気になるのは合焦部のチープさです。他の鏡筒と同じ機構を採用していて、微動装置の類は標準装備になっていません。以前、「BORG55FL+レデューサー7880セット」について必要なピント精度を計算したことがありましたが、この時の計算式を当てはめるとおおよそ±30μm程度の精度は必要になる計算で、微動装置なしでは追い込みはとても不可能です。価格が高くなるとはいえ、標準で何らかの手当は必要だったのではないかと思います。

また、三脚座からスライドバーに至る造形があまりに不格好。このあたりは個々人の美的感覚も関係するので一概にダメ出しもできませんが、四角いブロックを後付けしたような三脚座と、本体に比べて長大なスライドバーはお世辞にも美しいとは言えません。スライドバーについては、取り付けるカメラによって重心位置が大きく変わるので仕方ない部分はありますが、三脚座と合わせてもう少しうまく処理できなかったかと思ってしまいます。

せっかくの三脚座も、武骨な割にアルカスイス規格非対応で、残念なところです。

勝負の行方は?

ちょうど「天文リフレクションズ」さんの方でFS-60CBやBORG55FLとの比較がまとめられていますが、価格面で後塵を拝しているのは確か。一方で、性能面では相当に期待させるものがあり、公平な目で見れば他の機種を凌駕する可能性は十二分以上にあると思われます。実機によるレポートを待ちたいことろです。


……しかし、公平に見てもらえないのが現在のビクセンの苦しいところ。高橋製作所はこれまでの実績の積み重ねから、高級機を出しても文句は言われませんし、ボーグは豊富な作例に加えて、社長の中川氏が紡ぎだす「物語」が優秀ゆえ、スポットダイアグラム等がなくても性能を信じてもらいやすい土台ができているように感じます。

ところがビクセンの場合、かつての高コストパフォーマンス(性能はそこそこだけど安価で手に入れやすい)のイメージが強くて、高級機を出すと「高い!」と反発され、安価な機種を出すと「子供だましのおもちゃ」と蔑まれ……と苦労の絶えない位置に落ち込んでしまった感があります。SkyWatcherなどの中華系機材が、かつてのビクセンよろしく高コストパフォーマンスで暴れまわっているのも頭の痛いところ。

そこから脱却すべく、AXD赤道儀やVSD100F3.8鏡筒などの高級路線を積極的に推し進めてきているのだと思いますが、少なくとも自分の周りを見る限り、ブランドイメージが改善したという感覚は残念ながらありません。*1


無責任な外野の声ですが、思い切ってProとかAdvancedといった名前をつけたラインを新設して*2、入門機や普及機ときっぱり切り分けてしまった方が、「ビクセン」というブランドに染みついた「中庸な性能、低価格」という印象を拭い去ることができそうな気がします。製品開発自体も吹っ切れそうです。

*1:世代的なものもあるのかもしれませんが

*2:イメージとしては、シグマのArtシリーズとかそんな感じ。

夜半の三日月

脳内出血で倒れた母の介護だったり、そもそも天気がイマイチだったりで、直焦点撮影はGW前後からついぞご無沙汰だったのですが、20日金曜の夜は久しぶりにスッキリと晴れそうな予報。そこで、月没の頃を見計らっていつもの公園に出撃することにしました。


とはいえ、出撃するまでが一苦労。これまで望遠鏡の置き場は1階の玄関脇の部屋だったところ、母が車椅子で移動する関係で家をリフォームした結果、機材一式が全て2階に追いやられてしまいました。その上、玄関自体も、上がり框への階段や手すりを増設した結果、台車を乗り入れることができなくなってしまいました。

結果、階段を何往復もして全重量数十kgの大荷物を屋外へ運び、これを高く持ち上げて台車に載せる羽目に。今はまだ大丈夫ですけど、この先、体力が落ちてきたらとてもこうはいきません。何かうまい手を考えないと……orz

ともあれ、どうにか機材を運び出して夜半前には公園に到着。何を撮るかですが、Twitter上でのやり取りから、はくちょう座の「クレセント星雲」(三日月星雲)ことNGC6888を狙うことにしました。ちょうど天頂付近に昇っていて、光害の影響も比較的少ないはずです。



クレセント星雲は比較的小ぶりな散光星雲ですが、近くにはサドル(はくちょう座γ星)周辺に広がる散光星雲(IC1318)があり、淡いガスが広がっています。もしうまく撮れればこれらを捉えることも可能でしょうから、光学系として焦点距離がやや短めな、ED103S+レデューサーHD(焦点距離624mm, F6.1)を用いることとしました。実はこれがレデューサーHDの事実上のファーストライトになります。「SDレデューサーHDキット」を購入したのがちょうど1年前ですから、どれだけ寝かせていたんだという話ではありますが……(^^;




標的天体が主にHα線で輝いていることから、フィルターはOPTOLONG CLS-CCDを選択。露出は1コマ当たりISO100の15分としましたが、撮って出しでもこの程度。カットする光の量が多いせいか背景レベルの上がり方は鈍く、もっと露出量を稼ぐことはできそうです。


数ヶ月ぶりの撮影ということで、忘れ物も含め何かトラブルが発生するかもと心配していたのですが、特にそうしたことは起こらず。手順は案外しっかり身についているものです。

ただ、午前1時ごろまで、撮影している自分の目の前でカップルがイチャイチャし続けていて、しまいにはスマホのライトをつけて自撮りを始める始末。ライトの光が機材をモロに照らすのでやめてほしかったのですが、声をかける勇気もなかったので、体で光をブロックしつつ大爆発を念入りに祈っておきました。


予定していた枚数を撮影後、薄明開始までの間に、ちょうどバーストを起こしていると言われていたパンスターズ彗星(C/2017 S3)を狙ってみようかとも思っていたのですが、撮影場所からは北東側の低空が狙えないことが分かり断念。代わりにコマ数を追加して撮影終了としました。


その後、例によってゴリゴリ処理をやって出てきた結果がこちら。



2018年7月21日 ED103S+SDフラットナーHD+レデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出900秒×8コマ, OPTOLONG CLS-CCD for EOS APS-C使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

ナローバンドで撮影した場合に比べるとコントラストが低いですが、網状星雲のミニチュアのような姿が浮かび上がってきました。

クレセント星雲は、中央のウォルフ・ライエ星WR 136からの高速な恒星風と、同星が赤色巨星だった約40万年前に放出された低速の恒星風が衝突した姿です。Hα線などのナローバンドで撮ると、三日月形というよりはつぶれたカブトガニのような楕円形に見えます。この写真でも、心眼レベルですが、淡いガスが楕円形に広がっているようにも見えます。

また、主に北側の背景がうっすら赤く色づいていますが、これはカブリではなく、サドル周辺の散光星雲の最外縁部。Hα線のナローバンドで撮ると存在がハッキリわかるようですが、最微等級3等程度の空で非冷却デジカメを使ってここまで写れば御の字でしょうか。


なお、今回はディザリングを利用して撮影し、コンポジット時にσクリッピングを行うことで、ダークフレームの減算を省略してみました。ホットピクセルの消え方を見る限り一定の効果はありそうで、カメラのアンプノイズが目立たない場合は有効そうです。