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マスク作成の強い味方「StarNet++」

星雲を強調するための「星雲マスク」や、星だけを抜き出した「星マスク」を作成するために、星だけを消去した画像が必要になる場合がしばしばあります。

そうした画像を作成する方法としては、Photoshopの「明るさの最小値」フィルターを使う方法、「FlatAide」を流用する方法などがありますが、先日、某所で「StarNet++」*1という専用フリーウェアが紹介されていました。


ダウンロードはこちらから。
https://sourceforge.net/projects/starnet/


細かい技術的なことは、その方面に詳しくないのでよく分かりませんが、どうやらニューラルネットワークを用いて星像を認識、消去するようです。入力は16bit TIFFのみ、64bit環境でのみ動作、AVX命令のサポートが必要*2、メモリを1~3GBほど使用するなど、注意が必要な点もありますが、かなりの精度で星を消去できるようです。カラー画像用とモノクロ画像用の2つのプログラムが用意されています。


コマンドラインで操作するプログラムですが、使い方は簡単。カラー画像の場合、以下のように入力するだけです*3*4

rgb_starnet++.exe INPUT OUTPUT STRIDE

INPUTは入力ファイル名、OUTPUTは出力ファイル名、STRIDEはニューラルネットワークへの入力サイズ単位になります。OUTPUTは省略可能で、その場合は「starless.tif」というファイル名で保存されます。

また、STRIDEには数字が入りますが、未指定の場合、64が使われます。このプログラムでは、STRIDEで指定された数値を一辺のサイズ(単位:ピクセル)としたタイル状の領域を単位として処理を行います。STRIDEを小さくすれば、アーティファクトを生じたりディテールを損なったりすることなく処理ができますが、処理にかかる時間は2次関数的に増加します。かなり重い作業のため、STRIDEは画質と処理時間との兼ね合いで決めることになります。

StarNet++の実力

それではこのソフトがどのくらいの実力を持っているのか、他の方法と比べてみましょう。サンプルとして、StarNet++に同梱されている以下のサンプル画像を使ってみます。


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まずはPhotoshopの「明るさの最小値」フィルター。


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「半径」を1pixel、「保持」を「真円率」にして1回かけたものですが、微光星はある程度消えたものの明るい星はガッツリ残っています。また、フィルターの副作用で星雲にまでダメージが及び、モヤモヤした変な模様が浮かび上がってきています。


次にFlatAideでの処理。こちらは普段自分がよく使っている方法です。


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とりあえず「星検出エッジしきい値」を101、検出領域の拡張幅を25%、「星領域強制判定濃度」を255としてかけた結果ですが、星の消え残りがいくらかある上に、明るい輝星周りの光芒が消えていません。


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手動で修正すると幾分ましになりますが、不自然さは拭えません。


一方、StarNet++で処理した結果ですが……


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一目瞭然。圧倒的に優秀です。

輝星を消した跡にブロックノイズのようなパターンが浮かんでいる部分がありますが、こうしたマスクを使う場合、ある程度ぼかして使うのが普通ですし、ここまできれいに消えてくれれば文句はありません。これなら、元画像との差を取ることで「星マスク」も簡単に生成できそうです。


処理時間はRyzen7 2700Xを常時4.0GHzにオーバークロックしたマシンで30秒ほどかかりましたが、このくらいなら許容範囲内です。

STRIDEの効果

ついでなので、STRIDEのパラメータを変えた場合の効果も見てみます。上記と同じ画像を、STRIDEの値を64~8まで変えて処理してみました。


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ブロックノイズの目立つ付近を切り出してみましたが、STRIDEの値が小さくなるほどブロックノイズは目立たなくなり、星雲の細部も潰れずに残っています。


こうしてみると、STRIDEの値をとにかく小さくした方が良さそう……と言いたくなるのですが、問題は処理時間。手動計時なのであまり正確ではありませんが、1048×712ピクセルのこの画像を処理するのにかかった時間は

  • STRIDE=64:29.7秒
  • STRIDE=32:94.2秒
  • STRIDE=16:346.5秒
  • STRIDE=8:1352秒

と、STRIDEの値が小さくなるほど極端に伸びてきます*5。最新のほぼハイエンドのマシンを使ってこれなので、普段使いなら小さくても32程度までに留めておいた方が無難でしょう。

*1:元ネタは「StarNet」というソフトで、これをC++に移植してコンパイルしたものです。StarNetは、オリジナルの画像セットによる学習強化やGPUのサポートなどもあり、Pythonなどの扱いに慣れていればこちらの方が何かと融通が利きそうな気はします。

*2:AVX命令セットが実装されたのは2011年のSandyBridge(Intel)またはBulldozer(AMD)以降なので、最近のPCなら大体大丈夫なはずです。

*3:モノクロ画像の場合、rgb_starnetをmono_starnetに読み替えます。

*4:同内容が記述されたバッチファイルも同梱されています。

*5:STRIDEの逆数とかかった秒数をプロットすると、きれいに2次曲線上に乗ります。

Sky-Watcherの新製品

Twitterの方ではすでに取り上げましたが、先月末、2020年のSky-Watcherのカタログ画像が海外の掲示板でリークされていました。

stargazerslounge.com


新製品として注目されていたのは以下の4つです。

  • STRAQUEST & AZ-EQ AVANT用モータードライブ
  • Evostar 72ED用回転装置
  • CQ350 PRO赤道儀
  • Synscan Starwand


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まず最初のは、SKy-Watcherが海外で販売している初心者用赤道儀STARQUEST/AZ-EQ AVANT用の外付けモータードライブです。そもそもの赤道儀の価格帯が価格帯*1なので、機能としては必要最低限だと思いますが、それでも追尾できるのとできないのとでは大違い。赤道儀自体の国内販売がないので、この製品も国内販売はないはずですが、こうしたエントリーレベルの製品にも手を抜かないあたり、好感が持てます。


絵を見ると、黒い可動式液晶っぽいのが見えますが……ひょっとしてステータス画面くらい出たりするのでしょうか……?*2


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2つ目はフォトビジュアル望遠鏡Evostar 72EDの接眼部とレデューサーとの間に取り付ける回転装置。構図の回転自体は、回転装置がなくても鏡筒自体を回転させれば済む話ですが、手元で精度良く回転できるなら便利なのは確か。こちらは鏡筒やレデューサーの国内販売があったはずなので、おそらく国内でも登場することになるのではないでしょうか?


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そして今回のリークの目玉がこれ。CQ350 PRO赤道儀です。


一目瞭然、iOptronのCEM60パクったバリバリに意識したセンターバランス型赤道儀*3です。このタイプは構造上子午線越えがほぼ不可能ですが、一方で強度は出しやすく、CQ350 PROも搭載可能重量は35kgに達します。CEM60の搭載可能重量が27.2kgですから、カタログスペック上では上回ります。*4


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外観を見る限り、鏡筒を載せるサドルプレートは、おそらくロスマンディー規格、ビクセン規格の両対応でしょう。駆動はベルトドライブとのこと。


外部端子はSynScanコントローラ接続端子にオートガイダー接続端子、USB-B 3.0×1、USB-B 2.0×1、USB 3.0×4などが揃っていて、かなり充実しています。後発の強みで、CEM60と比較するとUSBが高速化されているので、太い上に短くて扱いが厄介なUSB3.0の配線をすっきり整理することができそうです。なお、AUX端子が3対ありますが、これらはどのように使用するのか現時点では不明です。互いに繋いで内部通信に使うのでしょうか……?


積載能力的にはEQ8 GOTO(50kg)とEQ6R(20kg)との間に位置しているので、価格としては両者の中間よりややEQ8寄り、税抜35~40万円前後と見ますがどうでしょうか?CEM60が税抜32万円程度なので、そこそこ対抗できそうな気がします。もっとも、もし万が一これで高精度エンコーダが付いててフィードバック制御をやったりするようだと、CEM60-EC(税抜約50万円)相当ということになり、iOptronの立つ瀬はすっかりなくなってしまうのですが……。*5


見た目の感じでは工作精度も高そうで、実際の性能がどの程度のものか楽しみです。現在は開発中のようなので、仕様変更はまだありそうですが、来年のCP+あたりに出展されると大きな話題になりそうです。


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最後のSynscan Starwandはちょっとユニークなデバイスで、空を指し示すレーザーポインターと望遠鏡の無線コントローラを合体させたようなデバイスです。ポインターで空の1点を示すと、Starwandに接続された望遠鏡がその点に向かって動くというもの。やってること自体はGPSと方位センサー、ジャイロセンサーがあればできることですが、柔軟かつ斬新な発想が実に素晴らしいです。


複数台を制御可能ということなので、観望会などでの教育目的が主でしょうか。場がかなり盛り上がりそうです(^^)


ちなみに、このデバイスについてはハンガリーのBudapest Telescope Centreで取り扱いがあるのを見つけました。

tavcso.hu


価格は27%の付加価値税込みで120.63ユーロとのことなので、税抜だと約88ユーロ、日本円でおおよそ11000円くらいでしょうか。意外と安価です。まぁ、中身を考えれば汎用品ばかりですし、当然の値付けかもしれません。


とはいえ、日本へ出荷可能かどうかは別の話。レーザーの出力が1mWあるので、この時点で既に消費生活用製品安全法の規制に引っかかり、国内への輸入販売は不可能です。よしんば仕様を変更してレーザー出力を弱めたとしても、別途第三者機関による審査が必要になるので、おそらく日本国内での展開は残念ながら不可能でしょう。

*1:口径102mmのマクストフカセグレンにハーフピラーと三脚をつけて275ポンド(約38000円)とかです。

*2:想定される価格帯を考えると、さすがにそれは厳しそうな気がしますが。電池ボックスのフタでした、というオチが一番ありそう。

*3:構造からすると「ポータブル型イギリス式赤道儀」といった方が良いかも。

*4:海外製の赤道儀は総じて搭載可能重量を「盛っている」ので、実用に耐えるかどうかは別問題。

*5:いくらなんでもさすがにないだろうとは思いますが。

Huawei MediaPad M5 lite簡易レビュー

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この週末、先日発表されたばかりのHuawei MediaPad M5 liteを購入してみました。これまで使用していたASUS MeMO Pad 8(ME581C)からの買い替えという位置づけです。


AZ-GTiの件があるのでその影響かと思われるかもしれませんが、買い替えの理由として一番大きいのは、単純にMeMO Pad 8自体が古くなってきたこと。OSはAndroid 4.4.2なので、Google Playにて公開されているアプリの大半は動作するはずなのですが、最近のアプリでは不審な動作が見られることがしばしばです。


また、Sky & Telescope電子版の購読に用いているZinioアプリでも、バージョンによっては起動しないといったトラブルが発生しており、さらには動作自体が重いというパフォーマンス上の問題がありました。


一方で、買い替えにあまり金額をかけるつもりもなかったので、持ち運び容易な8インチクラスで比較的安価なMediaPad M5 liteを選択した次第です。


Huaweiアメリカ企業との間で部品等の取引が禁止されるなど米中貿易摩擦の渦中にあり、まさにGoogleHuaweiとの取引停止を発表したばかり。選択に不安がまったくないと言えばウソになりますが、一方でGoogleからは「既存製品については影響ない」とのコメントも出ており、おそらくは大丈夫なのじゃないかと思います。*1


将来的には、最悪Google Playの利用が停止される危険性もなくはないのですが……まぁ、その時はその時ですヾ(@°▽°@)ノ


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さて、MeMO Pad 8との比較ですが、画面サイズはほぼ同じで、解像度も同様です。一方で、本体の上下方向の大きさは小さくなっています。


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充電端子はMicroUSB。上位のMediaPad M5がUSB-Cであるのに対して明確に差があるところです。このあたりはコスト重視ということで割り切るべきところでしょう。


Mediapad M5 liteのOSは最新のAndroid 9.0。従来と作法が異なる点もいくつかありますが、すぐに慣れるレベルです。動作は総じて軽快で、MeMO Pad 8で重く感じたZinioも快適に操作できます。


画面の分割表示も可能なので、にゃあさんがやられているような、SynScanとSkySafariの同時起動というのも現実的です。

tentaip.space


ただし、メディア等ではあまり取り上げられないでしょうけど罠が1つだけ。


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上の写真はMeMO Pad 8およびMediaPad M5 liteの内蔵センサーの有無を調べたものですが、MediaPad M5 liteには各種センサーがほぼ搭載されていないことが分かります。かろうじてあるのは、本体の縦横を検出する機能*2GPSくらい。コスト重視の結果とは思いますが、ジャイロセンサーや方位センサーすらないため、使い方はどうしても制限されます。


私のように、電子書籍を読んだり、外部機器のコントローラーとして使うだけの用途ならあまり問題はありませんが、タブレットの向きと星図とを同調させたり、VR系のコンテンツを楽しんだりはできないので、その点は注意が必要です。


また、上記の通り縦横の検出はとりあえずできるようですが、一部の電子書籍アプリでは、ホーム画面やライブラリ画面が強制的に縦向き表示になってしまいます。書籍の表示自体は縦横の検出にちゃんと追従するので、見開きの表示などに大きな問題はありませんが、やや煩わしいのは確かです。


ともあれ、8インチクラスのアンドロイドタブレットは現在の市場に製品がほとんどないため、手頃な価格で入手できるこの機種が貴重なのは確か。将来的な若干のリスクはありますが、それさえ気にしなければ or 割り切れれば、必ずしも悪い選択肢ではないと思います。

*1:OSのアップデートが見込めなかったとしても、その点はME581C等でも同様。そもそも、既存製品のアップデートを禁止してしまうと世界中の端末でセキュリティホールが顕在化することになってしまうので、おそらくそうした選択は取らないだろうと思います。まぁ、感情的なトランプ政権のことなので、どうなるか不透明なのは確かですが。

*2:一般的な加速度センサーやジャイロセンサーとして検出されないあたり、Huawei独自のなにか特別な仕掛けを使っているのではないかと思います。後述の電子書籍アプリの挙動を見ても、普通のセンサーとは違うようです。