PHD2の日本語マニュアルを公開しています。こちらからどうぞ。

個人サイト「Starry Urban Sky」もよろしく。

(遅ればせながら)AZ-GTi簡易レビュー

先日、撮影の合間に一般の人に望遠鏡を覗かせたのをきっかけに、改めて自動導入経緯台の必要性が痛感されるようになってきました。普段、自分が使うだけならK型経緯台でも大きな問題はないのですが、他人に見せるとなると自動で追尾してくれた方がなにかと楽です。


で、ちょうど週末になったこの日、ちょっと専門店を見て回ろうかなと思ってたのですが、ふと気づいた次の瞬間……

f:id:hp2:20190513012118j:plain
f:id:hp2:20190513012130p:plain

……って、最近この展開ばかりですね(^^;


猿芝居は\(・_\)この辺で (/_・)/置いといて まずは開封の儀です。購入したのはSkyWatcherのAZ-GTiマウント+三脚のセット品。運良く(悪く?)シュミットの店頭在庫があったので、K型経緯台との同時展開も考えての購入です。


f:id:hp2:20190513012316j:plain

外箱を開けると中には5つの段ボールが見えます。このうち2つはスペーサー代わりの空き箱で、残り3つに内容物が入っています。また、代理店による日本語説明書も最上部に。この日本語説明書は、基本的にはSkyWatcherの英語説明書の和訳ですが、英語説明書にはないSynScanアプリについての簡単な説明があるなど、よりとっつきやすくなっているように感じます。

とはいえ、内容は必要最小限で、もし初めて望遠鏡を購入するという人がこれだけを見て、ちゃんと望遠鏡を扱えるようになるかというと、若干無理がありそうな気はします。


f:id:hp2:20190513012336j:plain

さて、1つ目の小箱にはAZ-GTiマウントの架台本体に、英語説明書およびキヤノンの一部カメラに対応したコントロールケーブルが同梱されています。カメラコントロールケーブルは別売のSynScanハンドコントローラと接続して使うもので、本セットだけでは使えません。底面にある三脚等との接続ネジは3/8インチネジ……いわゆるカメラ用三脚の「太ネジ」です。


f:id:hp2:20190513012358j:plain

鏡筒の固定はビクセン互換のアリガタ・アリミゾ方式です。ただ、同社のアリミゾにしばしば見られるのですが、固定ネジの反対側がただの「面」になっています。


f:id:hp2:20190513012407j:plain

本来のアリミゾは、上の写真のように固定ネジの反対側が切り欠きになっており、固定ネジ&反対面のアリミゾ両端の「3点支持」(上写真ピンクの三角形)でアリガタをしっかり固定します。ところが、AZ-GTiのこの構造だと、固定ネジと反対側の面との「2点支持」になってしまうのです。たいして重量のあるものを載せるわけではないはずなので大丈夫だとは思いますが、一応、注意が必要です。


f:id:hp2:20190513012431j:plain

インターフェイス部分にはハンドコントローラポート、電源ポート、カメラコントロールポート、本体の電源スイッチが並んでいます。自分は今のところハンドコントローラを使う予定はないので、用があるのは電源ポートとスイッチだけになります。なお、電源は外部からのDC12V以外に、本体に単3電池8本をセットすることでも使用が可能です。後者の場合、電池の持ちが実際にどの程度かは分かりませんが、おそらく数時間程度で切れるのではないかと思います。1~2晩で電池がなくなると考えると、せめてeneloopのような充電可能な電池を使いたいところです。情報によれば電池は意外と持つようなので、ここは保留で。

f:id:hp2:20190513012508j:plain

2つ目の箱にはエクステンションピラー。三脚と架台の間にこれを挟むことで、鏡筒と三脚とが衝突することを防ぎます。この構造なら天頂付近も死角になりません。


f:id:hp2:20190513012520j:plain

上面のネジが突き出していないので、どうやってマウントと接続するのかと思いましたが、側面3か所のネジを緩めると架頭だけが取り外せる構造になっていて、これを取り外してマウントに取り付けてから、ピラーに戻せばOKという仕組みでした。


f:id:hp2:20190513012736j:plain

最後に三脚。重量は1.8kgと軽いですが、脚は金属製で意外としっかりした印象です。ステーに付属のプラスチック製トレーを取り付けると、脚の位置関係が固定されてより丈夫になります。


f:id:hp2:20190513012912j:plain

トレーは、ステー中央の突起とトレーの切込みを合わせたうえで、60度回転させてステー側の爪にかみ合わせて固定します。ただ、新品だからなのかこの固定がかなり固く、付け外しはかなり大変です。それなりの力がかかりますし、ここだけは耐久性的にちょっと不安です。


f:id:hp2:20190513012932j:plain

組み上げてみるとこんな感じ。全体としてもなかなかしっかりしています。3万円台でこれなのですから、本当に恐れ入ります。


f:id:hp2:20190513012948j:plain

試しにミニボーグ60EDを載せてみたところ。システム全体に対して鏡筒が小さすぎるように感じられるくらいで、安定感は十二分です。システム高さは三脚の脚を縮めた状態で約100cm、伸ばした状態で約150cmほど。これだけ高さがあれば、天頂付近もあまり無理なく覗けます。

最大搭載可能重量は公称5kgとのことなので、口径125mm(5インチ)くらいのカセグレン系までなら無理なく載せられるでしょう。*1


f:id:hp2:20190513013006j:plain

その夜、薄雲の中でしたがさっそく月を観望。タブレットにSynScanアプリを入れて操作してみましたが、アライメントや追尾の精度も高く、非常に満足のいく結果でした。システム全体が軽量*2なこともあり、望遠鏡の稼働率が大きく上がりそうな気がします。


ただし、ちょっと気になったのがSynScanアプリの挙動。やや不安定なきらいがあり、GPSで現在位置を取得できなかったり*3、反応に妙なラグがあったり、途中でフリーズっぽくなったり……。


f:id:hp2:20190513014556j:plain

思い返してみると、Googleストアから同アプリをダウンロードする際、「このアプリはお使いのデバイス用に最適化されません」という表示が出ていました。使っているタブレットASUSのMeMO Pad 8(ME581C)。OSはAndroid 4.4.2で、それなりに古いものです。一応、SynScanやSynScan Proの動作要件は「Android 4.0以上」ということになっていますが、スマホHuawei P20 lite, Android 8.0.0)の方では特に問題なさそうだったのも考えあわせると、どうもこのあたりに原因がありそうな気はします。*4


うぅむ、気を付けないと、新しいタブレットだの追加の筒だのが増えそうな…( ̄▽ ̄;ゞ

*1:ただし、かなりトップヘビーになるので、できれば三脚等の強化はしておいた方がいいでしょう。

*2:マウント+エクステンションピラー+三脚で3.9kg

*3:なので手動で緯度・経度を入力したのですが、経度のデフォルトが「西経」になっていたため、当初、アライメント時に鏡筒が明後日の方向を向いて焦りました。

*4:あるいはMeMO PadのCPUがARM系ではなくIntelAtom Z3560であることも関係してたりとか……いや、仕組的にこれはないか。

祝・星ナビ掲載!

なんと嬉しいことに!


ついに今月号の星ナビに!!

f:id:hp2:20190507233242j:plain


掲載されました!!!

f:id:hp2:20190507233327j:plain


……って、写真入選とかじゃないのですけど(^^;


以前書いた、光害カットフィルターに関しての記事についてですね。

hpn.hatenablog.com
hpn.hatenablog.com


言及されていたのは、「都会の空で星雲を撮る」という、根本泰人氏の記事の中でのこと。根本さん、本当にありがとうございます。


根本さんといえば、皆さんご存知のように、光害の中でDSOを捉えるスペシャリストの1人。末席とはいえ同じ方向性を目指す者として、勝手にシンパシーを抱いていました(^^; 根本さんも記事中で書かれていますが、光害の激しい街なかでも、被写体&撮り方によっては暗い遠征地にも引けを取らないような写真を撮ることは可能。諸般の事情で「遠征なんてできない!」という方も、諦めずに取り組んでもらえればと思います。


ちなみにですが……

f:id:hp2:20190507233448j:plain

天文雑誌に掲載されるのは約30年以上ぶり。前回は天ガの「読者サロン」に投書が載ったものです*1*2。当時はたしか高1でしたが、S&T誌からの翻訳記事について、翻訳の質のあまりの低さに苦言を呈した内容でした*3厨二病全開のイキったクソガキが結構ボロクソに書いたので、あれはあれで、よくもまぁ編集部も掲載したと思ったもんです(^^;

*1:やっぱり写真じゃない(笑)

*2:見返してみたら本名のみならず、なんと投稿者の住所まで掲載されてました。当時のこと、おそらく文通の橋渡し的なものを期待してたんでしょうけど……おおらかな時代だ。

*3:光軸調整についての記事でしたが、中学生の方がなんぼかマシというレベルのガチガチの直訳体でそれはもう酷いもの。ちなみに同特集の第2回目はきれいな訳文になってたので、一応投書の甲斐はあったようです(^^;

都心のアンタレスチャレンジ(撃沈編)

土曜の日中、一部で激しい雷雨に見舞われた東京ですが、夜は予報通り快晴となったので、前回の検討結果を受けてアンタレス付近を狙いに出撃してきました。


f:id:hp2:20190506192702j:plain

この夜、アンタレスが高度25度以上に上るのは日付が変わった0時ごろなので、そのころからシャッターを切り始めます。ちなみにSXP赤道儀の場合、子午線を挟んで20度以内であれば姿勢の切り替え(Telescope-WestからTelescope-Eastへ)を行わずに追尾を続けられますが、0時ごろのアンタレスの方位はちょうど真南から20度ほど東。反転動作を挟まずに追尾し続けられるという意味でも好都合です。


露出は前回同様ISO100, 7分とし、天文薄明開始直前まで撮影を続けました。結果、得られたコマ数は24コマ。これらをコンポジットすれば、多少はマシな像が得られるでしょう。


トラブル発生


帰宅後、今回はきっちりフラット画像を撮影・作成したのち、処理に入ったのですが……

f:id:hp2:20190506192736j:plain

フラット補正&コンポジット後の画像を強調してみると、光条のような妙な明度ムラが。等光線図を見ても、画像左側から上側にかけて変な脈理があります(ピンクで囲った部分)。どう見ても星雲由来のソレではありません。


まず疑いたくなるのは、ダークフレームやフラットフレームに異常があるのではないかという点。そこでまずはダークフレームを確認してみますが……

f:id:hp2:20190506192758j:plain

現像して明暗を強調してみても、特に異常らしい異常は見られません*1


f:id:hp2:20190506192832j:plain

同様にフラットも異常なし。


となると、実際の撮影時に何かトラブルがあった可能性が高いです。そこで、次に撮影した各フレームをフラット補正後、強調してチェックしてみます。


もし光条の明るさや位置が星に対して不変なら、例えばファインダーや鏡筒・カメラ接続部等からの迷光が疑われますし*2、時間とともに変化するなら、現場の環境に原因があると考えられます。


まずは撮影を開始した0時過ぎのフレーム。

f:id:hp2:20190506192850j:plain

左下から右上に向かって、すでにうっすらと光条が見えてきています。


次いで1時間後の1時過ぎ。

f:id:hp2:20190506192901j:plain

等光線図を見るまでもなく、かなり強烈に光条が走っているのが分かります。0時過ぎのものに比べると、画面上での光条の角度がやや寝てきたでしょうか?


そして2時過ぎ。

f:id:hp2:20190506192913j:plain

光条がさらにはっきりするとともに、角度もさらに寝てきました。また、左上隅にも新たな光条が見えてきています。


f:id:hp2:20190506192925j:plain

一方、最後のコマを撮影した3時ごろには、一見光条がなくなっているように見えます。しかし、これはおそらく光条が寝て、地上からのカブリの方向とほぼ一致してしまったためで、その証拠に画像上辺が不自然に明るくなっています。また、等光線図を見ると明らかですが、上側1/3位の位置が鞍状に明るくなっているのも光条のせいでしょう。


このように、日周運動とともに光条の位置が変化していることから、原因は現場の環境にあると断定してしまってよさそうです。


犯人は誰だ?


f:id:hp2:20190506192947j:plain

光条の方向からして真っ先に疑わしいのは、上の写真の矢印のところにあるLED照明です。撮影場所からは南南東の方角にあたります。写真だと手前の構造物に隠れてしまっていますが、地上を照らす3つのLED照明が柱上に固定されていて光量は大変強烈です。ここから上空に漏れた光が写り込んでしまったという可能性はありそうです。


f:id:hp2:20190506193519j:plain

ところが、さそり座の日周運動と光条の向きを比べてみると、単純にそうとも言い切れません。上の図は、上記で検討に使った各フレームをさそり座の日周運動に重ねてみたものですが、光条の出どころは1点に収束しません(光条の方向に黄緑で補助線を入れてあります)。


もし地上からの光が直接空に投射され、これが写り込んでいるのなら、光条は地上の光源を中心に放射状に広がるはずですが、そうはなっていないのです。しかも、距離を考えれば光源から離れる(西に行く)ほど光条は弱くなっていくはずですが、全くそうはなっていません。


しかし一方で、この補助線(=光条の方向)の形、何かに似ていないでしょうか?……そう、楕円の接線です。


f:id:hp2:20190506193055j:plain

試しに、南南西よりの位置に中心をおいた楕円を描いてみると、かなりきっちりと光条の方向に接するものが描けます。実はこの「中心」に近い位置にあるのが……


f:id:hp2:20190504224306j:plain

この正面に写っているLED照明です。写真を見ても分かるとおり、一応地面への指向性はあるのですが、側面への光の漏れも大きく、撮影場所をかなり明るく照らしています。


おそらくはこの光が鏡筒のフードに反射し、迷光として写り込んだのではないかと考えています。普段の撮影では案外気にならないのですが、今回は被写体が南の低空であるためにLEDからの光を拾いうる角度になってしまったこと、また、淡い天体のために強い強調処理が必要であることが、問題を表面化させたのでしょう。


今後の対策は?


正直、普段から「うっとうしい照明だなぁ」とは思っていましたが、実害が出るともなれば捨て置けません。なんらかの対策が必要です。


まず思いつくのは、いわゆる「ハレ切り」と呼ばれる手法です。何らかの遮光板を強い光が来る方向に設置して迷光を抑えるもので、一般にゴーストやフレアの発生を抑えるのに使われます。


遮光板は専用品も売られているようですが、光を遮ることさえできればいいので自作で十分でしょう。ただ、フードのようにレンズすぐそばに装着するタイプにすると、写り込みの危険や、フラット補正時のトラブルのもとにもなりかねないので、ちょっと離して設置できるようにするといいかもしれません。


次は撮影場所の小変更。この公園にはLED照明が何本か立っていますが、本記事冒頭の写真を見ても分かるとおり、南側の芝生の方に出れば、照明を南方に臨まずに済む位置があります。ただ、この場合は足元が柔いので、機材が沈み込まないようにちゃんとした対策が必要ですし、椅子や机も含め、芝生を傷つけないように配慮しなければなりません。台車をそばに置いておきづらいのもマイナス点です。


そして根本的な対策としては、撮影場所の大変更。近くに強い照明がないところを探すわけですが……比較的近所で候補になりそうなところというと、あとはそれこそ多摩川河川敷くらいしか思いつきません。水蒸気が多くて純粋に撮影環境としてあまりよくないですし、なにより治安が……(-_-;


あと、ここは区立公園なので、裏ワザとして区にねじ込んで照明を撤去……というのもチラッと考えたのですが、難しいでしょうかねぇ……?

*1:今回の件とは関係ないですが、周辺回路依存なのか、画像周縁部で明度がわずかに持ち上がっているのが面白いです。ディザリングでノイズが消えるから、とダーク引くのをさぼっていると、こういうところで足をすくわれるかもしれません。

*2:カメラを含めた光学系は赤道儀に載って星の動きを追尾していますから、光条が光学系側に起因するなら、基本的に星との相対位置は変化しないはずです