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都心のアンタレスチャレンジ(のテスト)

このGWは新月期に当たっているというのに、前半は雨ばかりでやきもきさせましたが、Windyの予報を見る限り、どうやら土曜の夜は快晴になりそう。


そこでその予行演習に、木曜の夜にいつもの公園に出撃してきました。

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狙いはさそり座アンタレス周辺の領域です。本来は散光星雲や反射星雲、暗黒星雲が入り乱れて大変美しい場所ですが、なにしろ低空で光害の影響がひどく、真冬のような大気の透明度も望みにくいので、都心からだと常軌を逸した大変な高難度が予想されます。夜明けが早くなってきていて、十分な撮影時間を確保しづらいのも困難に拍車をかけます。


ともあれ、どの程度の露出時間を確保できるのか確認の意味で撮影を始めますが、案の定、ちょっとの露出で画像が真っ白になってしまいます。撮影を始めた0時前後だと、 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(F3.6)、光害カットフィルターのLPS-P2使用でISO100, 5分が限度でした。この時のアンタレスの高度は23~24度程度。光害の影響が激しいのも当たり前です。


ただ、時間がたって高度が上がってくると光害の影響も幾分和らぎ、高度26度を超えた0時半ごろには7分まで露出を延ばすことができました。


しかし、この頃から薄雲が全天に広がってきて撮影は事実上不可能に。惰性でシャッターだけは切り続けていましたが、これ以降はまともな画像は得られませんでした。2時ごろには見切りをつけて引き上げました。



帰宅後、得られた画像を確認しましたが、比較的まともな写りだったのは5分露出×6と7分露出×3のみ。元々、写るかどうかの確認だけのつもりだったので、とりあえず5分露出のものを雑にフラット補正して*1、コンポジット&簡単な強調をしてみたところ……


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カラーバランスなどはほぼ合わせていませんし、フラットもやっつけなのでズレまくり。しかもたったの6枚コンポジットなのでグズグズですが、5分露出でもとりあえず写るだけは写っているようです。アンタレス周辺の黄色い反射星雲や、σ星、τ星周辺の赤い散光星雲、アンタレスの北にある暗黒星雲の片鱗などがかろうじて確認できます。ここからすると、全くのノーチャンスというわけではなさそうです。


とはいえ、5分の露出では厳しいのは確かで、1コマ当たりせめて7~10分は露出が欲しい感じです。


撮影チャンスはいつ?


上で書いたとおり、光害の影響はアンタレスの高度が上がるとともに減っていったわけですが、その様子を図示すると下のようになります。

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上が5分露出の各画像、下がそれぞれのヒストグラムで、撮影時刻とその時のアンタレスの高度が記入してあります。


これを見ると、高度が上がるとともに明らかに背景の明るさが落ちているのが分かります。しかし一方で、高度が25度を超えたあたりで背景の落ち方が下げ止まっているのも見て取れます。


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この傾向はその後に撮った7分露出のコマを比べた場合も同様で、コマ間の背景レベルの変化はほとんどありません。



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もっとも、南中が近づくにつれて高度の変化が穏やかになることを思えばこれも当然です。上はアンタレスの高度変化*2を図示したものですが、方位角330度から340度あまりまで約1時間で動く間に、高度は20度から25度まで5度も変化していますが、25度を超えて以降は南中を挟んで高度変化は3度程度にとどまっています。


今回の試し撮りの結果を見る限り、狙いどころは高度25度以上、南中を挟んだ2時間半あまりが勝負といえそうです。

一般向け観望機材

ところで今回、珍しく撮影の最中に飲み会帰りと思しき男女3人組が声をかけてきました。せっかくの機会でしたので、観望用に持ち込んでいたミニボーグ60ED+K型経緯台木星土星を見せたのですが、大変驚き、また喜んでくれました。特に木星の4大衛星と土星の環はものすごい好評。一般の人には、やっぱり分かりやすさが大事と再認識しました。


こういう機会があると、電視観望の機材や自動導入経緯台にも大変魅力を感じます。手動の経緯台も、地球の自転を実感できるという意味で捨てたものではないのですが、逆に言えば追尾の手間はかかりますし、都心でDSO相手だとほぼお手上げです。


うぅむ、わざと見ないようにしてたけど、やっぱりAZ-GTi買うか……?

*1:過去のフラットフレームの使いまわし

*2:大気差補正済み

SG-3500のバッテリー交換

現在、赤道儀の動力用電源としては大自工業のSG-3500LEDを使用しています。DC12V, 20Ahと十分な容量がある上に安価なので、使っている方も多いかと思います。


ところが先日、充電完了後に容量チェックをしてみると……

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フル充電になっていません。表示の意味としては「使用可能ですが充電をお勧めします」というレベルで、明らかに充電容量が減っているようです


考えてみると、このSG-3500LED、2013年にSXP赤道儀を導入した直後に買ったもので、かれこれ5~6年たっています。鉛シールドバッテリーの寿命を考えれば、へたっていても全くおかしくありません。


そこで次のバッテリーをどうするかなのですが……AnkerのPowerHouseやsuaokiのG500、SmartTapPowerArQといった大容量リチウムイオンバッテリーも考えたものの、やはり価格面で尻込みせざるをえず、結局、単純にSG-3500LEDの内部バッテリーを交換することにしました。


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交換作業は簡単で、本体4カ所のタッピングビス(赤矢印)を外すだけで蓋が外れ、バッテリーがむき出しになります。


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内蔵されていたのはSEALAKEのFM12200でした。端子はケーブルとねじ止めされているので、これを外すとバッテリーが取り出せます。


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交換用に買ったのは、Kung LongのWP20-12IEで、秋月電子で5500円でした。スペックとしてはDC12V, 20Ahと、SG-3500LED内蔵のものと同等です。


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ネットに多数上がっているSG-3500LEDのバッテリー交換事例を見ると、長寿命タイプのWP20-12IEではなくWP20-12を用いている例が多いのですが、スペックシートを見る限り、うたい文句通りWP20-12IEの方が再生回数などで有利なこともあり、WP20-12IEを用いました。


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FM12200とWP20-12IEとの比較。端子の位置もほぼ同様です。WP20-12だと端子はもう少し外側にあり、ケーブル結線時にやや苦しむこともあるようですが、WP20-12IEならその心配はありません。


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ケーブルを接続して本体に収めなおせば作業完了です。


充電後、容量チェックをしてみると、

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インジケーターがきちんと全部点灯しました。これでまだ数年、戦えそうです。

ステラナビゲータ11 簡易レビュー

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以前、アップデートの案内が来ていたので注文していた「ステラナビゲータ11」(SN11)が本日、到着しました。


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中身はディスクの入ったパッケージと100ページほどのマニュアル。マニュアルはサイズ的にも厚さ的にもディスクケースの中には納まりません。こうなってくると、マニュアルも本格的に電子化すべきじゃないかという気もしますが、紙のマニュアルは一覧性に優れているので、このまま続けてほしい気もします。


インストール作業自体は特に問題なく。旧バージョンとの共存も可能です*1。なお、早々に11.0aへのアップデータが出ているので、更新しておきましょう。


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ちなみに、ソフトのアイコンは旧バージョンからデザインが大きく変化。これまでは何らかの形で天体がモチーフになっていたような気がしますが、SN11では昨今のフラットデザインの流行を受けてか、地球(天球)と地軸をモチーフにしたと思われる平面的なものに変わっています。


ただ、赤っぽい色合いに加えて、地軸を示すと思われる斜線が打ち消し線っぽく見えてしまい、どうにもゴーストバスターズ的なアレを連想してしまいます(^^; 実害はほとんどないと思いますが、慣れるまではステラナビゲータを連想しづらいかもしれません。


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起動すると、新機能である「ステラパネルモード」と従来からの「星図モード」の選択画面が現れます*2


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前者は、主な天体現象や見ごろの天体などをパネルで表示してくれるモードで、これらを選ぶとその現象等を星図で表示してくれます。同様の情報は従来も星図のサイドパネルで参照可能でしたが、こちらの方が直感的で分かりやすいです。


右上隅の「×」を押すことで、パネルを閉じて従来の星図モードに移行することができるので、起動時はとりあえず「ステラパネルモード」にしておくと、天文現象の見逃しを防ぐことができるかもしれません。


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今回のアップデートの目玉の1つが「表示の美しさ」ですが、天の川を表示させると一目瞭然。ステラナビゲータ10(SN10)と比べてSN11の方がずっと「それっぽく」見えます。ただし、天の川画像の解像度はそれほどでもないので、ちょっと拡大するとそれなりにアラが出るのが惜しいところ。


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一方で星雲の表示については、周囲との調和という意味で、SN10の方が違和感が少ない印象です。


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さらに言うと、デフォルトの状態で画像が表示される対象はSN10の方が多そうです。SN11ではM16やM17すら表示されません。


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もっともSN11の場合、星図の代わりに全天写真や写真の明暗を反転したものを表示することが可能で、これを使うと写真の構図確認などには圧倒的に有利です。


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SN11のもう1つの目玉は「マルチバンド星図」の表示で、紫外線宇宙望遠鏡GALEXや赤外線天文衛星IRAS、あるいはHα線での全天観測データを星図上にオーバーレイ表示できるようになっています。特にHα線や赤外線の観測データは、淡い散光星雲や超新星残骸の位置、大きさの確認に有用で、こうした天体を撮影する際の参考になります。


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ところが、惜しいのがこの「マルチバンド星図」の位置がどれも星図に対してひどくズレていること。ズレが特に大きいのは、はくちょう座~カシオペヤ座に至る秋の天の川周辺で、最大で7度ほどはズレているようです。


天の位置によってズレの方向、大きさが不均一なので、おそらくはデータをマッピングする際の不具合かと思いますが、今後、何らかの形でアップデートが入るのではないかと思います。


「マルチバンド星図」のヘルプには「全天上の大まかな分布を示しており、座標は厳密なものではありません。」とあるので、もしかするとメーカー的には「仕様」なのかもしれませんが……さすがにこのズレは大きすぎるので、修正されることを信じたいところです。


【追記 2019年3月27日】
上記不具合については修正予定との情報を頂きました。期待して待ちたいと思います。


【追記 2019年4月8日】
上記不具合については、4月5日公開の11.0bアップデータで修正されました。現在は特に問題なく利用できます。


この他はおおむねSN10の機能を踏襲していて、これまでステラナビゲータを使ってきた人にとっては、操作方法などで特に引っかかる点はないでしょう。アップデート価格もそれほど高くないですし、SN10などをお持ちの方は、アップデートして損はないと思います。

*1:旧バージョンがインストールされていると、旧バージョンの表示設定などを引き継ぐことが可能です。

*2:選択画面を出すかどうかは「設定」→「環境設定」で設定できます。