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「次世代DVDフォーマット戦争」の次にくるもの

Blu-ray vs HD DVD」の戦いが事実上終結したことを受けて、このあとにどんなことが起こるかという論争が早速起こっているようです。急進的な意見の1つは、例えばこちらのように、Blu-rayの勝利は一時的なもので、早々にネット配信が主流となると言うもの。つまりCD→iTunesとなったようなことが動画でも起こるだろうという見立てですね。しかしこれは、あまりに楽観的に過ぎる見方かと。理由は大きく3つ、技術的な理由と政治的な理由、そしてユーザー側の理由です。
まず、最初の「技術的な理由」ですが、例えば先ほど例として出した記事では、Blu-rayの等速が36Mbps、BD-ROMの標準転送速度が54Mbpsであることを受けてこのように書かれています。

うちでニコニコ動画見るときって、プレミアのおかげもあるのかも知れないけど、80Mbpsぐらい平気で出ちゃう。少なくともコンテントを大量配布する手段としての物理メディアはもう終了しました、ていうことでOKでは。

もちろん、配信されているコンテンツを少人数が見る場合には問題ないでしょう。ウチだってそのくらいの速度は楽に出ます。しかし問題は、実際には需要が膨大だという点です。例えば、昨年最も売れたDVDは、オリコンのデータによれば「パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド」ですが、記事によれば登場わずか1週目で60万枚近いセールスを記録したとのこと。単純に平均しても1秒に1枚は売れた計算になります。もしBlu-rayで発売されていたとすればデータ量は数十GB、すなわちデータ転送速度的に言えば、数十GB/s=数百Gbpsにもなります。実際には、売れ方はもっと時間的に偏るはずですし、TbpsやPbpsのオーダーに達してもなんら不思議はないでしょう。しかも、他のタイトルも山のようにあるのです。これほどのデータ転送を支えるだけのインフラといったら想像もつきません*1。よしんば、技術的に可能だったとしても、需要のピークに合わせて設備投資したのでは、夏場の電力供給と同じで、通常時の余剰が大きくて効率的とはいいがたいでしょう。こうした余剰が気にならなくなる程度にまでインフラが整ってこないと、高画質配信は成り立たないだろうと思います*2
2つ目の「政治的な理由」は、いわずもがな著作権周りの問題です。少なくとも日本では、著作権を盾にネット上のコンテンツ流通が阻害される傾向にあるのは皆の認識が一致するところだろうと思います。日本の場合、放送業務を担うTV局がコンテンツ製作者とイコールであることが多いため、コンテンツ流通の比重はどうしても放送に偏りがち。しかも、権利者たちのネット不信は総じて根強いものがありますから、この流れがそう短い期間で逆転するとはなかなか考えにくいところがあります。ましてや、著作権法の改正などでネットでのコンテンツ流通に規制がかかった場合、一度できてしまった法律というのはそう簡単には改正されませんから、ネットでの配信はさらに遠のくことになりかねません*3
そして3つ目は「ユーザー側の理由」。たしかに配信は便利でしょうけれど、やはり物理的な「モノ」として所有したい、という感覚はなかなか抜けにくいだろうと思います。たとえば音楽。「CDから配信へと時代は変わった」などと言われがちですが、日本レコード協会によれば、実態は、2007年のCDの売り上げが3000億円を超えるのに対し、音楽配信はビデオだの、好調な着うたなどを含めてもまだ550億円にしかなりません。さらにいえば、特に都心部の場合、近所にTSUTAYAなどのレンタルショップが数多くありますから、ネット配信での決済の面倒さなども含めて考えれば、物理的メディアを使ったとしても利便性は大差ないかと思います。
というわけで、ネット配信が普及するにはまだまだ相当な時間がかかるかと思います。個人的な感覚から言えば10年やそこいらは軽くかかるんじゃないでしょうか?

*1:BitTorrentのようにトラフィックをうまく分散させられれば多少マシにはなるでしょうけど。

*2:AV Watchのこちらの記事でも似たような点が指摘されていますね。

*3:ガイアツでなんとかならないかなぁ…(^^;