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三度目の正直

先日も書きましたが、3月、4月の新月期は晴れていても雲が多かったり、薄雲が出ていたり、快晴でも猛烈な強風だったり、そもそも花粉の猛威が凄まじかったりで、この3ヶ月近く、まともな天体撮影はほとんどできませんでした。


その埋め合わせというわけでもないのでしょうけど、今月の新月期は晴天が連続。特に15~18日は快晴の予報で、おそらく梅雨前最後のチャンス。否が応でも期待が膨らみます。


そこでまずは15日、いつもの公園に出撃。


が、この日は「晴れ」とはいっても想像以上に雲が多く、なかなかまともな撮影になりません。さらに、一見「晴れている風」であっても、薄雲が覆っていたりで、撮れた画像のムラがひどい……。


挙句、2時近くには全天が雲に覆われ、あえなくゲームオーバー。翌日は父親が飲み会の予定を入れてしまい、出撃できないのでなんとかしたかったのですが……。


しかし運良く、翌々日の17日夜も快晴の予報。次の日は平日ですが、今の季節は天文薄明開始の時刻も早いので、体力的にはなんとかなるでしょう……というわけで再度の出撃。


宵のうちは、鏡筒をおとめ座銀河団中心部、通称「マルカリアンチェーン」へ。春は長焦点鏡が必須な系外銀河の季節なので、短焦点鏡だとこれくらいしか撮るものがありません(苦笑)


やがて夜が更けると、さそり座が昇ってきます。ここでターゲットを変更し、以前から狙っていたアンタレス周辺の星雲……通称「カラフルタウン」に鏡筒を向けます。


この対象は過去に何度かチャレンジしていますが、一度たりともまともに撮れたことがありません。低空で大気の透明度や光害の影響が大きい、撮影可能時間が短い、地上の照明の影響を受けやすい、そもそもクソ淡い……などなど、撮影を妨げる障害には事欠きません。

hpn.hatenablog.com
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しかしラッキーなことに、公園内のLED街灯は故障なのか運用変更なのか、昨年冬から消灯中。あれがないだけでもずいぶんマシなはずです。




……とはいえ、南中時のコマをASIFitsViewで自動レベル調整した結果がこれ。アンタレスがうっすらにじんで反射星雲の存在をささやかに主張していますが、あとはその西側の球状星団M4が目立つくらいで、それ以外はろくすっぽ見えません。


一方のサブ機の方は、さらに高度の低いNGC6334 & NGC6357……通称「出目金星雲」&「彼岸花星雲」を狙います。さそり座の尾の付近にある散光星雲で、北側にあるNGC6357ですら南中時の高度が20度程度という厳しい条件ですが、こちらはデュアルナローバンドフィルターが使えるので状況はだいぶマシでしょう。




同じく「撮って出し」でも、こちらは十分に星雲の存在を確認できます。




しかしこの日は、天気としては間違いなく「快晴」だったものの、水蒸気が多いのか星の見え方が冴えません。肉眼だと1等星は確実に見えるものの、それ以外はハッキリせず、空の状況としてはかなり悪いです。都心の夏場はいつもこんなものと言えばその通りなのですが、LEDの普及のせいか、状況悪化が近年さらに加速しているような気がします。


やがて、3時前に天文薄明が始まって、ここで撮影終了です。ちゃんと撮れているといいのですが……。


リザルト


翌日から、撮ったものを順番に処理していきます。まずは暇つぶしで撮った「マルカリアンチェーン」から。




「撮って出し」の状態では、正直、なにがなにやらですが……処理してみるとご覧の通り。





2026年5月17日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D55mm, f200mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, 0℃, Gain100, 180秒×16, IDAS LPS-D1フィルター使用
32mm F4ガイドスコープ+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsightほかで画像処理

写りとしては平凡ですが、片手間の撮影としては、まぁ。


中央の弧を描いている銀河列が、いわゆる「マルカリアンチェーン」で、これらの銀河が共通の固有運動をしていることを指摘したアルメニアの宇宙物理学者ベニヤミン・エギシェビッチ・マルカリアンにちなんで名づけられました。


この領域はおとめ座銀河団の中心にあたり、その上、天の川が薄くて遠方まで見通しが効くため、無数の銀河が写りこんでいます。




メシエ天体やNGC天体、IC天体に限ってもこの数。




系外銀河のカタログとして有名なPGC(Principal Galaxies Catalog)に収載されている天体まで含めると、もはや一面銀河だらけです。その1つ1つが私たちの銀河系のような星の集団だと思うと、あまりの壮大さに目が回ります。


次いで、出目金星雲 NGC6334と彼岸花星雲 NGC6357。




2026年5月17日 FMA135(D30mm, f135mm) 赤道儀化AZ-GTiマウント
ZWO ASI533MC Pro, 0℃, Gain300, 180秒×67コマ, Optolong L-Ultimateフィルター使用
ノーブランドCCTVレンズ(f25mm, F1.4)+ASI120MC+PHD2によるオートガイド

右下が出目金星雲 NGC6334、左上が彼岸花星雲 NGC6357です。愛称通りの見事な形。


これらの星雲は星の原材料が豊富で、活発な星形成が行われています。また、両者はフィラメント状の構造で繋がっていて、1つの大きな複合体を作っている可能性があります。


ちなみに海外では、NGC6334は「Cat's paw nebula」(猫の手星雲)と呼ばれます。「出目金の目玉」に相当する丸い部分を猫の肉球に見立てたもので、なるほどこれはこれでぴったりな命名です。ただ、干潟星雲 M8の東側に広がる淡い散光星雲も、日本では「猫の手星雲」と呼んだりするので、紛らわしい気もします(どちらも夏の天体ですし)。


一方のNGC6357は「Lobster Nebula」と呼ばれますが、こちらはおそらくフィラメント状の構造をロブスターの触角に見立てたもの。ただ、こちらはこちらでオメガ星雲 M17を「Lobster Nebula」と呼ぶこともあるので、やっぱり紛らわしいです。



さぁ、そして今回の主目的、アンタレス周辺の「カラフルタウン」ですが……処理してみるととにかく淡い!おまけに光害も激烈なので、下手なカブリ処理を行うと星雲がゴリゴリ削れます*1。PixInsightのMGC(MultiscaleGradientCorrection)だけではとても歯が立たず、さらにGC(GradientCorrection)のパラメータを慎重に調整しながら追い込んでいった結果……はい、ドンッ!!





2026年5月17日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D55mm, f200mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, 0℃, Gain100, 180秒×78, IDAS LPS-D1フィルター使用
32mm F4ガイドスコープ+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsightほかで画像処理

の「カラフルタウン」完成です!(ぉぃ


色が濁り気味の上、暗黒星雲の描写も相当怪しくて*2、明らかにカブリ取りの副作用が出ていますが……これはもう仕方ないですね。カブリを除去して星雲の描写がおかしくなる、というのはとりもなおさず「星雲のシグナルレベルとカブリのシグナルレベルが大差ない」ということで、まともに描写しようと思えば、少なくともこのさらに数倍以上の露出が必要そうです。


まぁ、肉眼では2等星すら怪しかった東京都心の空でこれだけ撮れたことを喜ぶべきでしょう ヾ(@°▽°@)ノ




天体名を入れたのがこちら。


この領域には「へびつかい座ρ分子雲領域」と呼ばれる濃密な分子雲が広がっていて、これがそれぞれ近傍の星に照らされ、カラフルに輝いています。IC4603(vdB105)はへびつかい座のHD 147889、IC4604(vdB106)はへびつかい座ρ星、IC4605(vdB108)はさそり座22番星の光をそれぞれ反射しているもの。Sh2-9はO型星であるさそり座σ星(アルニヤト)からの高エネルギー放射によって水素が電離し、赤い輝線星雲として輝いています。


ちょっと毛色が違うのはアンタレスの周囲で輝くIC4606で、アンタレスからの光を反射するだけではなく、1階電離の水素原子*3や鉄原子が輝いている珍しいタイプの散光星雲です。

*1:案の定、GraXpertのAIによる全自動処理では、明らかに星雲がごっそり削れておかしなことになりました。やっぱり反射星雲相手にこのツールはダメですね。

*2:暗いところで撮られた写真と比較すると、「暗黒星雲」の分布が一部おかしくて、カブリ取りの処理の過程で犠牲になってしまった可能性が高いです。

*3:ここから出るのがいわゆるHα線