みなさま、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
さて、この年末年始は新月期とちょうど重なってくれたわけですが、それもあって年末、いつもの公園に出撃してきました。難しめの対象については先日の「無理ナント」である程度満足したので、今回は明るい「ばら星雲」周辺の散光星雲を狙うことにします。予定としては、1日目は夜半前から通常の光害カットフィルターで、2日目はまるっとひと晩使ってデュアルナローバンドフィルターでの撮影を行う予定です。
が、初日の27日から予定が狂います。晩飯終了後に急いで出てきたのですが……公園についてみれば空が雲だらけ。しかも撮影したい方向だけ分厚く覆ってくれています。そして、これがなかなか取れません。
結局、雲が取れるまで2時間ほど待ちぼうけを食らい、撮影を開始できたのは日付が変わってから。ターゲットが高度30度を切ってくる*1まで3時間ほどしかありませんが、こればかりは仕方ありません。
中1日あけて翌々日の29日は、夕方からキレイに快晴。Windyでは朝方にかけて多少雲が出るかもという予想でしたが、上述の通り、どのみち3時ごろには撮影を切り上げないといけないので支障はあまりないでしょう。
天文薄明終了直後はターゲットがまだ昇ってこないので、暇つぶしにペルセウス座の二重星団を。都心でもそれなりに見ごたえがあって、好きな天体のひとつです。
そして20時ごろからは、フィルターをL-Ultimateに付け替えて本命の撮影に入ります。
空は引き続き、気持ちのいい快晴*2。さぁ、これで一晩ガッチリ撮ってやるぜ~と思っていたのですが……
2時ごろから西の空に雲がどんどん広がってきて撮影中断。最初は一過性のものかと思っていたのですが、雲が抜けそうになる端から新たな雲が湧いてきて、一向に取れる気配がありません。Windyの予想より展開が早い上に、雲の位置も悪い……orz
ターゲットもどんどん西に傾いていきますし、やむをえず2時40分ごろには諦めて撤収となりました。想像していたより撮影時間は短めですが、まぁ、なんとかなるでしょう。
リザルト
というわけで、年末年始にかけて画像処理。まずは片手間で撮影した二重星団から。
2024年12月29日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D60mm, f200mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
Gain100, 60秒×40, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsightほかで画像処理
西側(写真右側)の散開星団にはNGC869、東側(左側)にはNGC884というカタログ番号が振られています。1603年、ヨハン・バイエルにより西側の星団にh、東側の星団にはχ(カイ)のバイエル符号が振られたため、「h-χ」(エイチ・カイ)という呼び方も有名です。
星団のみを捉えるにはAPS-C+200mmレンズでは少々広すぎですが、天の川の中にあるだけに、背景の無数の微光星と相まってなかなか美しい眺めです。二重星団の東側(左側)には、NGC957という小さな散開星団が見えています。
ちなみに、写真左上端が微妙に赤っぽくなっていますが、これはカシオペヤ座の散光星雲「ハート星雲」Sh2-190の端っこが写りこんでいるもの。もっと短いレンズを使えば、これらを1つのフレームに収めることも可能でしょう。
次いで、本命の「ばら星雲周辺」です。
ばら星雲の周りの散光星雲というと、北側にあるクリスマス星団周辺の領域とセットで撮るのが定番構図ですが……星図を見ると、ばら星雲の南側にも点々と散光星雲が散らばっています。そこで今回は、注目されることの少ないこれらの散光星雲をばら星雲とセットで捉えることにしました。
まずは、通常の光害カットフィルターであるLPS-D1を用いた撮影結果から。Gain100, 5分露出の撮って出しをASIFitsViewでレベル調整するとこんな感じ。
さすがは東京の街なか。かろうじてばら星雲が分かる程度で、その南にあるはずの散光星雲はほとんど判別不能です。それでも、これを約2時間分集積して処理すると……
ちゃんと星雲が浮かび上がってきました。が、さすがに写りは物足りません。また、本来の狙いとしては、ばら星雲の反射星雲っぽい成分が出てくるかと期待したのですが、東京都心で2時間程度の露出でそれは高望みしすぎだったようです。
そこで、LPS-D1の画像の方は通常通り星の描写のみを生かす方向とし、L-Ultimateを使った写真をベースとすることにします。Gain300, 5分露出の撮って出しを同じくASIFitsViewでレベル調整するとこんな感じ。
さすがにこちらは、写りはバッチリです。これをスタックして各種処理を加えたのち、最後にLPS-D1で捉えた恒星のデータを加えて……はい、ドンッ!
2024年12月27, 29日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D60mm, f200mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -10℃
カラー画像:Gain100, 60秒×120, IDAS LPS-D1フィルター使用
ナローバンド画像:Gain300, 300秒×66, Optolong L-Ultimateフィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsightほかで画像処理
ばら星雲の南側に、想像以上に立派な散光星雲の姿が浮かび上がってきました。華やかな冬の夜空でも「エース級」と言ってしまって差し支えない星雲がすぐ近くにあるせいで、めったに見向きもされない星雲たちですが、目を背けるにはもったいなさ過ぎます。
ばら星雲の南側2.5度ほどのところにあるSh2-280は、40分ほどの広がりを持つ明るく大きな散光星雲です。日本国内では、ばら星雲と絡めて「ばらのつぼみ星雲」などと呼ぶこともあるようですが、たしかに星雲の明るい部分だけに注目して見ると、南西(右下)方向に向いたバラのつぼみのように見えなくもありません。
この星雲を主に輝かせいているのは、星雲中央付近にあるHD 46573というスペクトルO型*3の青い星です。この星雲で面白いのは、HD 46573の周りにバブル状の衝撃波面らしきものが見えることで、カシオペヤ座の「バブル星雲」(NGC7635)を彷彿とさせます。詳しく調べた論文などが見つからなかったので詳細は分かりませんが、おそらくHD 46573から噴き出した猛烈な恒星風が星間ガスにぶつかり、このような構造を作っているのでしょう。
中央のバブル構造や西側(右側)の星雲の濃淡など、形もユニークですし、クローズアップして撮った上で構造に注意して処理するとなかなか面白そうです。
その南東側には、小型の散光星雲Sh2-282が。Sh2-280がバラのつぼみなら、こちらはさしずめ「ばらの花びら」といったところでしょうか。ホンダのバイクのロゴマーク↓みたいな形がユニークです。
この星雲を輝かせているのは、星雲のすぐ左上に見えている明るい星、HD 47432です。この星もO型スペクトルを持つ青色巨星です。
また、そのさらに南東側、写真の左下隅がわずかに明るくなっていますが、これは同じく散光星雲のSh2-284の端の部分がわずかに見えているもの。いずれはこれもきっちり撮影しておきたいところです。
ちなみに、天体名を書きこんだのが以下。
「Cr」で始まるのは、散開星団のカタログである「コリンダー(Collinder)カタログ」のナンバーです。また、中央付近にある「vdB 1」というのは、カナダの天文学者シドニー・ファン・デン・べルグ(Sidney van den Bergh, 1929~)が1957年の論文*4中で言及した散開星団のひとつ。「vdB」というと、同氏がまとめた反射星雲のカタログの方が圧倒的に有名なので要注意です。