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「恋する小惑星」を検証してみた 第8話

桜先輩の問題を扱った第4話~第5話の頃から心理描写が目立っていた本作ですが、今回は実にエモい回でした。元気に突っ走るけど、ときに周りが見えなくなりがちなみら、遠慮がちで困ったことがあっても自分で飲み込んでしまうあお、小さなところに気が付き、細やかな気配りができるイノ先輩……と、それぞれのキャラの特徴がよく出ていました。


最後は急転直下でキマシタワーが建立されそうな勢いでしたが、はてさて、すんなりと事が運ぶでしょうか……?


では、今回も天文ネタを拾っていきましょう。



『へー。驚いたわ。あの子がそんな挑戦を』
みら『ですよね。私も参加してみたかったなー』
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『4年に1回なんてすっごいレア!』
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イノ先輩が地学オリンピックに出場することを聞いて、桜先輩が驚いているシーン。ここでみらが手にしているのは、ポルタII経緯台の微動ハンドルです。


↓の部分(ビクセンウェブサイトより)。


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ポルタII経緯台は「フリーストップ経緯台」といって、手で直接鏡筒をつかんで自由に動かせ、手を離すとピタッと止まるのが特徴ですが、こういう大まかな動き(粗動)のほかに、微動ハンドルを回すことで精密な動き(微動)ができるように設計されています。


もっとも、このハンドルは現在、別売はされていないようです。後ろの望遠鏡を見ると、高度軸、方位軸ともにハンドルがついているので、補修部品としてメーカーから分けてもらったか、あるいは旧天文部の時代に保有していた(かもしれない)望遠鏡架台のハンドルでしょうか?


『気になったらまず調べなさいよ。地学オリンピックとは中高生を対象とした地学の大会で毎年開催』
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『国内の予選・本選を突破した生徒から国際大会に参加する代表が選抜されるの』
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みら『桜先輩詳しいですね~』
『うちの妹も受けるのよ。予選・本選を突破してタイの国際大会に行きたいんだって』
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パンフに見える望遠鏡架台は、配色や構造からしSXD2赤道儀でしょうか。鏡筒はニュートン式反射。ビクセンニュートン式反射というと、現行品ではR130SfR200SSですが、パンフの機種はかなり長さがあるので当てはまらなさそうです*1。プロポーションだけなら、最近まで直販限定で販売されていたR114M*2という線もありますが……。とはいえ、下の方の鏡筒バンド(?)が黒く塗られていたり、いかにもバランスが取れていなさそうだったりするあたり、そもそもの描線のミス*3も考えられるので、結論は出せませんね。


この絵に関しては、むしろ接眼部の位置の方が根本的に気になる部分。赤道儀ニュートン式反射を載せた場合、望遠鏡の向きによっては接眼部が真下を向いたりしてひどく覗きにくくなってしまうことがあります。その場合、鏡筒を固定する鏡筒バンドを緩めて鏡筒を回転させ、接眼部が覗きやすい向きになるよう調整します。しかしこの絵では、見ての通りまったく覗きやすそうではありません。かといって、「初期状態で接眼部が真横」といったような分かりやすい方向を向いているわけでもなく、なんとも中途半端。この作品にしては珍しく機材の描写でアラが出た感じです。*4



さてさて、そういう些末な問題は置いておいて、この「地学オリンピック」。中高生を対象とした実在の大会で、国内で行われる「日本地学オリンピック」と国際大会である「国際地学オリンピック」とに分かれています。ここで話題にしているのは「日本地学オリンピック」の方です。
jeso.jp


ちなみに、この地学オリンピックは、世界中の中高生を対象にした科学技術に関する国際コンテスト「国際科学オリンピック」の一分野です。中でも「国際数学オリンピック」などは有名なので名前を聞いたことのある人もいるでしょう。実は、この枠組みの中に「国際天文学オリンピック」というのもあるのですが、こちらは残念ながら先進国の参加は少なく、日本からも参加することはできません。



話を戻して「地学オリンピック」ですが、2017年の場合、予選の募集期間が2017年9月1日~11月15日、予選が12月17日で、本選が翌2018年の3月11日~13日。そして13日~14日に代表最終選抜が行われ、ここで選ばれた代表が研修や合宿を経たのち、8月8日~17日にタイのマヒドン大学 カンチャナブリーキャンパス*5で行われる「国際地学オリンピック」に参加……という流れになります。


第7話は、子供会の観望会が10月21日で、その後、あおの欠席を挟んでからイノ先輩が受験を決意という流れでしたから、募集〆切の11月15日にはおそらく十分間に合うタイミングだったでしょう。


イノ(今日の私は地学部の代表!気持ちを強く持っていざ!)
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試験当日。イノ先輩が受験に訪れたのは東大本郷キャンパスの弥生門ですね。会場の東大理学部の建物はすぐ近くです。予選の場合、試験会場は各都道府県にあって、埼玉県でも埼玉大学教育学部が会場になっていますが、なぜイノ先輩が東大で受けることになったのかは謎です(^^;


イノ(まずは地質分野の問題ですね。クリノメーターの読み方に地層累重の法則、示準化石。この辺の問題は解いていて楽しいです!)
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地学オリンピックの過去問はこちらで見ることができますが、問の順番や選択肢の文字の違い(①~⑥→ア~オ)はあれど、みな本物の試験問題です。過去問を見ると分かりますが、どれもかなりの難易度で、付け焼刃や学校でちょこっと勉強していた程度ではまるで歯が立たないと思います。


イノ(最後は…天文分野。)
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ここで見えているのは日食と月食の進行方向についての問題ですね。普段これらの現象を観測している人なら直感的に答えられる問題ですが、簡単に解説すると……


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日食は月が太陽を隠す現象、月食は地球の影に月が隠れる現象です。北側から太陽系を見下ろしたとき、月は地球の周りを反時計回りに回っていて、日食、月食の時はそれぞれ上図、下図のようになります。


これを念頭に、地上から各現象を北を上にして観測した場合を思い浮かべると、それぞれ以下のようになるのは分かるでしょうか。日食は月が右側から進んできて太陽を隠し、月食は地球の影に月が右側から突っ込んでいく形になります。


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つまり、②の「日食では太陽の右から,月食では月の左から欠けはじめる。」が正解となります。


イノ『駄目でした~』
みら『え!もう結果が出たんですか?』
イノ『いえ。自己採点してみたらぼろぼろで』
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試験を終えたイノ先輩ですが、自己採点の結果はぼろぼろだったとのこと。とはいえ、問題が恐ろしく難しいので、ある意味当然の結果ともいえます。


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こちらは2017年予選の得点分布ですが、550点満点の試験で平均点が279.82点、最頻値が230点台ですから、地学に興味のある面々が受けても半分程度しか正答できないのが普通、という凄まじさです。予選を受験したのは1903人ですが、このうち本選に進めたのは僅か67人。少なくとも480点近い高得点が必要な計算です。さらに、本選を勝ち上がって代表になれたのはわずか4人という狭き門。こんなのが世界中から集まってきて競うわけですから、本当にとんでもない大会です(^^;



日付変わって、地学部のクリスマス忘年会の日。17日が地学オリンピック予選、25日(月)以降はおそらく冬休みでしょうから、おそらくは12月22日(金)のことでしょうか。


イノ先輩とみらは、パーティーの準備中に文化部のブレーカーを落としてしまい、あおに助けを求めます。あおはデパートでなにやら雑貨を物色中だったようですが……。


あお(ほんとに…みらには元気貰ってばっかり)
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(何かお礼ができるといいんだけど…)
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デザインから見て、おそらくこれでしょう。あとで片方をみらにプレゼントして、ペアで使いそうな気がします(^^;
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そしてパーティー開始!


『ちょっと何その金ピカ?』
モンロー『みらちゃんが貸してくれたの。人工衛星に使われてるサーマルブランケット』
みらJAXA見学の時に買いました!』
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サーマルブランケットは、外部から人工衛星に入ってくる熱を遮断するために使用されるもので、薄いながらも非常に断熱性の高い構造になっています。断熱性が高いので、人が巻くと体温が逃げずに暖かく感じるわけです。


モノとしてはおそらくこれですね。
spacegoods.net



パーティー終了後は屋上で星見です。


みら『お~!視界広~い!』
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学校の屋上は、たいてい電線などの高さより高いですし、ライトアップされていない限り照明が直接差し込むこともないので、星を見るにはうってつけです。吹きっさらしなのでおそろしく寒いでしょうけど。


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22日21時の星図と合わせてみると、この場面、中央付近の明るい星がこいぬ座プロキオンですね。左下にはうみへび座の頭の部分も見えています。


『あれが冬のダイヤモンドね。シリウスにリゲルに…え~と…』
みらアルデバランにカペラ!』
モンローポルックスプロキオン
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冬の大三角と並び、冬の星座の1等星を並べて作る有名な図形(アステリズム)です。


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分かりやすいですし、冬の主な星座をまとめて紹介できるので、星空案内の時はなにかと重宝します。


みら『あ、そうだ!そこにオリオン座のペテルギウスを加えるとグレートGになるそうですよ』
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お恥ずかしながら「グレートG」というのは初めて知りました。こういうことですね。


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どうやら、海外で"Heavenly G"(天空のG)と呼ばれているアステリズムが2000年前後に輸入されたもののようです。その際、"Heavenly"だと分かりづらいということで「グレート」に置き換えられたものかと思いますが……正直、語感が恥ずかしくてあまり普及しなさそうな気がします……というか、事実それほど普及してませんね( ̄w ̄;ゞ *6



そうそう、天文ネタではないですが……


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初詣は「らき☆すた」でおなじみの鷲宮神社*7でしたね(^^; イノ先輩が持っていた地図も、照らし合わせると鷲宮神社周辺のものなので間違いないでしょう。てっきり川越大師や川越氷川神社あたりで済ますのかと思っていましたが、ずいぶん頑張って移動したものです。




※ 本ページでは比較研究目的で作中画像を使用していますが、作中画像の著作権は©Quro・芳文社/星咲高校地学部に帰属しています。また、各星図はステラナビゲータ11/株式会社アストロアーツを用いて作成しています。

*1:R130SfはそもそもSXD2とのセットや鏡筒単体での販売がありませんが

*2:これも鏡筒の単体販売はなかったけど

*3:黒い部分が鏡筒バンドではなく実は主鏡のセルで、そこから下の部分が余計なケース

*4:こんな些細なところを指摘するあたり、相当に意地悪な自覚はあります。

*5:首都バンコクから120kmほど西にあります。

*6:「G」が「黒くて素早い6本脚のアレ」を連想させがちなのも……

*7:2018年1月なので、まだ鳥居は健在です。倒壊するのはこの年の8月11日のことです。