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ナローバンド撮影のピントの話

APTでフィルターホイールを制御してみたけど、フィルター交換で想像していた以上にピントがずれる。自動でほったらかし撮影するわけにはいかないので、なんのための電動かと悩む。オートフォーカサーを導入すれば解決するんだろうか? このままだと電動ホイールはLRGB行きかも。
http://tentaip.seesaa.net/article/454686672.html


「天体写真はじめるよ」のにゃあさんが、ナローバンド撮影における波長ごとのピントのズレについて言及していました。

http://tentaip.seesaa.net/article/454686672.html
http://tentaip.seesaa.net/article/454755700.html

曰く「HαとOIIIとで想像以上にピントがずれる」とのこと。一見、フィルター厚さえ同じなら光路長も変わらないはずで、ピントはきっちり合いそうに思えますが……。今のところ、自分は本格的なナローバンドに手を出すつもりはありませんが、後学のためにも、ここはシミュレーションで確認してみましょう。まともに撮影ができない分、最近はこんな記事ばかりでアレですが……(^^;


使用ソフトはWindows用のフリーのレンズ設計ソフト「LensCal」。これで様々な光学系におけるピント位置を確認してみます。

まずは、にゃあさんが撮影に使用したEDアポクロマート屈折です。屈折望遠鏡の場合、波長によって光の曲げられ具合が異なります。これが現れたのがいわゆる「色収差」で、屈折望遠鏡では避けえない現象です。アポクロマートはこの「色収差」が大幅に軽減されているので、波長によるピント位置のズレも小さくなりそうに思えます。ちょうどプリセットに口径80mm、焦点距離538mm(F6.7)のEDアポクロマートのデータセットがあるので、これを使って検証してみましょう。



追跡する光線はHαに相当するC線の波長656.3nm(赤色)とOIIIに比較的近いF線の波長486.1nm(青緑色)としています。実際にスポットダイアグラムを見てみると……




両者のピント位置はかなり異なります。焦点位置にして、実に0.22mm(220μm)もの差(図中の「deforcus」がd線(波長587.56nm)の焦点位置からのズレを表します)。数字にすると小さく感じますが、スポットダイアグラムを見ればその差は歴然で、ピンボケが気になるのも当然と言えます。

普通のRGB撮影の場合、すべての色のピント位置が連続的にずれるため、写真上では結果的にすべての色が重なった白い丸として星が描写されますが、ナローバンド撮影ではそうしたごまかしが効かないため、影響が表面化する形でしょうか。いかにアポクロマートと言えど、波長ごとのピント合わせは必須のようです。


では、原理的に色収差のない反射系ではどうかというと……純粋な反射系では中心部は無収差なので、こうした問題は生じません。ただし、コマコレクターの類を入れれば多かれ少なかれ色収差は生じるので、特にF値の明るいフォトビジュアルタイプのニュートン反射などの場合は要注意かと思います。


一方、シュミットカセグレンの場合、補正板の屈折力は非常に弱いため、色収差に関しては純反射系に近いと考えていいはず。実際、シミュレーション*1でもピント位置に差はほとんどなさそうです。*2



ただ、レデューサーを噛ませた場合はやはり色収差が発生するはずなので、注意は必要そう。とはいえ、上記のフォトビジュアルニュートンと違ってF値が暗いので、焦点位置のずれには鈍感そうで実用上はあまり問題にならないかもしれません。


一応、適当にアクロマートレンズを組み合わせた、焦点距離を×0.63倍にする「なんちゃってレデューサー」を付けてみましたが、影響は少なそうな雰囲気です。




*1:プリセットにあった、口径200mm、焦点距離2000mmのシュミットカセグレンの場合

*2:青緑色の収束が悪いように見えますが、焦点位置をずらしても全体としてこれ以上収束しないため、ここがピント位置と思われます。