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SLIK、電動雲台「ECH-630」を発表

http://www.slik.co.jp/news/ech-630_201710.html


三脚で有名なSLIKが、赤道儀機能を持った電動雲台「ECH-630」を発表しました。発売は11月10日。

モノ自体は今年のCP+に出品されていたものです。同時に展示されていた2軸微動雲台「SMH-250」が5月に発売されたので、すぐに出てくるのかと思ったのですが、意外にかかった印象です。


特徴としては、ちゃんとしたポタ赤の機能を持ちながらも、本格的なタイムラプス機能も備えているということ*1。改めて調べてみると、タイムラプス撮影に特化したもの(サイトロン「ナノ・トラッカーTL」)や、回転速度がほとんど調節できないもの(ビクセン「ポラリエ」+「タイムラプスアダプター」)はあるものの、意外とこういうタイプの製品はないもので、現在販売されているものとしてはトーストテクノロジー「TP-2」(税抜85000円)やSKYPIXの「AstroLapse-T3」(税抜79000円)*2くらいでしょうか。

赤道儀」と言わずに、あえて「電動雲台」とした意図はこの辺でしょう。


この機種ならではの特徴としては、このほかに「ディスプレイがついていること」、「極軸合わせ用の覗き穴が2つあること」が挙げられます。

ディスプレイは現在の設定を確認するのに便利そうです。操作ボタンの数も減って、本体の小型化に大きく貢献しているのではないでしょうか。*3

極軸合わせ用の覗き穴は大小2つあって、大きい方に北極星を入れてで大まかに合わせたのち、小さい方でさらに精密に合わせこみます。一見いいアイデアっぽいですが、北極星≠天の北極なので、小さい穴で合わせこむことに実用上どこまで意味があるかは、冷静な判断が必要そうな気がします。また、ナノ・トラッカーと同様、本体が小さい分、三脚穴から覗き穴までの距離が短く、覗くのはお世辞にも楽ではなさそうです。


しかし、SLIKといえばケンコー・トキナーグループの一員。同グループには「スカイメモ」シリーズを出しているケンコー・トキナー本体のほか、「ナノ・トラッカー」を出しているサイトロンも含まれていて、ずいぶんたくさんのポタ赤を抱え込むことになります。

下の表に、同グループのポタ赤のスペックをざっと並べてみました。比較対象として、ビクセンのポラリエも並べています。また、SLIKの製品がタイムラプス撮影に対応しているということで、タイムラプス撮影専用のナノ・トラッカーTLも含めました。



こうして並べてみると、SLIKの製品はかなり強気の価格設定です。機能的には最も充実しているともいえるので、その意味ではこの値段も不思議ではないのですが、一方で、赤道儀の要であるウォームホイールをはじめとした駆動部の情報がほとんど公開されていないのが不安なところです。


本体の断面積はスカイメモTに近いので、ウォームホイールの大きさや歯数も同じようなもので、精度も似たり寄ったりではないかという気はしますが、こればかりは実際にモノが出てみないと分かりません。

搭載可能重量は2kg*4と控えめ。数字的にはナノ・トラッカーやポラリエと同クラスです。もっともポラリエの場合、各所の固定ネジを手回しネジにしたことが荷重を制限する要因になっていて、内部機構的にははるかに強いので、同列に扱えない可能性が高いです。本体形状やサイズ的な部分も考えると、機構の強度的にはナノ・トラッカーとスカイメモTの中間くらいじゃないかという気がします。

このほか、目を引くのは駆動時間の長さで、単三電池4本で20時間も動きます。どのくらいの荷重をかけているのかといった測定条件が分からないので鵜呑みにはできませんが、消費電力が大きくなりがちなステッピングモーターを使ってこれなら、なかなか立派な数字のように思います(その分、モーターが非力だったりする可能性もなきにしもあらずですが……)。


ともあれ、推測も交えながらスペックを見比べる限りでは、ポタ赤としては正直割高*5なのは否めないところ。これまで同社に天体撮影機材の実績がないのもマイナスに働きます。そうした点を差し引いてなお、タイムラプス撮影に使えるところに魅力を見出すかどうかが選ぶ基準になりそうです。同じくポタ赤・タイムラプス両用のTP-2との比較で考えれば「より気軽に使えて安い」というのも確かですし……。


以下、個人的な感想ですが……

上の表を見れば、ケンコー・トキナーグループの他のポタ赤とはそれなりに立ち位置が違うのは分かりますし、ちゃんと特徴を分かってもらえれば、限られた市場を食い合うカニバリゼーションは起こさないで済むかもしれませんが……「分かってもらう」のに苦労しそう&分かってもらったところで「ポタ赤+タイムラプス」の1台2役に魅力を感じる層がどれだけいるか……。対象がニッチ過ぎて、かなり難儀な製品のような気がします。

*1:もっとも、この製品は後述のTP-2と同様、シャッターのコントロール機能がないため、シャッターが開いている間もステージは回転し続けます。結果、静止画だとブレが発生することに。用途としては比較的短時間の露出で撮るスタイルや動画に限られます。

*2:こちらはシャッターのコントロール機能がついているため、シャッターの開閉とステージの回転を同期させることが可能です。より本格的な「ポタ赤・タイムラプス両用機材」といえます。

*3:使いやすいかどうかは別問題。

*4:表中にも書きましたが、SLIKのサイトのスペック表では「5kg」と記載されています。しかしモーメント荷重の数字を考えれば「5kg」は誤記と思われます。

*5:SLIKの製品だと普通にカメラ量販店で取り扱われるので、割引率が高くて実売価格が大幅に安くなる可能性はあります。