前回の話題の続きです。
「BORG55FL+レデューサー7880セット」を使う場合、±15〜20μm程度の合焦精度が必要ということが分かりました。では、撮影時のピント合わせの際、このくらいの範囲の違いを識別できるものでしょうか?
そこで、「Maskulator」*1を使ってシミュレートしてみました。
星像の変化
まずは、星像がピント位置によってどのように変化するか見てみましょう。下図がシミュレーションの結果です。左肩の数字はピント位置からのズレを示します。

これを見ると、ピント位置から50μmも離れると*2星像が膨らんでいるのが分かりますが、それ以下の範囲だと目視ではかなり微妙な差しかありません。単に目で星像を見ているだけではピント合わせは不可能です。
では、数字に換算するとどうでしょう?
星のピントを評価するのに、星像のFWHM(Full Width at Half Maximum, 半値全幅)を見る方法がしばしば使われます。星像の明るさの分布は、中心をピークとして周囲に行くにしたがって暗くなっていく形を取りますが、ピークの半分の明るさを示す円の直径がFWHMです。ピントが合っていればいるほど、明るさは中心部に集中するのでFWHMは小さくなるというわけです(下図)。

Fig. FWHMと星像
上段は星像の断面。縦軸は明るさの相対値を示す。
「ピントエイド」を使って、上でシミュレートした各位置での星像のFWHMを調べてみると、以下のようになりました。
ピント位置 | 0μm | 10μm | 20μm | 30μm | 40μm | 50μm |
---|---|---|---|---|---|---|
FWHM | 12.1 | 12.3 | 12.5 | 12.8 | 13.3 | 13.8 |
% | 100.0% | 101.7% | 103.3% | 105.8% | 109.9% | 114.0% |
合焦時のFWHMを100%とすると、30μm離れたところで+6%、50μm離れたところで+14%程度の違いになります。
先日の撮影において、デネブを用いてピント合わせをしようとした時、FWHMは3.3前後でした。ここから計算すると、30μm離れたときのFWHMは+0.2、50μm離れたときのFWHMは+0.5ということになります。
実際の星はシーイングの影響を受けるため、FWHMが常に一定値とは限らず、小数点第一位の数字が揺れ動くのはよくあることです(ライブビューを見ながらピントを合わせる場合)。そう考えると、50μmも離れていればピントのズレは容易に分かるでしょうけど、それ以下となってくると判断自体がかなり難しくなることが予想されます。
バーティノフマスクの使用
星像での直接判断が難しいなら、バーティノフマスクの助けを借りたらどうでしょう?下図がシミュレーションの結果です。

目視でも、40μmのズレくらいまでならなんとか判定できそうです。さらに、「ピントエイド」を使って調べてみると、以下のようになります。
ピント位置 | 0μm | 10μm | 20μm | 30μm | 40μm | 50μm |
---|---|---|---|---|---|---|
指示値 | 0.0 | 0.4 | 0.7 | 1.1 | 1.4 | 1.7 |
ピントエイドの指示値が0.5も1も揺れ動くようなことはまずないので、どうやらバーティノフマスクを使えば、ピント位置を出すことはできそうです。
もっとも、前回も書いたように、それだけの精度でヘリコイドを操作をできるかどうかは別問題ですが……。
*1:開発者のサイトは既に閉められてしまったようで、そこからダウンロードすることはできません。サイト跡地からhttp://www.njnoordhoek.com/temp/Maskulator.zip(リンク先はzipファイル)をDLするか、https://www.dropbox.com/sh/nrobyf41wfbjjj0/AABnAo2lWxB8L5i1AjlVjGoma?dl=0からDLしてください。また、64bit環境では上手く動かないようなので、Maskulatorをインストールしたフォルダにftp://ftp.fftw.org/pub/fftw/fftw-3.2.2-dll64.zip(リンク先はzipファイル)から展開したファイルを上書きしてください。
*2:これとて「M57ヘリコイドDXII【7761】のひと目盛りの半分」に相当する差でしかありませんから、決して大きなズレではありません。