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最近のビクセン製品

ここから下は半ば以上「愚痴」なので、どうしても読みたい方だけどうぞ(^^;


前にも似たような記事を書いた覚えがありますが、最近のビクセン製品はどうも展開がチグハグな印象がぬぐえません。製品仕様がズレていて、ユーザーのニーズを正確に捉えられていないのじゃないかと思うこともしばしばですが、加えて訴求の仕方のまずさも大いにあるのじゃないかという気が、A62SSの記事を書いているうちにしてきました。


たとえば、A62SSは上で書いたように「旅行性能の高さ」こそが最大の利点であると思われるのに、製品ページでの言及はわずか一段落しかありません。そのかわり、鏡筒の作りに関する文章はその数倍。接眼レンズの取り付け部がリングによる締め付け式であるとか、接眼部が回転するとか*1、そんな話はそれほど比重の大きい話ではないはずです。


「APシリーズ」では、販売開始とGP2赤道儀の製造中止がほぼ同時期だったうえ、正式名称を「Advanced Polaris」としてしまったがために、スーパーポラリス赤道儀やグレートポラリス赤道儀、GP2赤道儀の正統な後継という「誤解」が生じています。

赤道儀の能力的には、むしろポラリエの強化版といった位置づけですから、「Advanced Polarie」とでもしておいた方がまだマシだったような気がします。また「ポラリス」にしても「ポラリエ」にしても赤道儀のイメージが強すぎますから、「新発想の星見のツール」ということでまったく新しい系統の名称を付けてもよかったでしょう。


鳴り物入りで登場した「VSD100F3.8」も、傍から見ている限りでは完全に訴求に失敗した類。最大の特長は、F3.8という明るさに加え、645判すらカバーする平坦で均質、広大なイメージサークルにあるはずです。しかし製品紹介ページを見渡しても、これらの特長についての直接的な記載は「クラス最高峰の明るさF3.8を実現するとともに、645判をカバーする平坦な像面を確保」、「良像範囲は直径70mmまで維持(光量約60%)、星像は写野周辺部でも約15ミクロンという、極めて優れた平坦性を実現している。」という2か所のみ。それも、大量の文章の中に埋もれていて、じっくり読まないと目につきません。

その結果、本来は棲み分け可能であるはずのFSQ-106EDと、中心部の星像を比べられる羽目に陥っています。明るいF値と広いイメージサークル全体に渡っての星像の均質性を生かして、淡く大きく広がった対象を35mm判フルサイズ超の大面積のセンサー、フィルムでガバッと捉えるのこそが真骨頂のはずですが、そこがうまく伝えられていない証拠です。


良い製品を作ることは大事ですが、正しい宣伝の仕方をしなければ売れるものも売れません。私自身は研究者で、宣伝とかは正直苦手で大嫌いな部類なのですが、それでも色々と問題を感じてしまいます。

製品に問題がないわけではない

もっとも、事が宣伝方法に限らないあたりが重症なところ。上で挙げた3製品を例にしてみると……


A62SSで言えば、どんどん持ち運んで使ったもらいたいはず鏡筒の割には価格が高く、しかもそれが、アクロマートで高性能を達成しようと4枚玉構成を取ったため、というのでは、あまりに狙いが外れていると言わざるを得ません。性能と価格はトレードオフな部分があるので難しいところではありますが、コンセプトを考えると、光学性能よりは耐久性ないし価格の方に重点を置くべき機種ではないでしょうか?「手を抜かずに良質な像を」というつもりかもしれませんが、そもそもが像面の平坦性や高倍率性能を問題にするような使用スタイルを想定した望遠鏡ではないですし、価格を犠牲にしてまで凝った構造を選択した意図がわかりません*2


APシリーズにしても、凝りすぎたコンセプトが価格の高騰を招いている部分が少なからずあるように思えます。その割に、架台としての性能は使い勝手を含めて中途半端なので、なかなか手を出しづらい製品です。また、色々と組み替えられるといっても、それだけのパーツを買ったら総額いくらになることやら……。ユーセージモデル自体にそもそも無理がありそうな気がします。


VSD100F3.8の場合、一番の「ウリ」であるはずの広大なイメージサークルを生かす場面が、現在ほとんどありません。デジタル撮影で用いられるイメージセンサーとしては、36.9mm四方の面積を持つKAF-16803や、ペンタックス 645Zで用いられている43.8×32.8mmのCMOSあたりが最も大きい部類で、おそらくこうしたイメージセンサーを使わないとVSD100F3.8の良さは生きてきません。しかし、そうしたカメラの稼働実数を考えればその市場規模は推して知るべし。一方で、F3.8の明るさを維持した上でこれだけのイメージサークルを確保するには犠牲も少なからずあったはずで、上記のようなカメラを持っていない層には、むしろデメリットの方がより多く降りかかる形になりそうな気がします*3


これらの事例に共通しているのは、ユーザーが必ずしも望んでいない部分で高機能・高性能化が図られた結果、価格上昇によってターゲットになるべき人たちがかえって手に取りづらくなったり、使い勝手がむしろ悪化したりしているのではないか、という点です。新型極軸望遠鏡のPF-Lなども、この範疇に入れてもいいかもしれません。


こうしたチグハグさは、高付加価値製品に活路を見出そうとする動きが、悪い方に働いた結果ではないでしょうか。製品の価値を高めることは必要ですが、その「価値」はトータルで見たときの「ユーザー体験」が基準であるべき。これを実現するにはユーザーニーズの的確な吸い上げと綿密な分析が必要です。どうもこの数年、出てくる製品がことごとく芯を外しているのを見ると、このあたりの回路ないしノウハウが死んでいるんじゃないかと思わざるを得ません*4


また、簡単に済むはずのものをわざわざ複雑にして高価にするのは「高付加価値化」とは言いません。ただの独りよがりな自己満足です。

「簡単に済ます」ことで、海外製品との低価格帯での殴り合いになることを恐れている*5のかもしれませんが、「強い販路を持つ国内メーカーの製品」ということだけでも十分な強みのはず*6。ぜひその強みが生きているうちに、地に足の着いた製品展開を望みたいものです(もう手遅れかもしれないけど)。

*1:写真特化の鏡筒ならそれなりの意味を持ちますが、眼視が主目的なら比較的軽微な話です。

*2:しかも所詮はアクロマートですし。

*3:もっとも、この製品については技術継承の意味合いが相応に強く、最初から市場性を無視していたと思わるフシもあるので、別格と見てもいいかもしれません。

*4:以前話題にしたSX2赤道儀では、逆にコストダウンと引き換えに必要不可欠な自動導入機能をオミットしてしまったために、使い勝手の致命的な悪化を招いています。結果、STARBOOK TENとのセットが一部ショップで販売されるというオチに。これも具体的なユーセージモデルがちゃんと構築できていれば防げたはずです。

*5:レッド・オーシャンを避けてブルー・オーシャンへ……というところかもしれませんが、青い広大な海と思っていたところが、実は同じ青でもロクに生き物のいない閉塞したカルデラ湖だった、というオチもしばしば見かけるので要注意。

*6:海外製品のOEMであっても、国内メーカーがサポートに責任を持っているというのは大きいです。