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ビクセン、A62SS発表

http://www.vixen.co.jp/product/at/tube/261536.html
5日、ビクセン今年のCP+で発表していた小型軽量のアクロマート屈折「A62SS」の発売を発表しました。発売日は9月8日。口径は文字通り62mmで、焦点距離は520mm(F8.4)です。

フードは伸縮式で、鏡筒長は305〜307mm、重量1.8kg(本体のみ1.5kg)と持ち運びのしやすいサイズになっています。アリガタを兼ねた三脚座が標準装備であること、接眼部がクレイフォード式なのも併せて考えると、郊外や山にサッと持ち出して眼視観望するような使い方を想定しているのだろうと思われます。


光学系については、ビクセンのウェブサイトの情報ではアクロマートとしか書かれていません。しかしこの望遠鏡、元をたどれば台湾のLong PerngのS520M-A相当のOEM品と思われます*1。光学系としてはアメリカOrion社のStarBlast 62mm compact travel refractorともおそらく同じものです。これらのスペックを確認すると、4つの光学エレメントが使用されていることがわかります*2

光路図が見当たらないのではっきりしたことはわかりませんが、これらはおそらく「ペッツバール」や、かつてのビクセン言うところの「ネオアクロマート」に類似の光学系なのではないかと思われます。このタイプの光学系はいずれも、通常の2枚玉アクロマートにフラットナーを付け足したような構造になっています。パワーが4枚のレンズに分散される分、球面収差や像面湾曲が効果的に取り除けるとされており、視野の広い範囲にわたって良像を得やすいのが特長です。

実際、海外のStarBlast 62mm compact travel refractorのレビューをいくつか見る限り、見え味などはなかなか高評価のようです。

問題は価格

しかし4枚ものレンズを使った代償か、価格は鏡筒単体で定価65000円(以下、価格はすべて税抜)と、口径6cmクラスのアクロマート屈折としてはかなり高価格になっています*3。このあたりはポルタIIとのセット価格を見ると明白です。このA62SSとのセットが10万円を超える(定価101000円)のに対し、口径で勝るA81Mとのセットは定価91400円、廉価版のA80Mfとのセットに至っては定価55000円と半額ほどでしかありません。天体望遠鏡において口径6cmと8cmの違いは決して小さくなく、「コンパクトで持ち運びが容易なこと」にメリットを見出さない限り、なかなか正当化しづらい価格差です。


一方、他の製品に目を向けた場合、ミニボーグのラインナップに穴が開いている今、メジャーな販売チャンネルに乗る製品として直接の競合はありません。しかしちょっと目を脇にやると、笠井トレーディングのBLANCA-70ED(D=70mm, f=420mm)が52000円、高価と思われがちな高橋製作所のFS-60CB(D=60mm, f=355mm)でも76500円(ただし鏡筒バンド別)、それどころか同じビクセンが数量限定で販売していたカタログ非掲載のED70SS(D=70mm, f=400mm)が実売価格5万円前後で、これらと比べるとやはり割高と言わざるを得ないというのが正直な感想です。

EDレンズも口径が小さければ昔ほど高価ではないはずです。単純に「天体望遠鏡」というくくりで見るなら、視野周辺部の像が多少劣る可能性があるにせよ、素直にEDレンズを使った2枚玉アポクロマート屈折でよかったのじゃないかという気がします。

A62SSの立ち位置

口径6cmあまりと天体望遠鏡としては非力で、アクロマート屈折としてはお世辞にも安いとは言えない価格。なかなか難儀なこの鏡筒ですが、いみじくもOrionの同等品が「travel refractor」と銘打っている通り、気軽に持ち運び可能な「旅行性能」こそが、この鏡筒の一番の訴求点だろうと思います。

製品の紹介ページを見ると、たしかに「バックパックに収納して旅行などどこへでも持ち出したくなる」との記載はありますが、大半は細々とした鏡筒の作りの話に終始していて、どうもこの鏡筒の長所をアピールしそこなっている感があります。

言葉は悪いですが、どちらかというと「目的を選ばずどんどん持ち運んで使いつぶす」タイプの鏡筒だと思うので、変に高級感を出すよりは、いっそ軽薄なくらいに気軽さ、楽しさを思いっきり前面に押し出した方がよさそうな気がします。


また「天体望遠鏡」として売っていますが、最大の価値は上に書いたように「旅行性能」にあるのですから、むしろ旅行先で使える「多目的望遠鏡」と位置付けて、地上プリズムもセットにしてしまえば使われ方の幅も広がるように思います。


一方、天体望遠鏡という面を訴求するのであれば、せめて4枚玉であることは積極的にアピールすべきでしょう。ただの口径6cmの2枚玉アクロマートがあの値段と思われたのでは、なかなか手を出しづらいと思います。

*1:http://blogs.yahoo.co.jp/fmasa_database/39219095.html

*2:実物でも、対物レンズの飾り環に「4 elements」と刻印されているのを確認しました(2016.10.2追記

*3:実売価格は税抜で58000円前後のようです。